ヒュンダイ(日本での表記はヒョンデ)、起亜(キア)、そして高級ブランドのジェネシス。この3ブランドの電気自動車には「ICCU」という共通の部品が積まれています。これがまれに壊れると、走行中でも段階的に電気が使えなくなり、最後には車が動かなくなる。米国では2024年に20万台を超えるリコールが出され、2026年には各国でこの部品だけ保証が15年に延長されました。それでも「なぜ壊れるのか」「どのくらいの割合で壊れるのか」についての踏み込んだ説明は、メーカーからほとんど出ていません。
その空白を、オーナー自身が埋めようとしています。あるEV6オーナーが立ち上げた「ICCU Observer」は、同じ車台の車に乗る人たちが、自分の車の診断データを記録して持ち寄る取り組みです。壊れたユニットを分解しても分からないのなら、壊れる前の記録を残しておけばいい——飛行機でいうブラックボックスを、自分たちの手で用意しようという発想です。
800Vを12Vに落とす部品
ICCUは Integrated Charging Control Unit の略で、ヒョンデの日本語資料では「統合電力変換ユニット」と呼ばれています。E-GMPというEV専用プラットフォーム(車の基本骨格)を使う車の、後席の下あたりに置かれた液冷のアルミ箱です。中身は大きく2つの回路に分かれています。
ひとつはLDC(低電圧DC-DCコンバーター)。走行用の高電圧バッテリー(400〜800V)の電気を12Vまで落として、車のあちこちに配ります。ガソリン車でいうオルタネーター(走りながら発電して電装品をまかなう発電機)にあたる役目で、ライト、カメラ、ドアロック、画面まわり、そして各種コンピューターまで、12Vで動くものはすべてここに依存しています。最大出力はおよそ1.8kW。
もうひとつはOBC(車載充電器)。自宅や出先の普通充電で入ってくる交流を直流に変えて、走行用バッテリーへ送ります。最大10.9kWで、逆向きにも動かせるため、車から家電へ給電するV2Lもこの回路が担当します。なお急速充電のときは、電気が充電口から走行用バッテリーへ直接流れるので、ICCUの変換回路は通りません。

故障時に車で起きること
報告が多いのはLDC側の故障です。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)へのリコール届出でヒュンダイは、内部のMOSFET(電力を高速でオン・オフするスイッチ素子)が「過渡的な高電圧と熱サイクル」で傷むと説明しています。素子が壊れて短絡すると大電流が流れ、それを止めるために内部のヒューズが切れる。するとICCUは高電圧バッテリーから切り離され、12Vを作る手立てがなくなります。
日本のヒョンデが2024年4月に国土交通省へ届け出たサービスキャンペーンでも、症状はほぼ同じ言葉で説明されています。高電圧から12Vバッテリーへの給電が止まり、警告灯が段階的に点灯して出力が制限される。その後は12Vバッテリーの残量が続くかぎり走れるものの、最終的に走行不能になる、という流れです。
つまり、いきなり全部の電源が落ちるわけではありません。まず後席の下から「パン」という音がして、警告が出て、出力が絞られ、20〜45分ほどかけて12Vが尽きていく。パワーステアリングやハザードが効いているうちに路肩へ寄せる時間はある、というのが報告に共通する経過です。それでも、走行中に「停車してください」と表示され、そのまま積載車で運ばれることになるのは、やはり困った事態ではあります。
リコールと保証延長の経緯
米国では2024年3月に、ICCUのソフト更新と点検・交換を内容とするリコールが出ました。ところが、その処置を受けた車から再び故障の報告が届き、同年11月に対象を広げた2度目のリコールが実施されます。ヒュンダイ・ジェネシス側が約14万5000台、起亜のEV6が約6万3000台、合わせて20万台あまり。届出の時点でヒュンダイは、走行中に出力を失った事例を米国内で618件把握しており、事故やけがの報告はないとしています。
ソフト更新の中身は、LDCが12Vバッテリーを充電し始めるときの立ち上がりを緩やかにして、電圧の跳ね上がりを抑えるというもの。傷むペースを遅らせる方向の対策で、ハードウェアそのものが変わるわけではありません。実際、更新後に故障した例や、交換したICCUがまた壊れた例が各地の掲示板に上がっています。
2026年に入ると、メーカーは保証の延長で応じ始めました。韓国が2025年11月に15年・40万kmへ、欧州と英国が15年・30万km、カナダが15年・29万km、そして4月にヒュンダイと起亜の米国法人が15年・18万マイル(約29万km)へ。いずれも顧客負担なしです。ただしこれは、壊れたときの費用を長く見てくれるという話であって、壊れなくなるという話ではありません。
公表値と調査結果の開き
では、実際どのくらいの割合で壊れるのか。ここがいちばんはっきりしないところです。
メーカー側が示している数字は約1%。リコール対象のなかで、おおむね2000台という計算になります。ただしこれはNHTSAに上がった報告がもとで、オーナーが正式に届け出た故障しか拾えません。
一方、米国の独立した消費者団体であるコンシューマー・リポートが2026年2月に公表した信頼性調査は、別の絵を描いています。38万台超の回答をもとに、ヒュンダイ・起亜のEVオーナーの2〜10%がICCU関連の不具合を経験した、というものです。車種と年式で幅がありますが、同じ2023〜2025年式のほかのEVで充電系のトラブルを報告した人が1%以下だったことと比べると、目立って高い数字になります。
どちらが「正しい」かを外から決めることはできません。数え方が違う以上、そのまま並べて比べられるものでもない。ただ、1%と10%とでは、中古で買うかどうかの判断も、予防策を打つ気になるかどうかも変わってきます。オーナーの側に不満がたまってきたのは、この開きが埋まらないままだからです。
ICCU Observerの仕組み
ICCU Observerを始めたのは、EV6に乗るオーナーです(GitHubでのハンドルは broad-well)。これまで掲示板で交わされてきた根拠は「自分の経験」「近所の販売店で聞いた台数」「掲示板のアンケート」に偏っていて、統計としては弱い、と本人が書いています。アンケートには、そもそも故障を経験した人ほど答えたくなるという偏りもあります。
やっていること自体はシンプルです。E-GMP車のオーナーが、OBD-II端子(車の診断用コネクタ。多くの車で運転席の足元あたりにあります)にBluetoothのアダプターを挿し、「Car Scanner ELM OBD2」というスマートフォンアプリで走行中の値を記録する。それをアップロードすると、匿名化されて公開データセットに加わります。データはGitHubで誰でも取得でき、集計も解析も各自でやれます。

