カメラもライダーも効かない、真っ暗な洞窟や煙の中を、コウモリは平気で飛び回ります。その秘密は、音を出して跳ね返りを聴く「反響定位(エコーロケーション)」。この仕組みをそっくり借りてきて、手のひらサイズのドローンに積んでしまった研究チームがいます。しかも消費電力はごくわずか。森や煙や雪といった、目に頼るセンサーがお手上げになる場所でも、音だけを頼りに障害物をよけて飛べたというのです。
開発したのは、米ウースター工科大学(WPI)のニティン・サンケット准教授らのチーム。成果をまとめた論文は、2026年に専門誌『Science Robotics』に掲載されています。

目が使えない場所で困るドローン
いまのドローンの多くは、まわりを「見て」飛んでいます。カメラで景色を捉えたり、ライダー(光を当てて跳ね返りで距離を測る仕組み)で立体的に空間を把握したり。GPSで自分の位置を知る機体も多い。晴れた屋外なら、これでうまくいきます。
ところが、光が届かない・見通しが利かない場所になると、とたんに弱くなります。夜の闇、立ちこめる煙、舞い上がる粉じん、濃い霧。こうした環境では、カメラもライダーも十分な情報を集められません。GPSも、屋内や谷あい、木々の密集した森の中では届きにくくなります。まさに、地震や津波、火災の現場で人を探したいときほど、目に頼るセンサーが役に立たなくなるわけです。
かといって、電波で探るレーダーを積めばいい、とも言えません。レーダーは消費電力が大きく、小さなドローンの限られたバッテリーではすぐに音を上げてしまいます。小型機に載せて長く飛ばすには重すぎる、というのが正直なところでした。
コウモリのやり方をまるごと借りる
そこでチームが目をつけたのが、コウモリです。コウモリは光がまったくない洞窟の中でも、髪の毛ほどの細さの障害物すら避けて飛べます。やっていることは、高い周波数の音(超音波)を出して、跳ね返ってきた弱いこだまを聴き分ける、というだけ。音は光と違って、煙や霧や粉じんの中もすり抜けて届きます。だから「見えない」場所でも、コウモリは平気なのです。
この超音波、実は身近なところでも使われています。手をかざすと水が出る自動水栓は、超音波で距離を測って反応しています。仕組みそのものは、決して特別な技術ではありません。問題は、それをどうやって飛んでいるドローンの上で成立させるか、でした。
プロペラの騒音という最大の壁
ドローンに超音波センサーを積むうえで、いちばんの敵はプロペラの音です。障害物から返ってくるこだまは、とても弱い。その弱い音を、すぐ近くで爆音を立てて回っているプロペラの騒音の中から拾い出さなければなりません。研究チーム自身が「ジェットエンジンが真横で離陸している中で、友だちの声を聞き取ろうとするようなもの」と表現しているほどの難しさです。
チームはこれを、二段構えで乗り越えました。
ひとつは、物理的な工夫。センサーのまわりに音を遮る「盾」を置きました。これはコウモリの耳にある軟骨から発想を得たもので、プロペラの騒音がセンサーに回り込むのを抑える役目を果たします。センサーはいわばドローンの「耳」なので、その耳を騒音から守ってやるわけです。
もうひとつは、ソフトウェアの工夫。「Saranga(サランガ)」と名づけたニューラルネット(AIの一種)が、ノイズまみれの信号の中から本物のこだまを見分けます。これはコウモリの脳が音を処理するやり方にならったもので、弱い反射音のパターンを学習して、目の前の障害物が空間のどこにあるかを立体的に割り出します。
盾で騒音を物理的に減らし、AIで残りのノイズを取り除く。この合わせ技によって、ごくわずか(ミリワット級)の電力だけで、まわりの障害物を捉えられるようになりました。つまり、コウモリの「耳のかたち」と「脳の聴き分け」の両方を、機械で再現してみせたということです。
森の中で実際に飛んだ
この仕組みは、机上のシミュレーションだけで終わっていません。チームは、実際にいろいろな環境でドローンを飛ばしています。木々の生い茂る林の中、黒い障害物や透明なプラスチックを置いた暗い屋内、そして機械で作り出した霧や雪の中。合わせて180回の試験を行い、障害物をよけられた成功率は72〜100%だったと報告されています。
機体は手のひらに載るほど小さく、重さは100グラムを切り、大きさも100ミリメートル未満。設計図もプログラムもすべてオープンソースとして公開されているので、興味のある人は中身をのぞいたり、自分で試したりできます。
これがうれしい理由
いちばんの持ち味は、「目が使えない現場でも飛べる」という一点に尽きます。煙の充満した火災現場、粉じんの舞う倒壊建物、真っ暗な洞窟——人が入るには危険で、しかも一刻を争う場所こそ、このドローンの出番です。ヘリコプターによる捜索は1回で10万ドル規模の費用がかかることもあるといい、小さくて安いドローンが同じ役割の一部を担えるなら、意味は小さくありません。
消費電力が少なく、部品も軽くて安く済むのも大きな利点です。研究チームは、量産すれば1台あたりの製造コストをかなり抑えられる可能性にも触れています。安く作れれば、たくさんの機体で手分けして広い範囲を探す、といった使い方も現実味を帯びてきます。
留意点
とはいえ、まだ発展途上のプロトタイプ(試作段階)であることは、押さえておきたいところです。
まず、飛行時間が1回の充電で約5分と短い。研究チーム自身、捜索救助の現場では数秒の差が生死を分けることもある、と正直に認めています。実用に耐えるには、この点の改善が欠かせません。
また、苦手な相手もあります。金属のポールや木の枝のような細い物体は、大きな面を持つ物体にくらべて検知しにくかったと報告されています。これは、音で探るという方式の性質上どうしても出てくる弱点で、自然界のコウモリも完璧ではないのと同じです。試験の成功率に幅(72〜100%)があるのも、環境や相手の物体による得意・不得意を映していると見るのが素直でしょう。
研究チームは、超音波だけですべてをまかなうというより、カメラやライダーといった他のセンサーと組み合わせて、互いの弱点を補い合う使い方を想定しています。目と耳を両方持たせる、というイメージです。将来的には、超音波で生存者の心拍を捉える、といった応用も視野に入れているとのこと。まずは「見えない場所でも飛べる耳を、小さな機体に載せられた」こと自体が、一つの前進だと言えそうです。
出典
- Milliwatt ultrasound for navigation in visually degraded environments on palm-sized aerial robots(Science Robotics・査読論文)
- Bats Inspire Advance in Aerial Robots(WPI プレスリリース)
- Ultralightweight sonar plus AI lets tiny drones navigate like bats(The Conversation・研究者本人による解説)
- Saranga(設計・コードのオープンソース公開/GitHub)
- Echolocation For Drones(Hackaday)


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