水は、水素と酸素のたった2種類の原子でできている。それなのに、凍り方は1通りではない。冷やす温度や加える圧力を変えると、原子の並び方が変わり、これまでに20種類以上の「氷」が見つかっている。冷凍庫でできる氷は、そのうちのひとつにすぎない。
そこにもう一種、これまで誰も見たことのない氷が加わった。韓国の研究チームが報告した「氷21」だ。
20種類を超える氷の世界
ふだん口にする氷は、専門的には「氷I(アイス・ワン)」と呼ばれる。水分子がきれいな六角形の格子に並んだもので、雪の結晶が六本の腕を持つのもこの並び方のせいだ。ただ、これは自然界の地球でできる数少ない氷のひとつでしかない。
圧力や温度を変えていくと、水分子は別の並び方に組み替わる。深い海の底のような高い圧力、あるいは氷の衛星や氷惑星のような極端な環境では、地球上では見かけない氷が現れる。研究者たちが100年以上かけて、こうした氷の「顔」を一つずつ確かめてきた結果が、20種類以上という数字だ。番号はローマ数字で振られ、氷I、氷II……と続いていく。

室温で見つかった新しい相
今回加わった氷21は、韓国標準科学研究院(KRISS)を中心とする国際チームが見つけたもので、成果は科学誌『Nature Materials』に載った(査読済み)。
変わっているのは、見つかった場所だ。多くの珍しい氷は「うんと冷やす」ことでできるが、氷21は室温のまま、水を一気に押し縮めたときに現れた。圧力はおよそ1.6ギガパスカル。1ギガパスカルは大気圧のおよそ1万倍にあたるので、深海の底よりもはるかに強く押されている状態だ。
もうひとつの特徴は「準安定(じゅんあんてい)」であること。つまり、その条件では本当はもっと安定な別の氷になるはずなのに、氷21は一時的にその姿を保っていられる。すぐに消えてしまうわけではないが、ずっと居座る安定なものでもない、中間のような立ち位置だ。結晶の並び方は「体心正方(たいしんせいほう)」と呼ばれる形で、これまでの20種類以上のどれとも一致しない。つまり、構造の面でもはっきり新顔だった。
凍る「途中」をのぞき込む
氷21が見つかったのは、水が凍る瞬間をコマ送りで見られるようになったからだ。
チームは、髪の毛ほどの小さな空間にごく純粋な水を閉じ込め、2枚のダイヤモンドで挟んで押し縮める「ダイヤモンドアンビルセル」という装置を使った。そこに、世界最大級のX線レーザー(European XFEL)を当てる。X線は超高速カメラのように働き、水の分子がどう組み替わっていくかを、1秒間に何十万回という速さで写し取れる。
すると、意外なことがわかった。水は一気にパチンと凍るのではなく、圧力をかける中で「凍っては融け」を何度も繰り返していた。氷21は、その繰り返しの途中にひょっこり顔を出す相だった。研究チームは、水が凍るときの道すじが一本道ではなく、室温でも少なくとも5通りあることを確かめている。
氷の衛星を知る手がかり
身近な水が、条件しだいでまだ知らない顔を見せる——それ自体が面白い話だが、応用の芽もある。
木星や土星の氷でおおわれた衛星の内部は、高い圧力がかかった環境だ。そこで水がどんな氷になり、どんな道すじで移り変わるのかは、衛星の内部構造や、生命が存在しうるかを考えるうえでの手がかりになる。研究チームは、氷21のような「高温でも一時的に現れる氷」がほかにもあり、その移り変わりの道すじが、氷衛星の成り立ちを読み解く新しいヒントになるかもしれないとみている。
解釈上の留意点
氷21ができるのは、室温とはいえ大気圧の1万数千倍という特殊な高圧下で、しかも水を急激に圧縮したときだけだ。冷凍庫でできる氷や、冬に張る氷とはまったくの別物で、日常のどこかにできるものではない。
また、準安定という性質からわかるように、氷21はその場に永遠にとどまるものではない。あくまで、水が別の氷へ移り変わる「途中」に現れる相として捉えられている。今回の発見で水の凍り方の一端が新たに見えたのは確かだが、氷の世界がこれで解き明かされたわけではなく、まだ見つかっていない相や道すじが残っている可能性も、研究チーム自身が指摘している。
出典・もっと知りたい人へ
元記事(Refractor/旧New Atlas):New type of exotic ice forms at ambient temperatures
研究成果のプレスリリース(European XFEL):European XFEL ニュース
論文は『Nature Materials』に掲載(Lee et al., 2025、DOI: 10.1038/s41563-025-02364-x)。


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