火星に残っていた「隕石の雨」の記録、パーサヴィアランスが40億年前の地層を発見

科学・宇宙
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火星で探査を続けるNASAの探査車パーサヴィアランスが、めずらしい「記録」を掘り当てました。約40億年前、太陽系のあちこちに隕石が降り注いでいた時代の痕跡が、厚さ75メートルの層状の岩盤としてそっくり残っていたのです。場所はジェゼロ・クレーターの縁。探査チームが「ブルーム・ポイント」と名付けたこの地層は、火星の探査車がこれまで調べたなかでも最も古い部類の地形で、地球ではとっくに消えてしまった太陽系初期のようすを教えてくれる、貴重なタイムカプセルになっています。

ジェゼロ・クレーターの縁で見つかった地層

パーサヴィアランスは2021年にジェゼロ・クレーターの内側に着陸し、かつて湖だったクレーターの底や、川が土砂を運び込んでできた三角州を調べてきました。そして2024年の終わりにクレーターの西側の縁を登りきり、クレーターの「外」の探査を始めています。ここからが、今回の発見の舞台です。

クレーターの縁ということは、そこにある岩は、ジェゼロ・クレーターができるより前からあった岩です。つまり探査車は、クレーターの歴史よりさらに昔の火星を調べられる場所に立っていることになります。今回の研究成果は2026年7月15日に学術誌『Journal of Geophysical Research: Planets』で発表されたもので、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者を中心とするチームがまとめました。

調べたのは「ブルーム・ポイント」と呼ばれる、厚さ75メートルの層状の岩盤です。この地層は39億年より前にできたとみられていて、探査車が直接調べた火星の地形としては、最も古い部類にあたります。

岩に残っていた衝突の証拠

探査車の観測機器で調べたところ、ブルーム・ポイントには6種類のはっきり区別できる岩石が、層になって積み重なっていました。目立つのは「角礫岩(かくれきがん)」と呼ばれる、角ばった岩のかけらが寄せ集まって固まった岩石で、細かくすりつぶされた岩の粉の層と交互に重なっています。

角礫岩の中のかけらをよく見ると、ガスの泡が抜けた穴がぽつぽつと残っていました。これは、そのかけらが一度ドロドロに溶けていた証拠です。さらに層の中からは、小さくて黒いガラスの粒がいくつも見つかりました。ガラスの粒は火山でもできますが、これほど大量にできることはめったにありません。そこで有力になるのが、隕石の衝突です。天体が高速でぶつかると、その瞬間のエネルギーで岩が溶け、飛び散ったしずくが冷えてガラスの粒になります。

しかもこのガラス粒、大きいものは地球のチクシュルーブ・クレーター——恐竜絶滅のきっかけになったとされる、あの巨大衝突の跡——から飛び散った粒に匹敵するサイズでした。ブルーム・ポイントの岩は、それだけ大規模な衝突の産物を含んでいることになります。

1回ではなく「何度も」降った

興味深いのは、こうした衝突由来の岩石の組み合わせが、75メートルの厚みの中で何度も繰り返し現れることです。これは、大きな衝突が一度あったのではなく、この地域で高エネルギーの衝突が繰り返し起きていたことを示しています。

論文の筆頭著者であるインペリアル・カレッジ・ロンドンの大学院生アレックス・ジョーンズさんは、それぞれの岩の層は、大きさの違う衝突がさまざまな距離で起きた記録だと説明しています。遠くで起きた大きな衝突もあれば、近くで起きた小さな衝突もあり、その破片がすべてこの場所に降り積もって、分厚い地層を築いていったというわけです。ジョーンズさんはこの時代の火星について、空から降ってくるのは雨や雪ではなく、衝突で巻き上げられた溶けた岩のしずくと岩の粉だった、とも表現しています。文字どおり「隕石の雨」が日常だった時代の積み重ねが、この地層なのです。

また、層の一部には水や氷とかかわった形跡もあります。いくつかの層は、地面を這うように高速で流れる土石流のような流れでできたように見えるとのこと。地球では、溶けた岩が水や氷に触れて一瞬で水蒸気に変わると、こうした流れが起きることがあります。当時のこの場所に水か氷があった可能性を示すヒントで、生命探しを主目的とするパーサヴィアランスにとっても気になるポイントです。

