すでに息絶えたマンボウを1頭がくわえて押さえ、もう1頭が全速力で体当たりする。ドンという音とともに、マンボウの体はこなごなに砕けて水中に散っていく——。メキシコのカリフォルニア湾で、シャチがこんな行動をとる様子が2件記録された。狩りの決め手ではなく、獲物を食べやすく「下ごしらえ」するための連携技らしい。
研究チームはこれを「ram-to-fragment(ラム・トゥ・フラグメント/体当たりして砕く)」と名づけ、2026年7月23日付の学術誌『Frontiers in Ethology』に報告した。

カリフォルニア湾のシャチとマンボウ
シャチは、世界中の海にいる海の頂点捕食者だ。獲物のリストは200種を超え、魚から、エイ、サメ、アザラシ、さらには自分より大きなクジラまで、地域ごとに得意な狩りを持っている。ボートの舵をかじる集団や、サケを頭にのせて泳ぐ集団の話を聞いたことがある人もいるかもしれない。新しいやり方を仲間うちで広めていく、いわば「流行」を持つ動物でもある。
今回の舞台はメキシコ・カリフォルニア湾。暖流と寒流がぶつかって栄養豊富な海になっており、大型の生きものが集まる。ここのシャチは食べるものの幅が広く、そのなかでマンボウ類はよく狙われる魚の一つだ。
相手のヤリマンボウ(マンボウの仲間で、体の後ろがとがっているのが特徴)は、硬骨魚——骨のある魚——では世界最重量級で、体重2トン、全長2.7mを超える個体もいる。乗用車1台ぶんほどの巨体だ。シャチがこの魚を襲うときは、まず胸びれを狙い、体に傷をつけて脂肪の多い内臓を取り出す、という手順が知られていた。
すでに死んだ獲物を砕く
今回報告された行動が変わっているのは、体当たりが「とどめの一撃」ではないところだ。2件とも、シャチの群れはすでにマンボウを仕留め、内臓を取り出し終えたあとで、わざわざ体を粉砕していた。つまりこれは獲物を倒すための攻撃ではなく、倒したあとの処理——料理でいう下ごしらえにあたる技だということになる。
1件目は2024年7月29日、バハ・カリフォルニア・スル沖の海底の山(海山)でのできごと。メスの成体3頭、オス1頭、若い個体1頭からなる群れが観察された。この群れはまずオニイトマキエイの仲間を捕らえて食べ、そのあとマンボウを処理した。メスの成体が体の後ろの「舵(かじ)のような部分」をくわえてマンボウを固定し、オスの成体が腹を上に向けた姿勢で猛スピードで突っ込む。衝突の瞬間、大きな音とともにマンボウの組織が砕けて水中に広がった。
そのあとが興味深い。砕けて漂う細かいかけらを食べたのは、体長が成体の5〜7割ほどの若い個体だった。成体たちは、割れて残った大きな本体のほうを食べ、細かいかけらには口をつけていない。
2件目は2025年9月7日、セラルボ島の水路で。メスの成体3頭と、さらに幼い個体1頭がいた。行動の流れは1件目と同じで、1頭が固定し、もう1頭が高速で体当たりして砕く。ここでも幼い個体が本体から身を取って食べていた。ちなみにこの群れは、同じ日の少し前にアオザメを襲って食べてもいる。
「押さえる係」と「ぶつかる係」の連携
研究者が最初にこの行動に気づいたのは2021年12月。ただ、そのときは「衝撃のすさまじさ」に驚くばかりで、詳しい様子までは追えなかった。あとから映像をコマ送りで見直して、1頭がマンボウを押さえ、もう1頭がぶつかる、という役割分担ができていることが分かったという。決定的な映像がそろったのは2024年以降で、複数の撮影者の協力でようやく論文にまとめられた。
この「押さえる」「ぶつかる」の連携を成り立たせるには、相手の位置や動きを正確につかむ力、鳴き声などで意思を通わせる力、そして体当たりが起こす物理を共有していることが要る。論文の共著者で海洋生物学者のエリック・イゲラ氏は、これを「複数の手順からなる作戦を頭の中で組み立て、正確に実行する能力を示すもの」と表現している。
なぜ砕くのか、三つの見方
とはいえ、なぜこの行動をとるのかは、まだ仮説の段階だ。研究チームは互いに排他的でない(どれか一つに絞る必要のない)複数の可能性をあげている。
