初期宇宙にある巨大な銀河のなかには、思っていたよりずっと早く星づくりをやめてしまったものがある。長いあいだ理由がわからなかったこの謎に、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が一つの答えを出した。おだやかに見える銀河の姿の奥に、過去の激しい「銀河同士の衝突・合体」の傷跡がひそんでいた——というのが今回の研究だ。
「早すぎる星形成停止」という謎
JWSTは、赤くなって届く遠くの光をとらえるのが得意で、宇宙のごく初期にある銀河の姿を次々に見せてきた。そこで浮かび上がったのが、二つの意外な事実だ。一つは、初期宇宙の銀河が予想よりずっと重かったこと。もう一つは、そのなかに、すでに星づくりをやめてしまった銀河があったことだ。
星づくりを止めた状態を、天文学では「クエンチング(quenching)」と呼ぶ。かまどの火を消すようなイメージで、燃料が尽きたのではなく、まだ若い宇宙なのに星を作るのをやめてしまった、という点が引っかかる。よく知られた例が ZF-UDS-7329 という銀河で、ビッグバンからわずか20億年ほどで、すでに星づくりを終えていた。これほど早く大量の星を作り、しかもさっさと店じまいしてしまうのは、なぜなのか。
今回の研究チームが目をつけたのは、そうした「星づくりをやめたばかりの銀河」だ。星形成が落ちきった直後の銀河を、ポストスターバースト銀河(PSB=直前まで激しく星を作っていた名残のある銀河)という。研究チームは、宇宙の星づくりが最も盛んだった時代——約90億年前の「宇宙の正午(コズミック・ヌーン)」——の前後にあたる約120個のPSBを選び出した。
星づくりを止める二つの原因
星は、冷たいガスが自分の重みで縮んで生まれる。だから星づくりを止めるには、大きく分けて二つのやり方しかない。一つは、材料であるガスそのものを奪う(もしくは供給を断つ)こと。もう一つは、ガスは残したまま、熱や乱れを注ぎ込んで縮みにくくすることだ。
ガスを奪う道としては、近くの銀河や銀河団との重力のやりとりでガスがはぎ取られる、といった筋書きがある。ガスを熱してかき乱す道としては、銀河の中心にある超大質量ブラックホールの活動(活動銀河核=AGN)が噴き出す風や放射が知られている。ほかにもいくつも候補があり、どれが主役なのかを見分けるのが難しかった。

ウェッブがとらえた合体の傷跡
手がかりになったのは、銀河の「かたち」だった。研究チームは約120個のPSBについて、見た目のゆがみ具合を数値で表す指標を系統的に測った。左右のバランスの崩れ(非対称性)や、なめらかな光の分布を差し引いても残るゆがみ(残留非対称性)などだ。
すると、遠く(=昔)にある重いPSBほど、この残留したゆがみが大きいことがわかった。表向きはなめらかにまとまって見えるのに、その下に、これまで気づかれていなかったレベルの構造の乱れが隠れていたのだ。ハッブル宇宙望遠鏡ではのっぺりと見えて見逃されていた微妙な乱れを、JWSTの深く高解像度な撮像がすくい上げた形になる。
しかもこれらの銀河は、ただ重いだけでなく、とても小さくぎゅっと詰まった球状のかたまりだった。ふつうに星づくりをやめた渦巻銀河(円盤型)に比べても、あきらかにコンパクトだ。そんなふうに星を中心に押し固めるには、おだやかな出来事では足りない。何か激しいことが起きたはずだ、というわけだ。
傷跡が時間とともに薄れていく様子も見えている。星づくりをやめて間もない若い銀河ほどゆがみが強く、時間がたった銀河ほどゆがみが小さい。衝突の傷が数億年かけてならされていく、という描像と合う。研究を主導したノッティンガム大学のデービッド・マルトビー博士は、これらの銀河は表面上は静かに見えるが、ウェッブを使うと過去の“荒事”のかすかな痕跡が見える、と述べている。星づくりが止まる少し前に、別の銀河との合体という劇的な出来事があったらしい、というのが読み取れる中身だ。
観測の方法とデータ
使われたのは、JWSTの大規模撮像計画「PRIMER」による、8つの波長帯(バンド)にわたる深いNIRCam撮像だ。銀河を複数の色で撮ることで、星の年齢のかたよりや塵の影響を切り分けつつ、かたちを細かく調べられる。ここに、地上望遠鏡による長年の観測「Ultra Deep Survey(UDS)」で選び出したPSBの一覧を組み合わせた。さらに約3000個の、ふつうに星づくりをやめた銀河や現役で星を作っている銀河と見比べることで、PSBの乱れがどれくらい際立っているかを確かめている。
二つに分かれるクエンチングの道筋
この観測から、星づくりの止まり方には二つの道筋があることが見えてきた。
一つ目は、遠く(昔)にある重い銀河の道だ。ガスをたっぷり抱えた銀河どうしが激しくぶつかると、ガスが中心に一気に流れ込み、最後の猛烈な星づくりが点火する。作りきれずに残ったガスは、そのとき目覚めたブラックホールの活動(AGN)に吹き飛ばされる。結果として、星の材料を失った、小さく密なかたまりだけが残る。ガスの豊富な銀河の衝突がコンパクトな残骸を生むことは、シミュレーションでも確かめられている。
二つ目は、時代が下って宇宙の星づくりのピークを過ぎたころ、比較的軽い銀河にみられる道だ。こちらのPSBは、コンパクトではあっても円盤のかたちを保っており、激しい合体を受けた形跡がない。小規模な合体や、銀河団のなかでガスをそっとはぎ取られるといった、もっと穏やかな出来事でガスの供給を断たれ、残りを使い切って静かに星づくりを終えたらしい。つまり、初期の重い銀河は「激しい衝突」で一気に、後の時代の軽い銀河は「穏やかな過程」でじわりと——同じ“星づくりの停止”でも、たどった道は一つではなかった、ということになる。
解釈上の留意点
この研究は、王立天文学会月報(MNRAS)に掲載された査読済みの成果だ。ただし、今回わかったのは「かたちに残るゆがみが合体を強く示唆する」ということであり、合体そのものを直接とらえた映像ではない。ゆがみの正体をより確実にするには、星やガスの動き(運動学)まで調べる次の段階が要る、と著者らも述べている。
なお、同じグループの別の研究では、これらの重い銀河について「塵に隠れたブラックホールの活動が主犯ではないか」という可能性を中間赤外線で調べており、その兆候は見つからなかったと報告している。ブラックホール単独ではこのタイプの銀河を止めきれない、という結果は、合体を主役とみる今回の解釈を後押しする材料になっている。とはいえ、すべてのクエンチをこの一枚の絵で説明できるわけではなく、銀河がどうやって“星を作る側”から“作らない側”へ移っていくのか、その全体像はこれから埋まっていく段階だ。
出典
この記事は、以下の情報をもとにまとめた。数値・固有名詞・掲載誌は一次情報で確認している。
The JWST and the Mystery of Massive Quenched Galaxies in the Early Universe(Universe Today)
Webb reveals merger scars in galaxies that stopped forming stars 9 billion years ago(Phys.org)


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