MRIは、体を切らずに中をのぞける装置として、いまの医療に欠かせない。それでも、どうしてもきれいに写せない場所が残っている。眼球とそのまわりの眼窩(がんか=眼が収まっている骨のくぼみ)、そして脳の奥のほうだ。
ドイツのマックス・デルブリュック分子医学センターの研究チームは、この弱点を、スキャナー本体ではなく「アンテナ」の側から攻めた。電波を出し入れする部品にメタマテリアル(人工的に設計した微細構造)を組み込んだところ、同じ装置のまま、眼から返ってくる信号が最大で5割ほど強くなった。装置を丸ごと入れ替えずに、体に当てる部品を替えるだけで画質が上がる——それが今回の成果だ。論文は2026年2月、学術誌『Advanced Materials』に掲載された。査読済みの研究になる。
MRIが苦手とする眼と脳の奥
MRIは、強い磁場をかけた状態で体に電波を送り込み、組織から返ってくる電波を拾って画像を組み立てる。返ってくる信号が強いほど、画像は細かく、はっきりする。
ところが眼と眼窩は、MRIにとってかなり厳しい相手だ。細かい構造がぎゅっと詰まっているので高い解像度が要るのに、写す範囲そのものは小さい。しかも顔の表面に近く、形も複雑だ。脳の奥の構造も、深いところから弱い信号を拾わなければならないという意味で難しい。
この難しさの原因は、スキャナー本体の性能ではなく、電波の送受信を担う部品——RFコイル(アンテナ)にある。ふつうのループ型コイルは、深い場所や入り組んだ場所から十分な信号を集めきれない。結果として画像が甘くなり、撮り直しや長い撮影時間につながる。
アンテナに仕込まれた人工構造
研究チームが持ち込んだのがメタマテリアルだ。電波の波長よりずっと小さい単位構造(ユニットセル)を規則正しく並べることで、自然の材料にはない電磁的な振る舞いをさせる人工材料のことをいう。
今回作られたのは、MTMAと名づけられたメタマテリアル一体型のRFアンテナ。1枚の基板の表と裏を使い、片面に2チャンネルのループアンテナ、もう片面にメタマテリアルの層を載せた二層構造になっている。メタマテリアル層は、切れ目の入った四角いリング(スプリットリング共振器)を改造したユニットセルを5×8の格子状に並べたもので、7テスラのMRIが使う周波数(約297メガヘルツ)にぴったり共鳴するよう設計されている。
この共鳴した層がすぐそばのループアンテナと近接場で結合し、電波の場を効率よく導いてくれる。ループコイルにメタマテリアルの板を「貼り足した」というより、両方が一体で動く一つのアンテナになる、という設計だ。
実際には2種類が作られた。平らな平面型(プレーナー型)と、真ん中で90度折り曲げて顔の形に沿わせた屈曲型(ベンド型)。平面型は後頭部に当てて視覚をつかさどる後頭葉を、屈曲型は眼の上に載せて眼と眼窩を撮るのに使う。比較のために、メタマテリアル層を持たない同じ形のふつうのループコイルも同時に作られた。

模型と実機で測った性能差
まず人体を模した模型(ファントム)で、電波をどれだけ効率よく送り込めるかを比べた。平面型では、メタマテリアル入りのほうが送信効率で13〜21パーセント高い。屈曲型でもおよそ20パーセントの上乗せがあった。
差がはっきり出たのは受信側だ。頭の形をしたファントムで測ると、平面型のメタマテリアルアンテナは、ふつうのループコイルに比べて受信感度が断面の向きによって94〜132パーセント高くなった。ざっくり言えば、拾える信号が約2倍になっている。屈曲型のほうは受信信号でおよそ30パーセント上回った。
送信効率が2割、受信感度が2倍。この非対称な数字は、メタマテリアル層が「電波を送り込む」よりも「返ってきた微弱な信号を拾い上げる」ほうで、より効いていることを示している。
ボランティアの眼で確認された信号増加
模型の次は人だ。健康なボランティア3人の眼と眼窩を、7テスラの全身用MRIで撮影した。屈曲型のメタマテリアルアンテナと、比較用のふつうの屈曲型ループコイルを、それぞれ眼の上に置いて撮り比べる。
眼球内から得られる信号は、3人の左眼で51、28、25パーセント、右眼で27、26、29パーセントの増加が確認された。数字にばらつきがあるのは、顔の形や当て方によって条件が変わるためだが、全員・両眼で信号が増えたという方向は一致している。
