モーターの速い回転を、遅く力強い回転に変える部品を減速機という。自作の世界では歯車を組み合わせた遊星減速機(ゆうせいげんそくき)が定番だが、ここに別方式を持ち込んで、しかも数字を測った人がいる。Advanced Hobby Lab が3Dプリンタで作ったサイクロイド減速機で、実測した効率は92%だった。大半が樹脂という条件を考えると、なかなかの値だ。
減速機が担う役割
ステッピングモーターのような小型のモーターは、速く回るのは得意でも、そのままでは力(トルク)が足りないことが多い。ロボットのアームを持ち上げたり、重い台を送ったりするには、回転を遅くして、そのぶんを力に振り替える必要がある。その役目を果たすのが減速機だ。入力軸を8回まわして出力軸が1回まわるなら「8:1」で、理屈のうえでは力がおよそ8倍になる(実際は摩擦などの損失があるので、そこから目減りする)。
自作で使われる方式で圧倒的に多いのが遊星減速機で、中心の歯車のまわりを複数の歯車が公転する構造をしている。部品点数が少なく、作りやすい。ただ、歯車が噛み合う以上、歯と歯のあいだにはわずかなすきまが要る。このすきまが、回転方向のガタ——バックラッシュとして残る。モーターを止めて逆向きに回すと、出力側が少し遊んでから動き出す、あの感触だ。位置決めの精度が要る用途では、ここが効いてくる。
サイクロイド減速機は、そもそも歯を噛み合わせない方式として知られている。
偏心する円板の転がり
仕組みは、歯車を思い浮かべるとかえって分かりにくい。輪の中で円板が一枚、ぐるぐると振り回されている、と考えたほうが近い。
まず、モーターの軸に偏心(へんしん)カムを取り付ける。軸の中心から少しずらした位置を中心にする部品で、これが回ると、上に載った円板は自転せずに小さな円を描いて振り回される。円板の外周は波打った形をしていて、その外側には、ケースに固定されたピンが等間隔に並んでいる。円板が振り回されると、波の山がピンを次々に押していく。
ここで効いてくるのが、山の数とピンの数をひとつだけ違えておくことだ。今回の設計なら、円板の山が8つ、外周のピンが9本。数が合っていないので、円板は振り回されながら、カムが1周するごとに山ひとつぶんだけ後戻りする。山は8つなので、後戻りする量は8分の1回転。モーターが8回転して、ようやく円板が1回転する——つまり、これが8:1という減速比の正体だ。向きは入力と逆になる。
下の図は、その1回転ぶんを4コマに分けたもの。オレンジ色が円板、外周のグレーの丸が固定されたピン、中央のグレーが偏心カム、内側の青と赤の丸が出力ピンで、赤は動きを追うための目印だ。左端から右端までがカムのちょうど1周にあたる。