ほぼ垂直に傾いた層が語る「ワンツーパンチ」

ブルーム・ポイントの層には、もうひとつ奇妙な特徴があります。一部の層が80度以上——ほぼ垂直に傾いているのです。積もったときは水平だったはずの層がここまで立ち上がるには、よほどのことが起きたはずで、ジェゼロ・クレーターを作った衝突だけでは説明がつかないほど急だといいます。

研究チームが考えているのは、2発の衝突が続けて起きたシナリオです。まず巨大な小惑星が衝突して、直径1,900キロメートルにもなるイシディス盆地——火星でも最大級の衝突盆地——ができ、このときに平らだった地層が持ち上げられて傾きました。その後、別の小惑星が衝突して直径45キロメートルのジェゼロ・クレーターができ、すでに傾いていた岩をさらに砕いて押し上げ、いま探査車が見ている姿になった、という流れです。

地球では失われた時代の記録

ここで効いてくるのが、火星と地球の大きな違いです。地球にはプレートテクトニクス、つまり地殻の板が動いて沈み込み、地表を作り替え続けるしくみがあります。おかげで地球の最初期の地質記録は、砕かれ、変形し、ほとんど消えてしまいました。約40億年前に地球へどれだけ隕石が降ったのかを、地球の岩から直接読み取るのはもう難しいのです。

一方の火星にはプレートテクトニクスがないため、古い地殻がリサイクルされずに残ります。パーサヴィアランスの副プロジェクトサイエンティストを務めるカリフォルニア工科大学のケン・ファーリーさんは、火星のこの記録は、地球にはもう存在しない時代の地質をのぞける貴重な窓だと述べています。ブルーム・ポイントの記録は火星のものですが、同じ時代の地球や月にも似たような衝突が降り注いでいたはずなので、太陽系初期に何が起きていたかを組み立てる手がかりとして、地球の歴史の空白を埋めることにもつながります。

探査チームはこの場所で「ベル・アイランド」「メイン・リバー」と名付けた2本の岩石コアサンプルを採取しました。もし将来のミッションでこれらが地球に持ち帰られれば、実験室での精密な年代測定によって、初期の火星に——ひいては初期の地球に——いつ、どれくらいの頻度で隕石が降っていたのかを突き止められると期待されています。

解釈上の留意点

今回の話には、いくつか注意しておきたい点があります。

まず、この時代区分としてよく語られる「後期重爆撃期」(約41億〜38億年前に隕石衝突が特に激しかったとされる時期)は、それ自体がまだ議論の続いている仮説です。月の岩石の年代測定から提案された考え方ですが、衝突が本当にこの時期に集中して増えたのか、それとも太陽系初期から徐々に減っていく流れの一部だったのかは、研究者の間でも意見が分かれています。ブルーム・ポイントの地層が「衝突が繰り返された時代の記録」であることと、「後期重爆撃期という山型のイベントがあったこと」は、切り分けて考えたほうがよさそうです。

また、「39億年より前」という年代も、周囲の地形との関係などから推定されたもので、実験室で岩を直接測定して得た数字ではありません。正確な年代がわかるのは、サンプルが地球に持ち帰られてからです。そしてその火星サンプルリターン計画自体、予算や設計の見直しが続いていて、いつ実現するかはまだ確定していません。せっかくの「40億年前の天気の記録」を読み解けるのは、少し先の話になりそうです。

出典

この記事は、以下の情報をもとに書いています。

・NASA JPLプレスリリース:NASA’s Perseverance Rover Reads Record of Ancient Mars Impacts(2026年7月15日)

・元論文:Journal of Geophysical Research: Planets(Alex Jonesほか、2026年)

・解説記事:Universe Today(2026年7月19日)

パーサヴィアランスの探査はまだ続いています。クレーターの外という新しいフィールドで、今後どんな「昔の火星」が見えてくるのか、引き続き追いかけていきます。

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