「AIがAIを作る」はどこまで本当か ― 実物で見る現在地

AI・テクノロジー
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「AIがAIを作る」と聞くと、まだ先の話のように感じるかもしれません。ところが、自分のコードを書き換えて、しかもその「書き換える能力」そのものを高めていくAIは、もう研究の場で動いています。実際に役立つアルゴリズムを見つけ出したり、研究を一通り自動でこなして論文を通したりする例も出てきました。この記事では、いま実在する具体例をいくつか並べて、「AIがAIを作る」がどこまで本当になっているのかを見ていきます。

「AIにAIを設計させる」前史

いきなり最近の話に入る前に、下地になった古い試みに一言だけ触れておきます。ニューラルネットワーク(脳の神経回路をまねた計算のしくみ)を組むとき、層をどう並べるか、どこをどうつなぐかは、これまで人間が手で試行錯誤して決めていました。この「良い構造探し」を自動化しようという研究が、ニューラルアーキテクチャ探索(NAS)です。候補になる構造を機械にたくさん作らせて、性能の良いものを選ぶ、という発想でした。

もうひとつ、メタ学習という考え方もあります。ふつうの機械学習が「課題を解けるように学ぶ」のに対し、メタ学習は「学び方そのものを学ぶ」。新しい課題に素早く適応できるよう、学習のしかたを一段上から調整します。

どちらも「AIにAIの設計を探させる」という点では、これから紹介する例の先祖にあたります。ただし用途はかなり絞られていて、決められた枠の中で最適なものを探す、という色合いが強いものでした。ここ一、二年で出てきたのは、その枠自体をAIが書き換えにいく、もっと自由度の高いシステムです。

Darwin Gödel Machine ― 自分を書き換え続けるAI

まず分かりやすいのが、Sakana AIとブリティッシュコロンビア大学(UBC)、Vector Instituteらが2025年に発表した Darwin Gödel Machine(DGM)です。これは自分自身のプログラム(Pythonで書かれたコード)を書き換えて、コードを書く能力そのものを高めていくAIです。名前のダーウィンは、生物の進化になぞらえているところから来ています。

やっていることは、こういう流れです。まず自分のコードに変更を加えた「変種」をいくつも作る。次に、その変種を実際のプログラミング課題で試して、どれだけ解けたかを測る。良くなったものを残し、そこからまた変種を作る。この繰り返しで、少しずつ腕を上げていきます。ポイントは、思いつきで書き換えるのではなく、変更のたびにベンチマーク(性能を測るための共通のテスト)で効果を実測し、実際に効いたものだけを採用するところです。

成績を測ったのは SWE-bench という課題で、これはGitHub上にある実在のソフトのバグ修正を、AIがどれだけこなせるかをみるものです。DGMはここでの正解率を、20%から50%まで自力で引き上げました。プログラミング言語をまたいで試す Polyglot という別の課題でも、14.2%から30.7%へ伸びています。人が設計した固定の仕組みを、AIが自分で組み替えて改善した、というわけです。

おもしろいのは、うまくいかなかった枝もすぐには捨てず、アーカイブ(過去に作った変種の保管庫)に残しておく点です。一見いまいちな変種が、あとで別の改良の足がかりになって化けることがあるからです。ひとつの最強ルートだけを一直線に伸ばすより、枝分かれをたくさん残しておくほうが、結果的に遠くまで行ける。これも進化の考え方をなぞっています。

なお、この成果は現時点では arXiv に公開された査読前の論文(正式な審査を通す前の段階)で、そこは差し引いて見ておくのが正確です。それでも「自分のコードを書き換えて、書き換える力そのものを伸ばす」という動きが実際に測定できた例として、注目されました。

AlphaEvolve ― 役立つアルゴリズムを見つけ出す進化的システム

次は、Google DeepMindが2025年に公表した AlphaEvolve です。こちらは大規模言語モデル(LLM、文章を扱うAIの本体)に、進化的な探索を組み合わせたシステムで、実際に現場で役立つアルゴリズムの改良を見つけ出しました。研究室の中だけの話ではなく、すでに使われている点が特徴です。

たとえばGoogleのデータセンターでは、大量の仕事をどのサーバーに割り振るかを決めるしくみに、AlphaEvolveが見つけた改良を組み込みました。この改良は本番環境で一年以上動き続けていて、世界中の計算資源のうち平均0.7%を継続的に取り戻しているといいます。数字だけ見ると小さく感じますが、Google規模の設備では、常にそれだけ余分に仕事をこなせるということです。

