太陽系の外に「月」を探す試みは、長いあいだ空振りが続いてきました。系外惑星はすでに6000個以上が見つかっているのに、その惑星を回る衛星のほうは、確実だと言えるものが一つもありません。そこへ、約70光年先の星の周辺で、これまででいちばん有力な候補が報告されました。木星と同じくらいの重さを持つガスの天体が、170日ほどかけて別の天体のまわりを回っている、という観測結果です。
ところが、この天体には呼び名の問題がついて回ります。回っている相手が惑星ではないからです。相手は褐色矮星(かっしょくわいせい)——惑星より重いのに、星として輝くには足りなかった中途半端な天体でした。ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTによる観測で、成果は2026年7月22日付のNatureに掲載されています(査読済み)。

系外衛星の検出が難しい事情
太陽系を見渡せば、衛星はありふれた存在です。木星も土星も何十個も従えていて、地球にも月があります。同じことが他の星の周りでも起きているはずだと考えるのは自然で、実際、系外衛星(エクソサテライト)や系外の月(エクソムーン)の探索は何年も前から続けられてきました。
それでも成果が出ないのは、単純に小さすぎて信号が埋もれるからです。系外惑星を見つける主流の方法は、惑星が星の前を横切るときのわずかな減光を測るか、惑星の重力で星がふらつくのを測るかのどちらか。どちらも「星に対して惑星がどれだけの影響を与えるか」を見る仕組みなので、惑星よりさらに小さい衛星となると、その影響は測定の誤差に沈んでしまいます。候補として名前が挙がった天体はいくつかありますが、いずれも確認には至らず、議論が続いている状態でした。
ちなみに数か月前にも、別のチームがVLT干渉計を使ってHD 206893という星の系を調べ、衛星らしき兆候を報告しています。ただしこちらも、確かな検出とまでは言えないという結論でした。
CD-35 2722系の三段構え
今回の舞台になったCD-35 2722は、太陽の半分ほどの重さしかない、生まれてまだ1億年ほどの若い星です。地球からの距離はおよそ70光年。系外惑星の探索対象としては、かなり近所の部類に入ります。
この星のまわりを回っているのが、2011年に直接撮像で見つかった褐色矮星のCD-35 2722 Bです。重さは木星の30倍以上と見積もられていて、表面温度は約1900度。星からの距離は投影で67天文単位ほど——太陽から海王星までが30天文単位なので、その倍以上の遠さで回っていることになります。
そして今回、この褐色矮星をさらに回る三つ目の天体が見つかりました。重さは少なくとも木星の0.9倍ほど、周期はおよそ170日。つまり、星を回る褐色矮星を、木星ほどの天体がさらに回っている——三段重ねの入れ子構造だった、というわけです。
褐色矮星そのもののふらつきを測る手法
チームが使ったのは、VLTに搭載されたCRIRES+という赤外線の分光装置です。手法自体は視線速度法と呼ばれる古典的なもので、太陽に似た星をめぐる最初の系外惑星を見つけたときと同じやり方でした。
重い天体が回っていると、回られている側もその重力に引かれて、わずかに近づいたり遠ざかったりします。この動きは光の波長のずれとして現れるので、スペクトル(光を波長ごとに分けたもの)を丁寧に追いかければ読み取れます。
面白いのは、今回この方法を星ではなく褐色矮星そのものに向けた点です。CD-35 2722 Bは直接撮像できるほど明るく、星から十分に離れて見えるので、褐色矮星だけの光を取り出してスペクトルを測れます。そこに周期的なふらつきが現れれば、それを揺らしている相手がいることになる。伴天体である褐色矮星にこの手法を適用して衛星の証拠を得たのは、研究チームの知る限り今回が初めてだといいます。

呼び名をめぐる線引きの揺らぎ
ここからが、この発見がニュースになっている本当の理由です。見つかった天体を何と呼べばいいのか、研究者たちも決めかねています。
太陽系の常識に当てはめるなら、恒星のまわりを回るのが惑星で、惑星のまわりを回るのが衛星です。ところがこの天体は、惑星ではなく褐色矮星を回っています。しかも自分自身が木星並みに重い。単独で星のまわりを回っていたら、間違いなく巨大惑星と呼ばれていた大きさです。
論文の筆頭著者であるケビン・ホイさん(ESO/ディエゴ・ポルタレス大学)は、この系を自分たちの太陽系と比べて「かなり変わっている」と表現しています。惑星と呼ぶには星を直接回っていないし、月と呼ぶには岩でできた小さな天体というイメージからかけ離れている。系の中で三番目の位置にいるという理由から、チームとしては月と呼びたい気持ちがある、という趣旨のコメントを出しています。
共同研究者のアリス・ズルロさん(ディエゴ・ポルタレス大学)も、太陽系では太陽と惑星の区別がはっきりしているから衛星の定義も簡単だけれど、この系では恒星・惑星・衛星の境目そのものがぼやけていて、言い表すのが難しくなると指摘しています。
言葉の問題は、実は前からくすぶっていました。系外惑星については国際天文学連合(IAU)の作業定義がありますが、系外の衛星については公式に認められた定義がありません。褐色矮星と巨大惑星を分ける目安も、重水素の核融合が起きるかどうかで引かれた木星の約13倍という線があるだけで、絶対的なものではありません。今回のように、既存の枠に素直に収まらない天体が実際に見つかったことで、その曖昧さが表に出てきた形です。
解釈上の留意点
いくつか、慎重に受け取っておきたい点があります。
まず、これは「確定した検出」ではありません。論文の言い方も、衛星の存在を示す証拠が得られた、というものです。研究チーム自身、これが系外の月と認められる条件を満たすかどうかは分からないとしたうえで、確実な検出への重要な一歩だと位置づけています。ズルロさんの表現でも「もっともらしい検出」であって、確定とは言っていません。
質量の値にも幅があります。木星の0.9倍というのは下限値です。視線速度法では軌道を横から見ているのか斜めから見ているのかが分からないため、測れるのは「少なくともこれ以上」という値になります。実際の重さはもっと大きい可能性があります。
それから、この褐色矮星を回っている天体が一つだけとも限りません。論文でも「少なくとも一つ」という書き方をしていて、二つの衛星を仮定したモデルも検討されています。系の本当の姿は、今後の観測を待つ段階です。
次の望遠鏡が見せるもの
この観測が示したのは、直接撮像できる暗い伴天体に視線速度法を当てれば、そのまわりの衛星に手が届くという道筋でした。今回対象になったのは木星ほどの重さの、かなり大きな天体ですが、装置の感度が上がれば、同じやり方でもっと軽い相手を狙えます。
ESOが建設中の超大型望遠鏡ELTは、口径39メートルの主鏡を持ちます。これが稼働すれば、より小さな系外衛星の検出が視野に入ってくるとされています。太陽系とは似ても似つかない系が次々に見つかるようになれば、惑星や衛星といった言葉をどう当てはめるかという問題は、さらに避けられなくなりそうです。
出典
- New ‘exomoon’ detection challenges cosmic labels(ESO プレスリリース)
- Planetary-mass exosatellite detected around the substellar companion of a star(Nature 655, 865–869・原論文)
- 同論文のPDF(ESOのサイトで無料で読めます)
- The Gemini NICI Planet-Finding Campaign: Discovery of a Substellar L Dwarf Companion to the Nearby Young M Dwarf CD-35 2722(褐色矮星の発見論文・2011年)
- The First Confirmed Exo-satellite Challenges Our Definitions of Planets and Moons(Universe Today)


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