預け荷物と機内持ち込みに分けて飛行機に乗せ、着いた先で組み立てると走り出せる乗り物がある。スペインのメイカー、イヴァン・ミランダ(Ivan Miranda)さんが3Dプリンターで作った電動ゴーカートだ。全部合わせて約20キロ。エコノミークラスの預け荷物を1個23キロまでとしている航空会社は多いので、二つに分ければたしかに運べる重さに収まっている。

大型車両が抱える運搬の問題
ミランダさんは、自作の巨大な3Dプリンターで乗り物そのものを出力してしまうことで知られている。人が乗り込める戦車、履帯で走るスケートボード、そしてゴーカート。どれも見ごたえがあるのだが、共通する弱点がひとつある。大きくて重いのだ。
自宅の周りで走らせるぶんには、それでいい。ところが別の街のイベントに持っていこうとすると話が変わる。バンを借りるか、輸送を手配するか。乗り物のほうが移動できない、という妙な状況になってしまう。
そこで彼が選んだのが、設計をいちから引き直して「荷物として運べる大きさ」に収めることだった。以前作ったゴーカートは走りはよかったものの、荷造りできる代物ではなかった。同じものを小さくするのではなく、旅に出せる寸法と重さを先に決めて、そこから作り直している。
三輪と取っ手への割り切り
できあがったカートは、前のものとはずいぶん違う姿になった。まず車輪が三つしかない。四輪から三輪へ減らせば、そのぶん部品と機構が消える。軽くなり、ばらしたときにも小さくまとまる。
ハンドルもない。代わりに、座った人の両脇に取っ手が立っていて、それを持って向きを変える。丸いステアリングホイールと、それを車輪へつなぐ機構は、それなりに重さと場所を食う部分だ。持ち運べる重さに収めるために、そこも落とした。

こうした引き算の結果、重さは以前のカートのおよそ3分の1になった。それでいて走りが鈍ったわけではなく、軽いぶんむしろよく走るという。
電動ドリルのバッテリーで走る仕組み
動かしているのはブラシレスモーターだ。回転する部分と電気を送る部分が接触しない構造のモーターで、すり減る接点がないぶん長持ちし、模型飛行機から電動工具まで幅広く使われている。
変わっているのは電源のほうで、18Vの電動ドリル用バッテリーを複数つないで走らせている。乗り物としては見慣れない選択だが、荷物として運ぶことを考えると筋が通っている。工具用のバッテリーは手に入りやすく、充電器もそのまま使える。ひとつ壊れても差し替えが利くし、何より小分けにできる。
リチウムイオン電池は、予備のものを預け荷物に入れられない決まりにしている航空会社が多い。車体は預けて、バッテリーだけ手荷物に回す。二つに分けて運ぶという前提は、重さの都合だけでなく、そのあたりの事情とも噛み合っている。
転倒しやすさへの対処
最初に組み上げた版には問題があった。曲がるときに横倒しになりやすかったのだ。ミランダさんは駆動輪を幅の広いものに作り直して、そこを直している。タイヤの接地する面が横に広がると、車体が傾こうとしたときに踏ん張りが効く。
軽くするための割り切りが、走らせてみたら跳ね返ってきた形だ。設計を削るとどこかにしわ寄せが出る、というのがそのまま見える例で、この手の工作の記録として面白いところでもある。
持ち運べる乗り物という発想
このカートで目を引くのは、走らせるための設計というより、運ぶための設計から始まっている点だ。ふつう乗り物は、速さや乗り心地、積みたいものの量から形が決まっていく。ここでは先に「スーツケースに入る」「合計で20キロを超えない」という枠があり、そこから逆算して部品の形と数が決まっている。
ミランダさんはその後、同じ考え方でさらに小さな乗り物を作っている。「Mirandetta」と名付けた電動バイクで、バッテリーを外した状態で14キロ強。分解してスーツケースに詰め、飛行機でプラハのMaker Faireまで運んで現地で組み立て、会場の「スーツケースに収まる作品」を競う部門で優勝した。設計データは本人のサイトで販売されている。
3Dプリンターで乗り物を作る話は、これまでにもあった。そこに「荷物として飛行機に乗せる」という条件がひとつ加わるだけで、輪の数から操縦方法まで、設計の組み立て方そのものが変わってしまう。つまりこれは、印刷技術の話であると同時に、制約の置き方の話でもある。
留意点
これは個人の工作プロジェクトであって、製品ではない。公道を走れるかどうかは国や地域の規則しだいで、強度や安全性が第三者に検証されているわけでもない。プラスチックの部品に人ひとりぶんの体重と走行中の力がかかるので、似たものを作るなら、走らせる場所と保護具はよく考えたほうがいい。バッテリーを飛行機に持ち込む条件も、航空会社や路線によって違う。
もうひとつ。このゴーカートの動画が公開されたのは2025年の秋で、Hackadayが取り上げたのが2026年7月だった。順番としては、スーツケース入りの電動バイクより前に作られたものにあたる。
出典
3D Printed Go Kart Designed To Fit In A Suitcase(Hackaday)
I 3D Printed a GoKart to fly around the world(Ivan Miranda・YouTube)
Making a 3D-Printed Mini Go Kart(The Awesomer)
3D Printed Scooter Fits In Your Luggage, Some Assembly Required(Hackaday)


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