数学の方でも成果が出ています。4×4の行列(数を格子状に並べたもの)のかけ算を何回の乗算で済ませられるか、という問題では、1969年に示された「49回」という記録が長らく破られずにいました。AlphaEvolveはこれを48回に減らす方法を見つけ、半世紀ぶりに記録を更新しています。50を超える数学の未解決問題に当たらせたところ、約75%で当時の最良の解に並び、20%では上回ったとも報告されています。

そして「AIがAIを作る」という文脈でいちばん効いてくるのが、自分を支えるしくみまで速くしている点です。AlphaEvolveは、GoogleのAIモデルを学習させるときに使う計算処理(行列のかけ算のカーネル)を改良し、全体の学習時間を約1%縮めました。AIの学習に使う道具を、AIが磨いている。地味ですが、まさに「自己改善」がすでに一部で回っていることの実例です。

The AI Scientist ― 研究の一通りを自動でこなすシステム

もう一段踏み込んだのが、Sakana AIらによる The AI Scientist です。これは機械学習の研究を、ほぼ最初から最後まで自動でこなそうというシステムです。研究のアイデアを出し、関連する文献を調べ、実験を設計し、コードを書いて動かし、結果を分析して、論文の原稿までまとめる。そのうえ自分で査読(他人の論文を審査する作業)のまねごとまでする、という一通りをAIが担います。

この分野で話題になったのが、AIが最初から最後まで書いた論文が、機械学習の国際会議のワークショップの査読を、人間の審査員に機械が書いたと気づかれないまま通った初の例を出したことです。平均点は10点満点で6.33、投稿された論文の約55%より上の評価でした。ただしこれは会議本体ではなくワークショップの枠で、しかも実際に公開される前に取り下げる、という取り決めが主催者との間で事前に交わされていました。「AIが書いた論文が正式にトップ会議に載った」とまで言うと行き過ぎで、そこは正確に押さえておきたいところです。

そのうえで、このシステム全体をまとめた論文が、2026年3月に学術誌 Nature に掲載されました。人間が関与しない研究の一通りを説明した論文が、Natureの査読を通ったという意味で、ひとつの区切りではあります。掲載にあたっては当初の派手な主張がいくつか審査で見直された、という経緯も報じられていて、鵜呑みにせず等身大で受け止めておくのがよさそうです。

現場で起きていること

研究のデモだけでなく、開発の現場でも似た変化が進んでいます。分かりやすい数字を出しているのがAnthropic(対話AI「Claude」を作っている会社)です。同社の公表によると、2026年5月時点で、自社のコードベースに取り込むコードの8割超をClaude自身が書いているといいます。エンジニア一人あたりが四半期に出すコードの量も、数年前の約8倍に増えました。

これはあくまで一社の自己申告の数字で、外部の監査を受けたものではありません。ただ、AIがAIを作る会社の内側で、実装の大部分をすでにAIが担っている、という現場の姿は伝わってきます。人間の役割は、コードを自分で書くことから、方針を決めて出てきたものを確かめることへと移りつつある、というわけです。

もっとも、速くなった分だけ楽になったわけではありません。Anthropic自身が、コードが大量に流れるようになった結果、今度は人間によるコードの確認作業(レビュー)が新しい詰まりどころになった、と述べています。ある部分を速くすると、まだ速くなっていない別の部分が全体の足を引っ張る。この現象は前から知られたもので、AIを入れた現場でも同じことが起きています。

「人間抜きで完結」との距離

ここまでの例を並べると、「AIがAIを作る」はもう半分くらいは本当になっている、と言えそうです。改良のアイデアを出す、それを実装する、それが本当に進歩なのかを測って判定する――こうした部品は、DGMやAlphaEvolve、The AI Scientistの形で、すでに実際に動いています。AIの学習に使う道具をAIが磨き、コードの多くをAIが書く、という光景も現実になりました。

ただし、人間の関与なしにこのループを丸ごと回して、自分の後継となる次のAIを一から設計し切る、というところまでは、まだ届いていません。個々の部品はそこそこ動いても、それらを安定してつなぎ、止まらずに回し続けるには、まだ人の手が要ります。Anthropic自身も「そこにはまだ達していないし、必然でもない。ただし多くの組織が備えているより早く来るかもしれない」という言い方をしています。

つまり、「AIがAIを作る」はもう半分は本当。ただし「人間抜きで完結」はまだ、というのが今の現在地です。派手な結論に飛びつかず、動いている部品と、まだ埋まっていない隙間の両方を見ておくのが、いちばん実態に近い眺め方だと思います。

出典

Darwin Gödel Machine(査読前・arXiv):Sakana AI 公式解説arXiv 2505.22954

AlphaEvolve:Google DeepMind 公式発表

The AI Scientist(Nature掲載):Sakana AI 公式解説 / Lu, C. et al. Nature 651, 914–919 (2026)

Anthropicの社内データ:The Anthropic Institute「When AI builds itself」

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