アメリカの地下深くにある研究施設で、空気の流れがときどき弱まったり、逆向きになったりする——。この不可解な現象の原因が長らくわからなかったのですが、犯人はまさかの「地上から降ってきた雨水」だった、という研究が発表されました。
降ってきた水が、地下深くの空気を押していた。しかもその力は、換気の向きをひっくり返してしまうほど大きかった、という話です。
舞台となった地下施設
この現象が見つかったのは、アメリカ・サウスダコタ州にあるサンフォード地下研究施設(SURF)。もともとは金鉱山だった場所で、いまは物理学などの実験に使われています。トンネルや縦坑(じゅうこう=縦に掘った穴)が合わせて約370マイル、およそ600キロにもおよぶ巨大な地下空間で、深いところは地下1.5キロ近くにもなります。
これだけ深い場所で人が安全に働くには、二つのものを絶えず管理し続けなければなりません。空気と水です。新鮮な空気をトンネルのすみずみまで循環させる一方で、雨や地下水としてしみ込んでくる水は集めて地上へくみ上げる。大きな鉱山では、この空気と水の管理だけを専門にするチームがいるほど重要な仕事です。
大雨のたびに狂う空気の流れ
SURFで換気を担当するのは、2019年からここで働く鉱山技術者のジェイソン・コノットさん。あるとき彼とチームは、大きな嵐が来るたびに妙なことが起きるのに気づきます。
「5番シャフト(第5縦坑)でファンの動きがおかしくなるんです。大雨のときに、場所によっては空気の流れが弱まったり、逆流したりしていました」とコノットさん。
ふだんSURFでは、二つの主要な縦坑から新鮮な空気が入り、別の二つの排気用の縦坑から外へ抜けていきます。5番シャフトはこの排気側の一つ。ところが大雨のときには、この縦坑がもう一つの役目を負います。くみ上げが追いつかないほど水が増えると、あふれた分をこの5番シャフトから地下深くのプール(貯水場)へ落として一時的に逃がし、あとから地上へくみ上げるのです。ダムがあふれそうなとき、余った水を放水路へ逃がすのと同じ考え方です。
「最初は、大雨のときに空気の流れに何が起きているのか、まったくわかりませんでした。地下のあちこちで空気の流れが変わるのを全員が感じていて、『なんでこうなるんだ?』という感じでした」(コノットさん)

手がかりになったセンサーと高校生
謎を解くには、もっと正確な計測が必要でした。エンジニアはデータで判断しますが、当初はそのデータが足りていなかったのです。転機になったのは、地下2000フィート(約600メートル)地点に、自動で換気を調整するための空気流センサーが設置されたこと。さらに早い段階のヒントは、意外なところから来ました。地元スピアフィッシュ高校の理科教師スティーブ・ガブリエルさんと、その生徒たちです。
彼らは施設内に手作りの空気流モニターをいくつも設置していました。そのモニターが、地下4850フィート(約1500メートル)地点でシャフトへ水を流す設備のテスト中に、ふだんとは違う空気の動きをとらえたのです。「あのテストのとき、4850フィートで空気の流れが増えるのを実際に感じました。それが結びつきのきっかけで、すべてが動き出したんです」とコノットさん。ガブリエルさんは、のちにSURFの正規の換気技術者として加わりました。
落ちる水が空気を押していた
特に激しい雨のとき、入ってくる水は地下のくみ上げ能力を超えてしまいます。あふれさせないために、余った水を5番シャフトから深いプールへ落とす——このとき、縦坑を勢いよく落ちていく水の柱が、まるで巨大な注射器のピストンのように働いて、地下の換気網に空気を押し込んでいたのです。
面白い着想でしたが、証拠が要ります。コノットさんが科学文献を調べると、大きな都市の下水道でまったく同じ現象が報告されていました。管の中を水が流れ落ちるとき、その水が空気を引きずって動かす——それを説明する流体力学(水や空気の流れを扱う物理)の数式まで載っていたのです。
そこでサウスダコタ鉱山工科大学の研究者と組み、その数式をSURFの地下の造りに合わせて作り直しました。すると計算結果は、実際に観測されていた空気の流れの変化とぴたりと一致したのです。「自分たちの数値やパラメータをモデルに入れたら、すべてがぴたりと合いました。水滴の重みがこれほど大量の空気を動かせるとは、ふつう思いませんよね」とコノットさん。つまり、落ちてくる水そのものが空気を運ぶポンプになっていた、というわけです。
火災時の安全にも関わる発見
この発見は、大雨のときだけの話にとどまりません。世界中の地下施設に役立つ可能性があります。
たとえば火事です。鉱山では火災が起きたとき、地上のバルブを開けて縦坑へ一気に水を流し込むことがあります。今回わかったのは、その水が空気の流れそのものを変えてしまうということ。どちらへ空気が動くかは、避難や消火の判断に直結します。「火事のときに水を落とせば、空気の流れが変わりうる。これを知っておくのは全員にとって決定的に重要です。実際にテストして、起きることを確認しました」とコノットさん。
SURFが研究施設だったことも大きかったようです。稼働中の鉱山では、目の前の作業に追われて、こうした問題をじっくり調べる時間はなかなか取れません。「稼働中の鉱山では、いつもこんな調査ができるわけではありません」とコノットさんは言います。
この研究の位置づけ
今回の成果は、一つの施設で起きたことを詳しく調べた「ケーススタディ(事例研究)」です。査読(専門家による内容チェック)を経て、鉱業系の学術誌に掲載されています。SURFという特殊な条件で確かめられた現象なので、そのまま他のあらゆる地下空間に当てはまるとは限りません。それでも、下水道で知られていた仕組みを地下施設の換気に結びつけ、数式で予測できる形にしたところに意味があります。実際SURFでは、この成果をもとに空気の流れの問題を先読みし、換気の設定を前もって調整できるようになったといいます。
出典
論文:Jason Connot, Andrea Brickey, Purushotham Tukkaraja, Srivatsan Jayaraman Sridharan「Effects of Water Inflows on a Mine Ventilation System: A Case Study」Mining, Metallurgy & Exploration(2026年5月29日)
DOI: 10.1007/s42461-026-01586-0
プレスリリース:Airflow mystery solved at America’s Underground Lab(Sanford Underground Research Facility)


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