一つ目は、若い個体のための「子育て投資」。マンボウの皮はゴムのように丈夫で厚く、若い個体のあごでは食べにくい。体を砕いてやれば、成体が硬い皮を破る手間をかけずに、小さな口でも扱える一口サイズのかけらを用意できる。2件とも近くに若い個体がいて、そのかけらを食べていたことは、この見方と合う。
二つ目は、遊びや学習。シャチは「獲物で遊ぶ」ことで知られる動物で、遊びは単なる娯楽ではなく、複雑な体の動かし方を練習し、チームの息を合わせ、経験を共有する主要な手段になっている。若い個体がいる場面で成体が砕いてみせるのは、処理のやり方を教える機会にもなりうる。
三つ目は、栄養や健康面の効果という、少し変わった可能性だ。マンボウの皮のすぐ下には「カプセル」と呼ばれる分厚いコラーゲン質の層があり、その約9割は水でできている。この層には独自の微生物のすみかがあり、体を砕くことで微生物が水中に放出される。それがシャチにとって栄養面や免疫面の利点になるかもしれない、というわけだ。ただしこれは推測で、確かめるにはもっとデータが要るとチームも断っている。
意義と、これから確かめたいこと
この行動が面白いのは、シャチという動物の知性や「文化」の一端が見えるところだ。マンボウを砕くやり方が、たまたま1頭が始めた工夫なのか、それともこの地域・この群れに受け継がれる独自のやり方なのか。研究に加わっていないスミソニアン国立自然史博物館の研究者は、これが「その集団や地域ならではの獲物処理の文化」である可能性を指摘しつつ、判断するにはこうした事例をもっと積み重ねる必要がある、と話している。
チームは今後、この行動が世界のほかの群れでも見られるのか、カリフォルニア湾のなかで広がりつつあるのかを調べたいという。ちなみに今回は、2件の映像に写ったシャチが同じ個体かどうかまでは特定できなかった。背びれや目のまわりの模様がはっきり写った画像がそろわなかったためで、個体を見分けられる高画質の記録の大切さも、あらためて浮き彫りになった。
解釈上の留意点
まず、これは特定の1地域で確認された2件の観察にもとづく報告だ。少数の事例から見えてきた行動であり、「なぜやるのか」は前述のとおり仮説の段階にある。若い個体がいたからといって、子育てのための行動だと決まったわけではなく、遊びや処理技術の共有など、複数の説明が同時に成り立ちうる。
また、こうした珍しい行動が近年よく報告されるようになった背景には、ドローンや水中カメラの普及、観光との連携で「海を見る目」が増えたことがある。実際に行動そのものが増えているのか、それとも単に記録されやすくなっただけなのかは、まだ区別がつかない。一方で観光の急拡大はシャチへの悪影響も心配されており、メキシコではシャチと泳ぐ行為を規制する管理計画がつくられている。
出典
元論文(オープンアクセス、査読済み):Ayres, K. A., Gallagher, A. J., Avena, C. V., Duarte, C. M., & Higuera Rivas, J. E. (2026). Fragmentation of sharp-tail sunfish (Masturus lanceolatus) caused by high-impact ramming behavior in orcas (Orcinus orca). Frontiers in Ethology, 5, 1835536.
https://www.frontiersin.org/journals/ethology/articles/10.3389/fetho.2026.1835536/full
解説記事:Smithsonian Magazine(2026年7月23日)
Video Captures Orcas Ramming a Sunfish So Hard It Explodes.


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