娘が生まれた父親は、パートナーとの絆が強くなる?——1,694人ぶんのデータ

心理学
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生まれてきた子が娘か息子かで、父親のパートナーへの向き合い方は変わるのか。1,694人の親から集めたデータを分析した研究が、その問いに一つの答えを出しました。娘をもつ父親のほうが、子どもの母親との関係により強く結びついていた、という結果です。

差そのものは小さめです。ただし、やり方の違う3種類の調査で、同じ向きの結果が出ました。しかも、そのうち一つは子どもが生まれる前から同じ夫婦を追いかけた調査で、生まれる前の時点では、のちに娘をもつ父親と息子をもつ父親のあいだに違いは見られませんでした。

「娘の父」という切り口

英語圏には「girl dad(娘の父)」という言い方があります。娘を持ったことで変わった、あるいは変わったと自分で感じている父親を指す、くだけた呼び方です。今回の研究を紹介した英語メディアは、この言葉を見出しに掲げ、オーストラリア生まれのアニメ『ブルーイ』に出てくる父親を、その典型として引き合いに出していました。日本ではディズニープラスで配信されているほか、2026年4月からはNHK Eテレでも放送されています。

もっとも、研究そのものはアニメとは関係ありません。出発点にあるのは、もっと地味で、長く積み重ねられてきた別の研究群です。父親の関わりが乏しい家庭で育った娘には、思春期の始まりが早い、リスクの高い行動が多いといった傾向が、繰り返し報告されてきました。とくに現代の欧米圏のデータで、この関連は安定して見られます。

ここで研究チームが立てたのが、逆向きの問いでした。娘の側が父親の不在に反応するのなら、父親の側にも、それに対応する変化が起きているのではないか。つまり、娘がいることで、父親が「この関係は続く」と示す方向に動くのではないか——そう考えて検証したのが今回の研究です。

三種類のデータを重ねた設計

この研究のいちばんの強みは、性質の違う3種類のデータを重ねたところにあります。

一つ目は横断調査。ある時点で親に質問して、娘をもつ父親と息子をもつ父親を比べます。手軽に人数を集められる代わりに、「もともと違うタイプの人たちだった」という可能性を捨てきれません。

二つ目は縦断調査。同じ人に、時間をおいて何度も答えてもらいます。ある時点の写真ではなく、動きが見えるのが利点です。

三つ目が、親になる前から追いかけた調査です。まだ子どもが生まれていない夫婦に参加してもらい、そのまま出産をまたいで追跡します。生まれてくる子の性別は、親の側が選べるものではありません。ですから、生まれる前の時点で両グループがそろっていることを確認できれば、あとから出た差は「子どもが生まれたあとに起きたこと」だと考えやすくなります。

研究チームは、性格の傾向、収入、それまでの交際歴、家族の人数といった、関係の満足度に影響しそうな要素も統計的に差し引いています。第一著者のクリスタル・ドゥアルテ氏は、やり方の違う調査で同じパターンが出たことが、一回きりの偶然ではないと考える根拠になる、と説明しています。

娘の誕生と前後して現れた変化

結果はこうです。娘をもつ父親は、子どもの母親に対する長期的な結びつきへの意欲——論文の言葉では「ペアボンド動機」——が、息子をもつ父親より高く出ました。パートナーへの愛着の強さ、関係への満足度、どちらも同じ向きです。

面白いのは、母親側の回答でも整合していたことでした。娘をもつ母親は、パートナーからの支えをより多く受け取っていると答える傾向がありました。父親の自己申告だけが動いているのではなく、受け取る側の実感も同じ方向を指していた、ということになります。

そして、親になる前から追いかけた調査が効いてきます。のちに娘をもつことになる父親と、のちに息子をもつことになる父親は、出産前の時点ではよく似ていました。差が現れたのは、子どもが生まれたあとです。つまり、もともと関係を大事にする男性がたまたま娘を授かった、という筋書きでは説明しにくい形になっていました。

時間とともに薄れる関連

ここからが、二次記事ではあまり触れられていない部分です。縦断データを見ると、この関連は娘の年齢が上がるにつれて弱まっていました。生まれてすぐの時期がいちばん大きく、子どもが育つにつれて差は縮んでいきます。

研究チームは、この時間の形そのものが、自分たちの立てた予想と噛み合っていると見ています。父親の不在が娘に影響するのは、幼い時期ほど大きいと報告されてきました。もし父親側の変化が、その時期を支える方向に働いているのなら、変化もまた幼い時期に集中しているはずだ、という読み方です。

ただし、これは「そう読める」という話であって、実際にそうした仕組みが働いていることを確かめたわけではありません。

説明として挙がっている複数の筋道

ドゥアルテ氏は、今回のデータに最もよく合う枠組みとして、父性投資理論を挙げています。娘を持つことが、母親との安定した関係に力を注ぐ方向に父親を動かす。娘の側からすれば、両親の関係が続いていること自体が、「男性はこういうふうに関わり続けるものだ」という最初のモデルになる——そういう筋書きです。

