てんかんの発作は、数秒のうちに脳を走り抜けていく。その広がり方を、平べったい断面ではなく立体のまま、途切れさせずに撮ることに成功したという研究が出た。米ジョージア大学のチームが作った顕微鏡で、実験魚の稚魚の脳に起きた発作を毎秒4回の立体撮影で追いかけ、発作がどこで始まってどちらへ伝わっていくのかを映像として残している。
使ったのは、光シート顕微鏡という装置に、電気でピントの位置を動かせるレンズと、もともと天体望遠鏡のために発達した像の補正技術を組み合わせたもの。撮れる範囲は一辺0.5ミリほどの小さな空間だが、そこに稚魚の脳がまるごと収まる。
横から薄い光を当てる観察法
光シート顕微鏡(ライトシート顕微鏡)は、名前のとおり、紙のように薄く広げた光の板を試料の横から当てる。光が当たった面だけが光るので、その面をカメラで真上から撮れば、ピントの合っていない場所のぼんやりした光が写り込まない。断面がくっきり写るうえ、試料に当てる光の量を抑えられるので、生きたまま長く観察するのに向いている。同じくぼけを取り除く共焦点顕微鏡と比べても速く、光によるダメージが少ない。

ただし、一度に撮れるのは光の板が当たった一枚の面だけだ。立体として記録したければ、面の位置を少しずつずらしながら何枚も撮って重ねるしかない。ここが速度の壁になっていた。このチームが以前作った装置では、立体ひとつぶんを撮るのに1.75秒ほどかかっていたという。数秒で脳を駆け抜ける発作を追うには遅すぎる。
そのため、これまでの発作の観察はほとんどが一枚の断面で行われてきた。断面だけを見ていると、発作の一部しか捉えられない。どこから始まったのか、どちらへ向かっているのか、全体でどれくらい続いたのか——そのあたりは推測するしかなかった。
ピントを電気で動かすレンズ
そこで持ち込まれたのが、ETL(electrically tunable lens)と呼ばれる、電気で焦点距離を変えられるレンズだ。透明な液体を薄い膜で包んだ構造をしていて、流す電流を変えると膜のふくらみ具合が変わり、レンズとしての強さが変わる。人の目が水晶体の厚みを変えてピントを合わせるのと同じことを、電気仕掛けでやっている。
レンズや試料そのものを機械で動かす必要がないので、ピントの位置をミリ秒の単位で移せる。これによって、一辺499マイクロメートル・厚さ150マイクロメートルの範囲を毎秒4立体のペースで撮れるようになった。499マイクロメートルはおよそ0.5ミリで、食塩の粒がだいたいこのくらいの大きさになる。動画としては毎秒4コマだから決して滑らかではないが、1コマぶんが立体まるごとだと考えると事情が変わってくる。
天体望遠鏡から来た収差補正
速さを手に入れる代わりに、ETLには面倒な性質がついてくる。焦点距離を変えると、レンズが像を歪ませる癖——収差が出るのだ。しかも歪み方は一様ではなく、基準の位置から離れるほど、視野の端に行くほど強くなる。せっかく速く撮れても、周辺がぼやけていては使いものにならない。
この歪みを打ち消すために使われたのが適応光学だ。もとは天体望遠鏡のために発達した技術で、大気のゆらぎでにじんだ星の像を、光路上の鏡の形を細かく変えることで元に戻す。今回はその手法を、大気ではなく顕微鏡自身が生み出す歪みに向けたことになる。
特徴的なのは、歪みを測る専用のセンサーを補正の主役にしていない点だ。撮れた画像の鮮明さそのものを手がかりに、どう補正すれば一番くっきりするかを探っていく方式(センサーレス適応光学)を採っている。これによって、実用になる視野の広さが5倍に広がったという。
技術的にいちばん厄介だったのは、ピント位置がミリ秒ごとに動き続けるなかで、補正のかけ直しをカメラの撮影や走査のタイミングと合わせ込むところだった。撮影を止めずに補正を更新し続ける仕組みを作ったことで、速さと画質の両立ができている。なお装置の土台には、光シート顕微鏡の設計を公開しているOpenSPIMというオープンソースのプラットフォームが使われている。
脳の後方から前方への伝播
実験は、ゼブラフィッシュの稚魚にペンチレンテトラゾールという薬を与えて発作を起こし、その様子を撮る形で行われた。ゼブラフィッシュは体長数ミリの小さな魚で、稚魚のうちは体がほとんど透けている。外から光を通して中の神経の活動をそのまま見られるので、脳の研究ではよく使われる相手だ。
撮影は2分半にわたって続き、その間に600ぶんの立体が連続で記録された。以前の装置の7倍の速さになる。

映像に写っていたのは、発作が脳の後ろのほうで始まり、前方の視蓋(しがい/目から入った情報を処理する場所)へ向かって広がって、そこで最も強くなり、数十秒かけてゆっくり静まっていく流れだった。つまり、これまで断面から推測するしかなかった「どこで始まり、どちらへ、どれくらいの時間をかけて収まるのか」が、そのまま記録として残ったことになる。
てんかん研究への接続
この研究の出発点は、発作の広がり方とgad1bという遺伝子の関係を調べることだった。gad1bは、GABA(ギャバ)という神経伝達物質を作る働きに関わっている。GABAは神経の興奮にブレーキをかける側の物質で、脳の発達や信号のやりとりで重要な役割を持つ。チームは次の段階として、この遺伝子を欠いたゼブラフィッシュを同じ装置で撮る計画だという。
チームを率いたピーター・クナーは、細かい立体の情報が得られることで、発作がどう生まれて広がるのかの仕組みに新しい手がかりが出てくる可能性があり、それがより効果的な治療法の開発につながりうると述べている。もっと広く見れば、脳がどう働いているかの理解そのものにも使える手法になる。
実際、素早い立体撮影が欲しい場面はてんかんに限らない。生き物の内部では、平面の断面で追うには速すぎる現象がいくらでも起きている。装置の性格からいって、活躍の場は発作の研究だけにとどまらないはずだ。
解釈上の留意点
今回の成果はあくまで、実験魚の稚魚を相手にした技術の実証だ。人のてんかん治療に直接つながる段階ではない。発作そのものも薬で人工的に起こしたもので、患者に起きる発作とは原因も経過も異なる。
撮影範囲が0.5ミリ角ほどというのも、透明で小さい稚魚だから成り立っている条件になる。また今の補正が相手にしているのは顕微鏡自身が生む歪みで、魚の体そのものが生む歪みは別の話だ。チームはそちらにも取り組んでおり、試料側の歪みを直接測って補正する方式を進めているという。
なお論文は、Optica Publishing Groupが出すBiomedical Optics Express誌に掲載された査読済みの論文で、全文が無料で読める。
出典
High-speed 3D imaging reveals how seizures move through the brain(Optica プレスリリース・2026年7月21日)
Fast Volumetric Imaging Of Seizures With Adaptive Optics Light Sheet Microscopy(Hackaday)


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