地球のまわりを回る宇宙ごみ(デブリ)を、網で捕まえて大気圏に落とす——。使い古された衛星やロケットの残骸をどう片づけるかという問題に対して、「網」というアイデアはくり返し提案されてきた。中国の研究チームが、その網をこれまでで最も細かく練り上げた構想を発表した。ただの網ではなく、電子部品や形状記憶の材料を仕込んだ「膜」に近いもので、しかも一度使ったら畳んで回収し、次のごみにまた使える、という欲張りな設計だ。
もっとも、論文が示したのはコンピュータ上のシミュレーションまで。実際に作れるかどうかは、まだこれから確かめる段階にある。2026年6月、中国科学院と電子科技大学(電子科学技術大学)の研究チームが、査読誌『Space: Science & Technology』にこの成果を報告した。

増え続ける宇宙ごみ
運用を終えた衛星、ロケットの上段、破片同士の衝突で生まれたかけら。こうした宇宙ごみは、地球の低い軌道を秒速数キロという速さで回り続けている。数が増えるほど、稼働中の衛星や宇宙ステーションにぶつかる危険が高まり、ぶつかればまた新しいごみが増える。放っておくと連鎖的に悪化しかねない、というのが宇宙開発の共通の悩みだ。
そこで注目されているのが、ごみを積極的に取り除く「能動的デブリ除去(ADR)」と呼ばれる考え方。壊れて向きも定まらない相手に近づき、捕まえて、大気圏に引きずり下ろして燃やし切る。言葉にすると単純だが、宇宙空間で暴れる物体を安全につかまえるのは、思いのほか難しい。
回収方式の一長一短
これまでにも回収のアイデアはいくつも出てきた。ロボットアームでつかむ方式は確実そうに見えるが、相手が「つかまれる前提」で設計された協力的な衛星でないと、手をかける場所すら見つけにくい。銛(もり)を打ち込む方式は相手を選ばない代わりに、衝撃で対象を割ってしまい、かえってごみを増やす恐れがある。レーザーで軌道を変える方式は、大きな電力と、相手がどう動いているかの詳しい把握が要る。
その点、網はしくみが単純で、相手の形や向きをあまり選ばない。少し離れたところから投げられるので、暴れる物体に無理に接触しなくてよいのも利点だ。実際、2018年にはイギリス主導の実証衛星「RemoveDEBRIS」が、軌道上で網を放って標的を捕らえる実験に成功している。
ただし網にも弱点がある。いったん広げてしまうと、あとから細かく制御するのが難しい。そして何より、使い回しがきかない。ごみ一つを落とすたびに網ごと専用のミッションを打ち上げていては、費用がかさんで現実的でなくなってしまう。
網と膜を組み合わせた「ネットメンブレン」
今回の構想は、この「使い捨て問題」に正面から向き合ったところが新しい。研究チームが提案したのは、網というより薄い膜に近い「ネットメンブレン(網状の膜)」だ。厚さはわずか10マイクロメートル(1ミリの100分の1)ほどのポリイミド——耐熱性の高いプラスチックの膜に、電子回路や電池の層、そして形状記憶合金(SMA=温めると決まった形に戻る金属)を何層にも重ねている。
キモは、この形状記憶合金だ。膜は捕まえたごみをぎゅっと包み込んで保持し、大気圏へ引きずり下ろす。役目を終えると、形状記憶の性質を使って膜が自分から広がってごみを放し、そのあと折り畳まれて母機の中に収まる。つまり、一度使った膜を回収してまた使える——網の泣きどころだった再利用性を、材料の工夫で乗り越えようという狙いだ。
捕獲までの六段階
論文が描く捕獲の流れは、大きく六つの段階に分かれる。まず、回収用の「追跡衛星」がごみに近づく。次に、折り畳まれた膜の四隅から、ひもでつながれた「弾丸」を撃ち出す。弾丸に引っ張られて膜が広がり、ごみへ向かって飛んでいく。膜がごみに触れると、そのまま包み込んで捕獲する。あとはひもを操って軌道を下げ、大気圏に届く高さまで落とす。最後に、形状記憶合金で膜を開いてごみを放し、膜を折り畳んで次の相手へ——という具合だ。
この一連の動きを、チームはコンピュータ上で細かく再現した。使ったのは「多粒子法(MPM)」という計算手法。膜を格子状の細かい粒の集まりに置き換え、粒同士をばねとダンパー(振動を抑える部品)でつないで、伸び・ずれ・曲がりといった変形をまとめて扱えるようにした。従来よく使われる有限要素法などは計算が重くなりがちで、こうした薄くて大きく変形する膜の動きを追うには向かなかった、というのが手法を変えた理由だ。
シミュレーションで探った最適条件
数値実験からは、うまく捕まえるための条件がいくつか見えてきた。まず弾丸を撃ち出す角度。狭すぎる(15度)と膜がうまく開かず、広すぎる(75度)と届く距離が縮む。ちょうどよいのは30度あたりだった。撃ち出す速度を上げると膜の届く距離は伸び、秒速25メートルで有効距離はおよそ1.66〜4.23メートルに達した。
捕獲そのものも、止まっている球形のごみ、回転している球形のごみ、回転している多面体のごみの三通りで試し、いずれも捕まえられたという。気になるのは膜にかかる力で、捕獲距離が2メートルのとき、進行方向に最大3374ニュートン(約340キロ重に相当)もの衝撃がかかった。ただし距離を3メートルまで離すと、この力はおよそ半分に下がる。さらに、回転するごみを捕らえたときには、膜との摩擦がブレーキになって回転が止まる効果も確認された。暴れる相手を落ち着かせながら捕まえられる、というわけだ。
実用化に向けた課題
もっとも、これはあくまでシミュレーション上の話だという点は、読み違えないようにしたい。厚さ10マイクロメートルの膜に3374ニュートンもの力がかかって耐えられるのか、というのは正直、かなり厳しい要求だ。しかも膜には電子回路や電池の層まで織り込まれていて、それらは丈夫さのために入っているわけではない。
加えて、今回の計算は現実の宇宙環境を簡略化している。太陽の光が膜を押す圧力(太陽放射圧)や、わずかに残る大気の抵抗といった、実際のデブリ回収では効いてくる要素は考えに入れていない。理論上うまくいくと示すことは第一歩ではあるが、こうしたハイブリッドな膜が実際のミッションに使われるまでには、おそらく数年、あるいは数十年かかるだろうと見られている。
それでも、宇宙ごみという厄介な問題には、手立てが多いに越したことはない。ロボットアームや磁石を使う方式なども並行して試験が進んでいて、選択肢が増えるほど、状況に応じた使い分けができるようになる。網は古くからあるアイデアだが、材料と計算の進歩で、また一歩前に進んだということだ。
出典
S. Yu, J. Liu & P. Zhao, “Dynamic Modeling of a Net-Membrane Capture System with Combined Deformation for Space Debris Removal,” Space: Science & Technology, 2026.
論文(DOI: 10.34133/space.0340)
Beijing Institute of Technology Press プレスリリース(EurekAlert!)
Universe Today による解説記事


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