ただし、説明の候補はほかにもあります。父親になることに伴うホルモンの変化が、結びつきを強める方向に働いている可能性。娘の誕生が、家族のなかでの自分の役割についての考え方を変える可能性。あるいは、娘を守り、娘に投資するという文化的な規範のほうが呼び起こされている可能性。

ドゥアルテ氏自身が、今回の研究はこれらを見分けるようには設計されていない、とはっきり述べています。どれが効いているのかは、これから調べる課題として残されたままです。

日本のデータにみる第一子の性別

今回の研究の対象は欧米圏の親であり、ドゥアルテ氏も、そのまま世界のどこにでも当てはまるとは考えられない、と釘を刺しています。家族のかたちも、父親に期待される役割も、地域によってかなり違うからです。

では日本ではどうか。関係の満足度そのものを扱ったものではありませんが、日本の父親を対象にした研究が、この6月に公表されています。マカオ大学の千葉大奈氏と早稲田大学の小野耕誠氏が、日本版総合的社会調査(JGSS)の2000年から2018年までのデータを使って、「第一子が娘かどうか」で父親の考え方に差が出るかを分析したものです。

この設計は、生まれてくる第一子の性別がほぼ偶然で決まることを利用しています。日本の出生性比は1899年の統計開始以来、女児100に対して男児105前後で安定していて、人為的な操作の形跡が見られません。だから第一子が娘か息子かは、くじ引きに近い割り当てとして扱える、という考え方です。

結果として、第一子が娘だった父親は、「夫が稼ぎ、妻が家庭を守る」という考え方を支持しにくく、選択的夫婦別姓の法改正や、女系天皇の容認、治安対策への支出増に、より賛成する傾向がありました。一方で、政治的な立場そのもの、支持政党、移民や安全保障についての考え方には差が出ていません。効果が及ぶ範囲が、性別に関わる話題に限られていたわけです。

ただしこの日本の研究も、注意深く限界を書いています。効果がはっきり出るのは「第一子が娘」の場合で、「娘がいるかどうか」「娘だけかどうか」「子どものうち娘が占める割合」といった別の測り方に変えると、6つの項目のうち有意になるのは3つから4つに減りました。娘が多ければ多いほど父親が変わる、という単純な関係ではないということです。

国際的に見ても、この「第一子が娘」効果は、どこでも出るわけではありません。南アフリカを対象にした2023年の研究では効果が確認されず、中国の全国調査を使った2017年の研究でも、娘をもつことと親のジェンダー観のあいだに有意な関係は見つかっていません。

解釈上の留意点

まず、これは相関の話です。「娘を持てば夫婦仲がよくなる」という処方箋ではありません。親になる前から追いかけた部分は、もともとの違いという説明を弱める働きをしますが、それでも「娘が父親を変えた」と因果として断定できるわけではありません。

次に、差の大きさです。第一著者は効果を控えめなものとして説明しています。集団の平均をとったときに差が見える、という水準の話であって、目の前の一組の夫婦の関係を言い当てるものではありません。この研究から、息子をもつ父親の関係が薄いとか、支えが足りないといったことは、まったく導けません。同じグループのなかにも幅があり、その幅のほうが、グループ間の差よりずっと大きいのが普通です。

三つめに、測っているものの性質です。愛着も満足度も、質問紙に本人が答えた数字です。行動を直接観察したわけではありません。

そして、父性投資理論という枠組み自体が、いくつもある説明のうちの一つだという点。研究チーム自身が、ほかの説明を排除できていないと明記しています。進化的な説明は筋の通ったストーリーを作りやすいぶん、そのぶん慎重に扱う必要があります。

なお、この論文は Personality and Individual Differences 誌に掲載されていますが、本文は有料です。掲載前の原稿はSSRNで無料公開されているので、中身を確かめたい方はそちらが読めます。

出典

Duarte, K., Durante, K., Gassen, J., Reed, A., Rholes, S., & Simpson, J. A. “Daughters Promote Pair-Bonding in Fathers in Modern Western Contexts”, Personality and Individual Differences(掲載版・有料)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886926002655

同論文の掲載前原稿(SSRN・無料、2026年3月14日公開、DOI: 10.2139/ssrn.6416372)
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=6416372

Chiba, D., & Ono, Y. (2026) “Do Daughters Change Their Fathers? Evidence from the First-Daughter Effect in Japan”, Public Opinion Quarterly, nfag040(オープンアクセス)
https://doi.org/10.1093/poq/nfag040

Kerry Taylor-Smith, “The ‘Girl Dad Effect’: Is Bandit Heeler the perfect partner?”, Refractor, 2026年7月28日(第一著者へのインタビューを含む紹介記事)
https://refractor.io/biology/girl-dad-effect-bandit-heeler-the-perfect-partner/

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