記録するのは、LDCの出力電流や電圧、温度といった、ICCUの働きぶりが直接わかる値です。発案者によれば、走行中のLDC出力は14V前後で30〜40Aが普通に出るとのこと。こうした細かい上下は車の中で常時保存されているわけでも、通信機能でメーカーに送られているわけでもないので、そのつど記録しておかないと後から取り出せません。読み取りに使うアダプター自体の消費は50mA程度で、車への負荷はごくわずかです。
このプロジェクトはもうひとつ、ICCUの部品番号のデータベースも管理しています。地域や年式ごとに20を超える番号が確認されていて、交換で新しい番号のユニットが載った事例も報告されている。ただ、その新しい番号が設計の見直しを意味するのか、単に版が変わっただけなのかは公表されていません。
手元の記録を持ち寄る狙い
発案者が挙げている「こう言えるようになりたい」という例が、この取り組みの狙いをよく表しています。湿気が原因という説を確かめるなら、車内の湿度と故障の起きやすさのあいだに相関があるかを数字で示す。走行距離の影響を差し引いたうえで、2025年式以降の故障率が2022〜2024年式より本当に低いのかを見る。普通充電の出力を11kWから7kWに落とすと、故障までの期間が延びるのかを調べる。
いま掲示板で交わされているのは、「寒い朝にバックしようとしたら壊れた」「うちは暑くて乾燥した土地なのに壊れた」といった個別の証言です。ひとつひとつは本当のことでも、何百件と積み上げないと、どの条件が効いているのかは見えてきません。
壊れたユニットを開けて調べられるのはメーカーですが、壊れるまでの数万kmに車の中で何が起きていたかは、乗っている人しか記録できない。その非対称を埋めようというのが、ICCU Observerの立ち位置です。
受け止めるうえでの留意点
いくつか、はっきりさせておきたい点があります。
まず、これは有志のプロジェクトで、メーカーとは無関係です。集まったデータから何かが証明された段階ではなく、いまはまだ材料をためているところです。
次に、集まり方には偏りが避けられません。アダプターを買ってアプリを設定し、走行のたびに記録する人は、そもそもこの問題に強い関心のある層に寄ります。故障を経験した人ほど参加しやすい、という偏りも残る。参加台数が増えるまでは、出てきた傾向をそのまま「E-GMP車全体の姿」とは読めません。
そして、故障率も原因も未確定のままです。メーカーの約1%も、コンシューマー・リポートの2〜10%も、それぞれ数え方の違う数字で、どちらかが確定値というわけではない。原因についても、リコール届出に書かれた「過渡的な高電圧と熱サイクル」より先の話——なぜ特定の個体だけが壊れるのか、交換後の部品は大丈夫なのか——は、いまのところ有志の推測を含みます。
そのうえで、この取り組みが面白いのは、AIでも専用の新型センサーでもなく、市販のOBDアダプターとスマホアプリという、ありものの道具だけで成り立っている点です。データを持っている側が黙っているなら、自分たちで取ればいい。製品がブラックボックス化していくなかで、使う側に採れる手がひとつ増えた——そういう話でもあります。
出典・もっと知りたい人へ
ICCU Monitor Logs Data In E-GMP EV Failures(Hackaday、2026年7月25日)
ICCU Observer プロジェクトページ(参加方法・部品番号データベース)
サービスキャンペーン(無償修理)実施のご案内/Hyundai Mobility Japan(2024年4月18日・国内向け一次情報)
NHTSA 24V-868 リコール届出書(PDF・故障素子と原因の記載あり)
Hyundai and Kia will extend warranties for cars with ICCU issues(Electrek、2026年4月21日・メーカー声明を掲載)
コンシューマー・リポート調査の要約(Autoblog、2026年2月18日)/元記事はコンシューマー・リポート(会員向け)


コメント