さらに、網膜に血管腫のあるボランティア1人も撮影された。治療から16日後の7テスラMRIでは、治療によって組織が変化した領域が2つのかたまりとして写った。加えて、撮影中に副鼻腔の嚢胞(のうほう=液体のたまった袋)という、予定していなかった所見まで見つかっている。眼窩の外側、鼻の奥の空洞や前頭葉の下のほうまで見えていたということで、これは診断上の利点になる。
安全性の検証
体に電波を当てる以上、発熱の問題は避けられない。特に眼は電気を通しやすく、熱がこもりやすい部位として知られている。
研究チームは、4種類すべてのアンテナについて、電波の吸収量(SAR)が国際規格の上限を十分下回ることを計算で確認した。そのうえで、最もSARが高かった屈曲型メタマテリアルアンテナについては、MRIによる温度計測と光ファイバー式の温度センサーで実測している。入力10ワットで30分当て続けると温度は約1.5度上がったが、実際の撮影に使った5ワットでは上昇は0.5度未満に収まった。
既存装置に後付けできるという価値
この研究でいちばん実用的なのは、新しいスキャナーが要らないという点だ。MTMAは既存のMRI装置にそのまま接続して使える。数億円規模の装置を入れ替えるのではなく、体に当てる数百グラムの部品を替えるだけで済む。
信号が強くなることの意味は、画質が上がるだけにとどまらない。同じ画質でよければ、余った信号の余裕を撮影時間の短縮に振り向けられる。MRIの撮影は長く、狭い筒の中でじっとしているのは楽ではない。撮り直しが減り、1回が短くなるなら、それは患者にとって直接の利益になる。
研究チームは今後、複数の病院が参加する大規模な臨床研究の準備を進めるとしている。アンテナの形を変えれば心臓や腎臓にも応用でき、水素以外の原子核(ナトリウムやフッ素)を見る特殊なMRIの画質改善や、体内に入れた医療機器のまわりの余計な発熱を抑える用途、腫瘍を熱で叩く治療の精度向上にもつながる可能性がある、というのが著者たちの見立てだ。
解釈上の留意点
いくつか、割り引いて読んでおきたいところがある。
まず、使われたのは7テスラの超高磁場MRIだ。日本の病院で一般的に動いているのは1.5テスラや3テスラの装置で、7テスラは研究色の強い、ごく限られた施設にしかない。今回のメタマテリアル層は7テスラの周波数に共鳴するよう寸法を決めてあるので、そのまま3テスラの装置に付け替えられるわけではない。他の磁場強度に合わせて設計し直せるはず、というのは著者らの見通しであって、まだ示された結果ではない。
次に、人での検証は健康なボランティア3人と患者1人という規模だ。技術が動くことを示す段階の研究であって、診断精度が上がることを臨床的に証明した段階ではない。
そして「撮影が速くなる」という話。プレスリリースにも論文にも、撮影時間が何パーセント短くなったという具体的な数字は出てこない。示されているのは信号強度と送信効率の向上であり、時間短縮はそこから引き出せる「使い道」の一つだ。実際にどれだけ短くできるかは、これからの臨床研究で確かめられることになる。
出典
Nandita Saha ほか「Metamaterial Antennas Enhance MRI of the Eye and Occipital Brain」Advanced Materials, 2026年(オープンアクセス)
https://doi.org/10.1002/adma.202517760
ScienceDaily(マックス・デルブリュック分子医学センターの発表による)
New MRI breakthrough reveals the brain and eye like never before
Physics World(研究内容の詳しい解説)
Metamaterial antennas enhance MR images of the eye and brain


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