昔の白黒テレビに入っていた真空管を使って、X線撮影装置を自作した人がいます。海外の電子工作コミュニティ「Hackaday」で紹介された、mircemkさんという製作者のプロジェクトです。ゴミとして捨てられていくような古い部品がX線の発生源になり、実際に物の中身を透かした「レントゲン写真」まで撮れてしまった、という話です。
先に大事なことを書いておきます。この装置は数万ボルト級の高電圧と放射線(X線)を扱うもので、感電と被曝の両方の危険があります。製作者本人も「安全上の理由から再現はすすめない」とはっきり書いていますし、この記事もまねすることをすすめるものではありません。あくまで「こういうことをやってのけた人がいる」という読み物として楽しんでください。
DY86という真空管の素性
使われたのは「DY86」という型番の真空管です。もともとは白黒のブラウン管テレビの中で、高い電圧の交流を直流に変える「整流」という地味な仕事をしていた部品で、X線を出すために作られたものではありません。
それでもX線源になるのは、X線の生まれ方に理由があります。X線は、高い電圧で勢いよく加速した電子が金属の電極にぶつかるときに発生します。真空管の中では、まさに電子が電極に向かって飛んでいるので、電圧を本来の設計よりずっと高くしてやれば、テレビの部品だった真空管からもX線が出てくるわけです。
実は昔のテレビ自体、ごく弱いX線を出すことが知られていて、ブラウン管のガラスにはそれを遮る工夫がされていました。この工作は、その「テレビの副作用」を逆にメインの目的として引き出したもの、と言えます。
製作者がこの部品を選んだ理由は値段です。本物の小型X線管は、いちばん小さい歯科用のものでも数百ドル(日本円で数万円以上)します。一方DY86は、役目を終えた古いテレビから取れる、市場でも安く手に入る部品です。
多段の昇圧でX線を引き出す仕組み
この装置のキモは、真空管にかけるとても高い電圧をどう作るかにあります。電源は一段では済まず、リレーのように何段もつないで電圧を引き上げていきます。
流れはこうです。まず低い電圧の直流電源(実験用の電源装置)からスタートし、それを高電圧の交流に変える発振回路に入れます。その交流をテレビ用のトランスでさらに昇圧し、最後に「コッククロフト・ウォルトン回路」という電圧増倍回路に通します。コンデンサーとダイオードをはしご状に並べた回路で、交流を直流に変えながら段数分だけ電圧を積み増していく、高電圧作りの定番です。この多段構えで、ようやく真空管からX線が出るほどの電圧に届きます。

細かい工夫もあります。DY86は本来の向きとは逆に、カソード(電子を出す側)をプラス、アノードをマイナスにつないであり、こうすると管の寿命がぐっと延びるそうです。また、1時間動かし続けても管の温度は30度ほどまでしか上がらないとのことで、真っ赤に発熱しながら動くようなものではなく、静かにX線だけを出し続けます。製作者は放射線の強さを数マイクロシーベルト単位の精度でコントロールできるようになったと述べています。
歯科用フィルムで撮る透過像
X線が出せても、それを「見える形」にしなければ写真にはなりません。ここで使われたのが歯科用のX線フィルムです。歯医者さんで口の中に入れる、あの小さなフィルムです。
撮り方はシンプルで、撮りたい物の裏側にフィルムを置き、10〜15cmほど離した真空管からX線を当て続けるだけ。X線は物を通り抜けますが、素材の密度によって通り抜ける量が変わるため、フィルムには中身の詰まり具合がそのまま濃淡になって写ります。影絵のような透過像ができるわけです。
ただし、本物のX線管に比べて出てくる放射線が弱いぶん、露光にはとても時間がかかります。対象の素材にもよりますが15分から1時間ほど。病院のレントゲンが一瞬で終わるのと比べると気の長い話ですが、製作者いわく、危険な実験だからこそ弱い線源でじっくり撮るほうが望ましい、とのこと。露光を終えたフィルムは、30秒ほどの現像、水洗い、30分ほどの定着、また水洗いという昔ながらの写真の手順を経て、電子部品の中身が透けた像が浮かび上がります。
壊れた真空管と開発の道のり
もちろん一発でうまくいったわけではありません。製作者はDY86を7本購入しましたが、そのうち3本は最初から真空が抜けていて使いものにならず、さらに開発中の試行錯誤で3本を壊しています。手元に残ったわずかな管でようやく安定してX線を出せるようになった、という綱渡りです。定格を大きく超えた電圧をかける使い方なので、管が壊れるのはある意味当然で、そこをどう乗りこなすかがこのプロジェクトの見どころでもあります。
高電圧と被曝のリスク
あらためて、この工作の危険性に触れておきます。まず感電。コッククロフト・ウォルトン回路の出力は数万ボルト級で、触れれば命に関わります。そして被曝。X線は目に見えず、痛みも熱も感じないまま体を傷つけます。製作者自身も「X線は人の健康にきわめて危険で、適切な防護なしでは深刻な結果を招きうる」「浴びた放射線の影響は体に残り、回を重ねるごとに積み重なっていく」と警告しています。
知識と測定器を備えた本人ですら管理に神経をとがらせている装置です。仕組みを知って感心するところまでが、この話のいちばんおいしい楽しみ方だと思います。
出典
・Old TV Vacuum Tube Turned DIY X-Ray Machine(Hackaday)
・DIY Miniature X-Ray Machine using a TV Vacuum Tube(Hackaday.io・製作者mircemkさんのプロジェクトページ)


コメント