ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で惑星の大気を丹念に調べても、その惑星がどれだけ水を持っているかは分からないかもしれない——シカゴ大学を中心とするチームが、計算モデルからそんな可能性を示しました。水が大気の下に沈み込んで層をなしていれば、上澄みしか見えない望遠鏡には「水の少ない惑星」として映ってしまうからです。
舞台になるのは、銀河でもっとも数が多いとされる惑星のグループ。地球より大きく、海王星より小さい天体たちです。
銀河でもっとも数の多い惑星グループ
サブネプチューン(ミニ海王星とも呼ばれます)は、その名のとおり海王星よりひとまわり小さい系外惑星のことです。半径でいえば地球の2〜3倍あたり。これまでに確認された系外惑星は6,300個を超えていますが、その中でサブネプチューンは最大の勢力を占めています。
ところが、これほど数が多いにもかかわらず、中身がどうなっているのかはよく分かっていません。理由のひとつは、太陽系に手本がないことです。水星から海王星まで、太陽系にはこのサイズの惑星がひとつもありません。木星のようなガス惑星と呼ぶには密度が高すぎ、地球のような岩石惑星と呼ぶには軽すぎる。岩石とガスと水がどこかで混ざり合った天体だろう、というところまでは見当がつくものの、その配合が惑星ごとにどうなっているかは誰も知らないのです。
もうひとつの理由は観測の難しさです。サブネプチューンの大気は分厚く、もやがかかっていることが多い。惑星が恒星の手前を横切るとき、大気を透かして届く光を分析すれば、そこにどんな分子があるかが分かります。JWSTはこの手法を得意としていますが、それで読み取れるのはあくまで大気の上のほうだけです。

研究を率いたシカゴ大学のカロリーヌ・ピオレ=ゴライエブ博士は、この問題をこう表現しています。大気に何があるかは分かる。そこから惑星の表面や内部がどうなっているかを、どうやって推し量るか——それが難しいところだ、と。
「よく混ざった内部」という前提
ここ数年、研究者のあいだで働いていた暗黙の前提がありました。サブネプチューンはそれなりに温かいのだから、内部の物質は全体にむらなく混ざっているはずだ、というものです。よく振ったカクテルのように、どこをすくっても同じ割合になっている状態を思い浮かべてください。
この前提が正しければ、話は簡単になります。大気の上のほうで測った成分の割合が、そのまま惑星全体の見積もりに使えるからです。実際、多くの研究がこの考え方で惑星の組成を計算してきました。
物質が層に分かれる「相分離」が起きるのは、天王星や海王星のようによほど冷たい惑星に限られる。恒星の近くをまわる温かいサブネプチューンでは、そんなことは起こらない。それが従来の見方でした。今回の研究は、この一点をていねいに計算し直しています。
水素と水が分かれる条件
チームが作ったのは、ATHENAIA(アテナイア)という名前の計算の枠組みです。惑星の大気をあつかうモデルと、内部構造をあつかうモデルを結びつけ、両者が矛盾なくつながる組み合わせを探し出します。そのうえで、水素と水が混ざったままでいられるのか、それとも分かれてしまうのかを、温度と圧力の条件ごとに判定していきました。
結果は、従来の見方をひっくり返すものでした。水がたっぷりある環境では、水素と水が分かれる温度がぐっと高くなる。しかも水が豊富な大気は、深くなるにつれての温度の上がり方がゆるやかになる。この二つが重なると、これまで「混ざったままのはず」と思われていた温かい惑星でも、分離が起こりうる範囲が開けてくるのです。
その範囲は、大気に含まれる重い元素の割合が、太陽の組成のおよそ150〜700倍になっているあたり。天文学では水素とヘリウム以外の元素をまとめて「金属」と呼ぶので、この割合は金属量と呼ばれます。そして温度でいえば、およそ330〜450ケルビン(60〜180℃ほど)の温かいサブネプチューンが広く当てはまります。惑星が重いほど、また冷たいほど分離は起こりやすくなりますが、その条件から外れた惑星でも十分に起こりうる、というのが計算の答えでした。
分離が起きると何が変わるのか。水は水素よりずっと重いので、下に沈みます。軽い水素が上に残り、その下に水の層ができる。上下が入れ替わることはありません。

