ぐらつく落花生形の小惑星に、大昔の水の痕跡——NASAルーシーの寄り道が見つけたもの

科学・宇宙
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NASAの探査機ルーシーが、木星の近くを回るトロヤ群の小惑星へ向かう途中で、ある小惑星のそばをかすめていきました。本命に着くまでの練習のつもりだった立ち寄りでしたが、そこで見つかったのは、コマのようにぐらつきながら回る落花生形の岩の塊。しかもその表面には、はるか昔にわずかな時間だけ水が触れていた痕跡が残っていました。

相手は「ドナルドジョハンソン」という名前の小惑星です。火星と木星のあいだに広がる小惑星帯の中にあり、差し渡しはおよそ8キロメートル。名前は、有名な人類の祖先の化石「ルーシー」を1974年に発見した人類学者にちなんでいます(探査機ルーシーの名もこの化石から来ているので、探査機が同じ名前の由来を持つ小惑星に立ち寄った形です)。

本命の前の予行演習

ルーシーが目指しているのは、木星と同じ軌道を先行・後続する形で回っている「トロヤ群」と呼ばれる小惑星の集団です。太陽系ができたごく初期の材料をそのまま保っていると考えられていて、惑星がどうやってできて、どんなふうに位置を移していったのかを探る手がかりになると期待されています。最初のトロヤ群への接近は2027年8月の予定で、そこまではまだ数年あります。

ドナルドジョハンソンへの接近は、そのトロヤ群に着く前の「予行演習」として計画されたものでした。高速で動く小さな標的をきちんと追いかけ、鮮明な画像とデータを持ち帰れるか——機体とチームの実力を試す場だったわけです。2025年4月20日、ルーシーは時速約4万8000キロメートルでこの小惑星に近づき、表面から650マイル(約1000キロメートル)まで迫って一連の画像とスペクトルを記録しました。

結果として機器は狙いどおりに働き、そのうえおまけとして、これまで誰も間近で見たことのなかった小惑星をじっくり調べる機会が転がり込みました。得られたデータは、練習台にしては予想以上に中身の濃いものでした。この成果は2026年6月18日付の科学誌『Science』に、査読を経た論文として報告されています。

二つの軸でぐらつく自転

地上の望遠鏡からは、以前からこの小惑星の反射光が規則正しく明るくなったり暗くなったりするのが見えていました。細長い物体が10.5日でひと回りしているときに現れる、典型的な光り方です。ところがルーシーが近づいて見ると、それだけでは説明できない動きが見えてきました。

ドナルドジョハンソンは、多くの小惑星や惑星のように一本の軸のまわりをきれいに回っているのではなく、コマがぐらつくように二つの軸で動いていたのです。具体的には、10.5日に1回のペースで縦にでんぐり返しながら、同時に長い方の軸のまわりを26.5日に1回のペースで前後に揺れていました。地上からはこの二重の回転までは見抜けず、ルーシーが十分に近づいてはじめて分かったことでした。

落花生のかたちと、その成り立ち

地上観測でも細長い形はうっすら見えていましたが、フライバイで明らかになったのは、二つのふくらみが細いくびれでつながった「落花生形」でした。この二つのかたまりは、もともと小惑星どうしの衝突で生まれた別々の破片で、あとからおたがいの重力でそっと寄り集まってくっついたものらしいと考えられています。

面白いのは、この小惑星が生まれたときには、いまよりも少なくとも10倍は速く回っていたとみられる点です。それが過去2000万〜6000万年ほどのあいだにいまの遅さまで落ちてきました。回転が遅くなるにつれて、外へ振り飛ばそうとする力(遠心力)と中心へ引き寄せる重力のつり合いが変わり、表面のゆるい岩の粒が斜面をずり落ちていきました。フライバイ画像に写っていた、クレーターが埋もれてすり減ったような表面は、こうしてできたと説明できます。

