同じ惑星なのに、夜明けの側と夕暮れの側で空模様がまるで違う——そんな観測結果が出ました。舞台は地球から約880光年先にある灼熱のガス惑星、WASP-121 b。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、この惑星の「朝の縁」と「夕方の縁」を別々に測り分け、温度も大気の成分も揃っていないことを突き止めました。ドイツのマックス・プランク天文学研究所(MPIA)のシリル・ガップさんたちの研究で、2026年6月10日に Nature Astronomy に載っています。

潮汐ロックがつくる二つの境界
WASP-121 b は「ウルトラホットジュピター」と呼ばれる種類の惑星です。木星と同じくらいの重さ(木星の約1.16倍)なのに、恒星のすぐそばを回っているせいで熱で膨らみ、半径は木星の1.75倍ほどになっています。主星との距離は、その星の直径の1.9個分。1周にかかる時間はわずか1.27日、およそ30時間です。
これだけ近いと、恒星の重力が惑星の自転にブレーキをかけ、やがて自転周期と公転周期が一致します。地球から見た月がいつも同じ面を向けているのと同じ状態で、潮汐ロック(潮汐固定)といいます。結果としてWASP-121 b には、恒星をずっと向いている昼側と、宇宙の闇をずっと向いている夜側ができました。共著者のトム・エバンス゠ソーマさんによれば、昼側の平均気温はおよそ2770ケルビン(約2500℃)、夜側は1000ケルビン(約725℃)ほどです。
ここで注目したいのが、昼と夜のあいだにある細い帯です。地球でいえば、ちょうど朝焼けの線と夕焼けの線にあたります。天文学ではこれをターミネーター(明暗境界線)と呼びます。惑星は自転しているので、この2本の線は同じではありません。公転の進行方向の先頭側が「朝」、後ろ側が「夕方」になります。
夕暮れ側と夜明け側の違い
JWSTのデータが示したのは、夕方側のほうが星の光をより多く吸収している、という非対称でした。これは、昼側で熱せられた大気が惑星の自転と同じ向き(東向き)に流れ、熱を夜側へ運んでいるという描像と噛み合います。強い風がまず通り抜けるのが夕方側なので、そこは高温になる。温まった大気は上に膨らむので、惑星の「影」としての断面積が大きくなり、星の光をよけいに遮る、というわけです。
成分の見え方も揃いませんでした。近赤外線分光器 NIRSpec のデータでは、透過の終わりに近づくにつれて一酸化炭素(CO)の信号が強まりました。ただしこれは分子の数が増えたのではなく、温度が上がったことによる見え方の変化だと研究チームは解釈しています。いっぽう水(H₂O)の信号は減っていて、こちらは実際に水分子が減っていると考えられました。上空の温度が高すぎて、水分子が水素と酸素にばらばらに壊れてしまうためです。
つまり、夕方側では熱風が吹き込んで温度が上がり、その熱で水が壊れている。理論計算では以前から予想されていた姿が、はじめて観測として押さえられたことになります。
自転を利用した観測手法
やっかいなのは、系外惑星の姿を直接「見る」ことはできない点です。この研究で使われたのはトランジット法——惑星が主星の前を横切るあいだ、星の光の一部が惑星の大気を通り抜けてくるので、その光を分光して大気の成分を読み取る、という手です。
ここに一工夫が加わりました。WASP-121 b は主星に近すぎるせいで、惑星が星の前を通過している短い時間のうちに、自分自身が約30度ぶん回ってしまいます。つまり、通過の始まりと終わりでは、こちらに向けている経度が違う。これまでは通過の全体を平均してひとつのスペクトルにするのが普通でしたが、ガップさんたちは信号の時間変化をあえて残したまま解析しました。統計的に調べたところ、時間変化を許したほうがデータへの当てはまりが明らかに良く、変化が本物だと判断できたわけです。
惑星が自転してくれるおかげで、経過時間がそのまま経度の目盛りになる。望遠鏡の分解能では到底届かない細かさで、大気を経度ごとに調べられたのはそのためです。

モデルとのずれと雲の可能性
観測と理論が完全に一致したわけではありません。研究チームが大気の熱の配り方をシミュレーションしたところ、非対称が生じること自体は再現できたものの、実際のデータのほうが振れ幅が大きく出ていました。モデルが取りこぼしている何かがある、ということです。
候補として挙がっているのが、朝側の雲です。ただし水滴の雲ではなく、ケイ酸塩などの鉱物が固まってできた雲。こうした雲は、下の高温層から出てくる赤外線を遮ってしまうため、実際より温度が低いかのように見せかけます。雲の凝結と蒸発を動く大気のなかで扱うのは計算がとても難しく、系外惑星の大気モデルでは雲を省くことが多い——今回使われたモデルもそうでした。雲の効果をざっくり入れて計算し直すと、結果は観測に近づいたそうです。ただし雲が本当にあると言い切るには、もっと精密なモデルが要ります。
惑星の気象学への意味
これまでの観測は、朝側と夕方側をひとまとめにした「平均の大気」しか見られませんでした。今回はそこを2つに分けて測れたので、大気の循環が熱をどれだけ運んでいるかを、間接的にではあれ直接的な形で押さえられたことになります。系外惑星の研究が、「どんな成分があるか」から「どう動いているか」へ一歩進んだ、と言えそうです。
研究チームはすでに、同じ手法が使えそうな別の惑星の目星をつけています。温度と自転の速さが条件に合う灼熱ガス惑星をいくつか調べていけば、こうした朝夕の非対称がどの惑星にも共通なのか、それとも個体差が大きいのかが見えてきます。1個の変わり者の話ではなく、比べられる「気象学」になっていくかどうかは、そのあたりで決まるはずです。
もうひとつ、遠回りな効きどころもあります。潮汐ロックした惑星は、赤色矮星のまわりの岩石惑星にもたくさんあると考えられていて、生命が住めるかどうかを議論するときの主役でもあります。そうした惑星でも朝側と夕方側が違う顔をしているなら、平均だけを見て大気を判断すると読み違える恐れがある。今回のような測り分けの技術は、そこで効いてきます。
解釈上の留意点
- WASP-121 b は昼側が2500℃に達する極端な環境の惑星で、生命が住める場所ではありません。今回の結果は「気象」の話であって、居住可能性の話ではありません。
- 朝側の雲は、モデルと観測のずれを埋める有力な説明ではあるものの、まだ確認されていません。存在を判定するには、雲を扱えるより高度なモデルが必要だと研究チーム自身が述べています。
- 今回の観測は1つの惑星についてのものです。他の灼熱ガス惑星でも同じ非対称が出るかどうかは、これからの観測待ちです。
- 温度や成分は、大気を通ってきた光から間接的に推定した値です。直接測ったわけではないので、モデルの前提が変われば数値も動きえます。


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