上の図で、1コマ目と4コマ目を見比べてほしい。カムは元の位置に戻っているのに、赤い目印だけが45度ぶん動いている。円板の1回転は360度だから、45度はちょうど8分の1。入力を1周させて出力が8分の1しか進まない、という8:1の減速が、そのまま目に見えている。
取り出し方にもひと工夫がある。円板は自転しながら同時に振り回されているので、その中心をそのまま出力軸にはできない。そこで円板にいくつか穴を開け、出力側のピンをそこへ遊びを持たせて差し込む。穴をピンより偏心のぶんだけ大きくしておくと、振り回しの成分は穴の中で吸収され、自転の成分だけが出力に伝わる。図で青い丸が穴の中を泳いでいるのは、この動きだ。
歯が噛み合う場所がないので、バックラッシュが小さくなりやすい——というのが、この方式が一般に売りにしている点になる。ただし今回、バックラッシュそのものが測られたわけではない。方式一般の特性と、この試作品で確かめられたことは、分けて読む必要がある。
実測された効率と静粛性
製作者が確かめたかったのは、「サイクロイド式にした意味が本当にあるのか」だった。作ってみたら動いた、で終わらせず、数字を取りに行ったところに、この試みの面白さがある。
出てきた効率は92%。入れた仕事のうち9割強が出力に届き、残りが摩擦や部品のたわみで熱に化けた、という読み方になる。少なくとも「樹脂で作ったから使い物にならない」という水準ではない。
音についても比べている。ステッピングモーター単体よりは大きくなるものの、同じく3Dプリントした遊星減速機よりは静かだった。歯の噛み合いがなく、ピンを転がすように押していく構造が効いているのだろうが、原因の切り分けまではされていない。
遊星式からの設計変更
この減速機には前身がある。同じ製作者が公開していた、積み重ねられる遊星減速機だ。1段あたり4:1で、段を足していけば減速比を稼げる作りになっていた。今回のサイクロイド式は、それを設計し直したもの。背丈は約20%高くなったが、1つで8:1、つまり2倍の減速比が得られるという説明になっている。
比較の相手が自分の前作である点は、押さえておきたい。市販の金属製ギヤヘッドと並べた話ではなく、あくまで「自作の遊星式から乗り換える価値があるか」を確かめた結果だ。
印刷できない部分を補う金属部品
「3Dプリント製」といっても、全部が樹脂なわけではない。公開されている部品表を見ると、ピンに使う2mm×20mmのダウエルピンが17本、玉軸受が30×37×4mmと10×15×4mmを各2個、あとはM3のネジと熱圧入インサートが2組ずつ入る。

ここは効率の数字を読むうえで見逃せないところだ。ピンが樹脂だと、押される面が削れたり潰れたりして、摩擦も抵抗も一気に増える。金属のピンと軸受を要所に入れているからこそ、92%という値が出ている面はある。
逆にいえば、似た形を全部樹脂で刷っても同じ数字にはならない。実際、別の作者が公開している全部樹脂・すべり軸受のサイクロイド減速機では、効率がおよそ20%だったと報告されている。減速比も設計も測り方も違うので直接の比較にはならないが、同じ「3Dプリントのサイクロイド減速機」でも、部品の作り込み次第で結果が大きく振れることは分かる。
公開されている設計データ
印刷用のデータは Printables で無料公開されていて、CADの元データも Onshape で開けるようになっている。寸法を変えたい、減速比を変えたいという改造も想定して置かれているかたちだ。NEMA 17 は3Dプリンタやリニアステージでおなじみのサイズなので、手持ちのモーターがそのまま使える人も多いはずだ。
非印刷部品も、ダウエルピンと汎用の玉軸受という入手しやすいものでそろう。仕組みを図で追っても今ひとつ腑に落ちないときは、刷って回してみるのが結局いちばん早い。作りながら理解する対象としては、ちょうどいい規模といえる。
解釈上の留意点
受け取り方を、いくつか整理しておきたい。
まず、92%という数字は個人による測定で、条件を統制した試験の結果ではない。入力トルクや回転数、潤滑の有無、慣らし運転の程度といった測定条件は公表されていないので、「この構成で測ったらこう出た」という一件の値として読むのが妥当だ。
比較の相手も限られている。静かだったというのは同じ製作者の3Dプリント製遊星減速機との比較で、減速比も遊星が1段4:1、サイクロイドが8:1と揃っていない。条件をそろえた比較試験ではない点は、頭に置いておきたい。
そしてFDM——熱で溶かした樹脂を積み上げる一般的な方式には、寸法精度の限界がある。元記事も、金属部品を併用したうえでのFDMの範囲内の結果であり、改善の余地は常にあるという書き方をしている。趣味の工作として十分使える、というところまでの話で、市販品と同等という結論ではない。
耐久性についても、いまのところ材料がない。樹脂の部品が長時間の運転でどう摩耗するかは、公開されている範囲では確かめられていない。Hackadayのコメント欄では、外周のピンが外向きの力で広がるのを抑える補強を入れてはどうか、という指摘も出ている。この手の設計は、回し込んでから見えてくるものが多い。


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