ではなぜ回転が遅くなったのか。研究チームは「YORP効果」と呼ばれる、太陽の熱がもたらす小さな作用を挙げています。太陽で温められた表面はそれぞれ赤外線として熱を放射しますが、そのとき表面はごくわずかに押し返される力を受けます。小惑星の形は左右対称ではないので、この押し返しが完全には打ち消し合わず、全体としてわずかなひねりの力(トルク)が生まれます。これが長い時間をかけて自転を遅くしたり速くしたりする、というわけです。実際、同じYORP効果によって、小惑星ベンヌ(約4時間で1回転)やリュウグウ(約7時間で1回転)は逆に自転が速まったと考えられています。

ほんの一瞬だけ触れた水

そしてこの記事のもう一つの主役が、水の痕跡です。ルーシーは秒速十数キロメートルで通り過ぎながら、赤外線分光計で表面をとらえ、鉄を多く含む粘土鉱物の特徴を読み取りました。粘土は、岩と液体の水が触れ合ってはじめてできる鉱物です。つまり遠い昔、この小惑星のもとになった岩には液体の水が存在していたことになります。

ただし、その水が触れていたのはごく短いあいだだった、というのが研究チームの見立てです。というのも、水が長くとどまると、粘土の中の鉄はマグネシウムなど別の元素に置き換わっていく傾向があるからです。ドナルドジョハンソンの粘土には鉄がそのまま残っていました。水はあったけれど、すぐに引いた——鉄が置き換わる前に水が去った証拠、というわけです。

この点は、よく似た成り立ちを持つ小惑星ベンヌやリュウグウとの比較で際立ちます。両者ではマグネシウムを多く含む粘土が見つかっており、こちらは水が数百万年という長い時間にわたって触れていたことを示しています。まだ大きな母天体の一部だったころの話です。同じ「炭素と水に富む岩」から来ていても、水にさらされた歴史は同じではなかった——この違いは、それぞれの母天体が別の時代、あるいは別の場所で生まれてから小惑星帯に移ってきた可能性を示している、と論文は指摘しています。

似ているのに、どこか違う三兄弟

ドナルドジョハンソンは、炭素と水に富む大きな小惑星がほかの天体とぶつかって砕けた、その岩のかけらからできたと考えられています。ベンヌやリュウグウも、同じような成り立ちで、しかも同じ領域で生まれたとみられる「いとこ」のような存在です。

それでも、いくつか大きく違うところがあります。ドナルドジョハンソンは155百万年前(約1億5500万年前)にできた比較的若い天体で、10億〜20億年前に生まれたベンヌやリュウグウよりずっと年下です。また、この小惑星は生まれてからずっと小惑星帯にとどまっているのに対し、ベンヌとリュウグウは太陽をめぐる軌道が地球の軌道近くまで来るように移動していきました(だからこそ、探査機が試料を持ち帰る相手として選ばれたわけです)。

研究チームの一人は、ベンヌやリュウグウのような一見よく似た小惑星と比べるからこそ、わずかな違いの一つひとつが太陽系の成り立ちを知る手がかりになる、と語っています。そして本命のトロヤ群にたどり着けば、まったく異なる歴史を持つ岩の集団を調べることになり、これまでの太陽系形成の理解はさらに揺さぶられることになりそうだ、とも述べています。今回の予行演習は、その先の探査への期待を高める一歩になりました。

出典・もっと知りたい人へ

原論文:S. Marchi et al. “The Lucy flyby of (52246) Donaldjohanson: A bilobed asteroid with tumbling rotation.” Science, 2026年6月18日公開(査読済み)。DOI: 10.1126/science.aec0503

NASAプレスリリース:NASA’s Lucy Reveals Wobbling, Peanut-Shaped Asteroid(2026年6月18日)/SwRIプレスリリース:SwRI-led Lucy mission reveals wobbling peanut asteroid(2026年6月18日)

参考:ScienceDaily(2026年6月24日)

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