太陽系の外から迷い込んできた彗星「3I/ATLAS(スリーアイ・アトラス)」を、地上の大きな望遠鏡で細かく分析した結果が出ました。その化学組成をたどると、この彗星は太陽よりずっと年老いた星の、しかもその外れのあたりで生まれたらしい——という話です。太陽系の外で生まれた彗星について、こういう成分の測り方ができたのは初めてだといいます。
太陽系の外からやってきた三例目の天体
わたしたちが知っている彗星のほとんどは、太陽のまわりで生まれた、いわば太陽系の身内です。ところが3I/ATLASは違います。どこか遠くの星のそばで生まれ、長い旅の末にたまたま太陽系を通りかかった「よそ者」——星間天体(せいかんてんたい)と呼ばれるものです。
こうして見つかった星間天体は、これまでにたった3つ。2017年の1I/オウムアムア、2019年の2I/ボリソフに続く3つ目が、この3I/ATLASです。前の2つは、片方はガスがほとんど出ておらず、もう片方は暗すぎて、詳しい成分を測るのが難しいままでした。その点3I/ATLASは、これまでの星間天体の中でずばぬけて明るく、腰を据えて調べられた。今回の成果も、この明るさがあってこそでした。
化学の指紋が指し示す形成環境
研究チームがたよりにしたのは、「同位体比(どういたいひ)」という手がかりです。同じ元素でも、中性子の数が少しだけ違うきょうだいのような原子(同位体)があり、その混じり具合は、その物質がどんな温度や環境で作られたかによって変わります。しかも一度決まった比率は、彗星が宇宙を旅するあいだもあまり変わらない。だから、いま測った比率から「どんな場所で生まれたか」をさかのぼれる、というわけです。
チームは、彗星のまわりに漂うガスの中のシアン化合物(炭素と窒素が結びついた分子)に注目し、炭素と窒素それぞれの同位体の比率を測りました。すると、太陽系の彗星ではまず見ないほど、炭素も窒素も「重いほうの同位体が少ない」偏った比率が出てきた。報告された値は炭素の比(12C/13C)でおよそ151、窒素の比(14N/15N)でおよそ363で、太陽系の彗星より目立って高い数字です。
この偏りが指し示すのは、金属の乏しい古い星、という生まれ故郷でした。ここでいう「金属」は天文学の言い方で、水素とヘリウムより重い元素全般をまとめてこう呼びます。それが少ない星は、宇宙がまだ若くて元素の顔ぶれも乏しかった時代にできた、古参の星だと考えられます。つまり3I/ATLASは、そんな年老いた星の、しかも中心から離れた外縁のあたりで凍りついてできた——それが今回たどり着いた答えでした。
シアン化合物の同位体比という物差し
観測に使われたのは、南米チリにあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTと、そこに取り付けられた分光器UVESです。彗星が太陽に最接近したあとの2025年12月上旬から下旬にかけて、彗星のまわりのガスが出す光を波長ごとに細かく分け、シアン化合物が放つかすかな輝きの中から、重い炭素・重い窒素のわずかな痕跡を読み取りました。

同位体比が便利なのは、いわば消えにくい「生まれの刻印」だからです。彗星が何十億年と宇宙をさまよっても、この比率はあまり書き換わらない。だからこそ、遠い惑星系の情報を、いま目の前を通り過ぎていく一個の彗星から引き出せます。
別の惑星系をのぞく窓
おもしろいのは、同じ結論に別々のチームが別の方法でたどり着いていることです。先月にはNASAゴダードのチームが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使って、よく似た炭素の比率と、重い水素(重水素)が多いことを報告していました。さらにアルマ望遠鏡による観測でも、太陽系の彗星より重い水(重水素をふくむ水)が多いという結果が出ています。宇宙の望遠鏡と地上の望遠鏡が、それぞれ別の分子を手がかりにしながら、どれも「太陽よりずっと古い、冷たい環境で生まれた」という同じ方向を指している。ここに今回のVLTの結果が加わった形です。
年齢の見積もりも、化学組成と、銀河の中をどう動いてきたかという軌道の両面から迫られています。複数の証拠を合わせると、3I/ATLASは太陽(およそ46億歳)の2倍以上は古いとみられ、銀河の化学進化のモデルと突き合わせると、最大で120億年ほど前——宇宙が生まれてそう時間が経っていないころにできた可能性まで出てきます。自分たちの太陽系が影も形もなかった時代の、よその惑星系のかけら。それを間近で調べられるのが、この彗星のありがたさです。
解釈上の留意点
とはいえ、これは「太陽より古い星の外縁で生まれた可能性が高い」という推定であって、生まれ故郷を直接見届けたわけではありません。年齢も一つに定まった数字ではなく、幅のある見積もりです。3I/ATLASは太陽から遠ざかりながらどんどん暗くなっていて、VLTでの観測もそろそろ限界を迎えます。ただ、建設が進むESOの次世代望遠鏡ELT(極大望遠鏡)が動き出せば、もっと暗い星間天体でも同じように成分を測れるようになる見込みです。次にまた別の一個が見つかったとき、新しい驚きがある——研究者たちはそう話しています。
出典・参考リンク
ESO(ヨーロッパ南天天文台)プレスリリース:Older than the Sun: Astronomers find new clues to the origin of interstellar comet 3I/ATLAS(2026年7月6日)
論文(Nature Astronomy、査読済み):High nitrogen and carbon isotopic ratios in the interstellar comet 3I/ATLAS(本文は有料の場合あり)


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