望遠鏡が見ているのは、いちばん上の水素の層です。その下に水がどれだけ溜まっていても、光は届かない。つまり、大気を読んで「水が少ない」と結論づけた惑星が、実は大量の水を抱えている可能性がある——それがこの研究の核心です。
73光年先の惑星を使った検証
チームは具体例として、TOI-270 dという惑星でモデルを走らせました。がか座の方向、73光年先にあるM型の赤色矮星(太陽より小さくて温度の低い星)をまわる惑星で、2019年にNASAの系外惑星探索衛星TESSによって見つかっています。半径は地球の約2.1倍、質量は約4.2〜4.8倍。恒星のまわりを11.4日で一周する、かなり内側の軌道にいます。
この惑星が選ばれたのには理由があります。JWSTがすでに大気を観測し、メタンと二酸化炭素をはっきり検出しているうえ、全体としては水素に富んだ大気だと分かっているからです。この組み合わせは、化学的に考えれば水がたっぷりあることを意味します。
ただし、その水がどんな姿でいるのかは分かっていません。氷なのか、液体なのか、水蒸気なのか。あるいは超臨界流体——極端な高圧のもとで水が到達する、気体とも液体ともつかない状態なのか。惑星が受け取る熱で決まる目安の温度(平衡温度)は約350ケルビン、およそ77℃ですが、これは大気のごく外側の話です。深く潜るほど圧力も温度も跳ね上がるので、内部の水は日常で見る水とはまるで違うふるまいをします。
今回の計算では、TOI-270 dの金属量は、分離が起こりうる範囲にちょうど収まっていました。共著者のエリザ・ケンプトン教授によれば、現在の技術ではこの惑星が分離型なのか混合型なのかを確かめることも、否定することもできません。この種の惑星は、いまのところグレーゾーンにいる、というわけです。
系外惑星探しへの影響
この結果がまず効いてくるのは、これまで積み上げられてきた組成の見積もりです。大気の金属量に「よく混ざった内部」のモデルを当てはめて計算していたなら、惑星全体が抱える重い元素の量を少なく見積もっていた可能性がある。研究チームは、サブネプチューンの大気と内部を結びつける考え方そのものを見直す必要がある、と書いています。
やっかいなことに、水はもともと見分けにくい物質です。共著者のレスリー・ロジャース准教授は、水の密度が中くらいであることを挙げています。岩石とガスをうまい割合で混ぜれば、水と同じ密度の組み合わせが作れてしまう。だから密度から水の存在を割り出すのが難しく、少しでも手がかりを増やしたい、というのが現状だといいます。
ピオレ=ゴライエブ博士は「これらの惑星は、大気が語る以上に多くの水を隠しているかもしれない」と述べています。水は私たちが知る生命にとって欠かせない物質であり、同時にこの結果は、新しく強力な望遠鏡から届くデータをもっと慎重に読まなければならない、という警告にもなっている、と。
望遠鏡のほうは、これから増えていきます。NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は2026年8月30日の打ち上げが予定されており、恒星の光をさえぎって系外惑星を直接撮影する装置を積んでいます。地上ではヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡ELTが建設中で、2030年ごろの科学観測開始を目指しています。データが増えるほど、その読み解き方が問われることになります。
解釈上の留意点
この研究は計算モデルによるもので、TOI-270 dの内部に沈んだ水が実際に観測されたわけではありません。水素と水が分かれる条件を理論的に詰め、その条件に当てはまる惑星があると示した段階です。論文自体はThe Astrophysical Journalに掲載された査読済みのものですが、結論が観測で裏づけられるのはこれからになります。
それから、水があるという話は、そこに生命が住めるという話とは別です。TOI-270 dのようなサブネプチューンに水があったとしても、それは分厚く重い大気の底、私たちにはとても耐えられない圧力と温度のもとにあります。研究チーム自身も、この種の惑星が地球の生き物にとって居心地のよい場所である可能性は高くない、と断っています。この研究の価値は、惑星がどう作られ、水がどこにどう溜まるのかという仕組みの理解を進める点にあります。


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