火星隕石から初のガーネット、太古の地質を語る宝石

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火星から飛んできた1個の隕石のなかに、これまで火星の石では見つかったことのない鉱物が潜んでいた——そんな報告が出ました。見つかったのはガーネット(ざくろ石)。地球では1月の誕生石として知られる、あの深い赤色の宝石です。地球ではありふれた石ですが、火星の試料で確認されたのはこれが初めてで、しかも「火星にこんな岩石があったのか」という、これまで知られていなかったタイプの岩石だといいます。

火星が残した太古の記録

地球の表面は、何十億年ものあいだプレートの動きや火山活動、雨風による侵食でつくり直され続けてきました。おかげで、大昔の地面はほとんど残っていません。ところが火星は、そうした作り直しがずっと穏やかだったため、太古の地質がそのまま保存されています。だから火星の石の一つひとつが、惑星の生い立ちを記録した貴重なアーカイブになります。

今回の主役は、火星から地球に落ちてきた「NWA 8171」という隕石です。NWAは Northwest Africa(北西アフリカ)の頭文字で、この地域で回収された隕石に付けられる記号。火星の表面で砂やがれき、天体衝突で砕けた破片が固まってできた「レゴリス角れき岩(かくれきがん)」という種類で、同じ落下から生まれた18個の隕石の仲間の一つです。これらが記録しているのは、火星がまだ活発だったノアキアン期(約40億年以上前)のころの姿だとされています。

地質学者にとってのガーネット

ガーネットは宝石として有名ですが、地質学の世界ではまた別の顔を持っています。この鉱物は、特定の温度・圧力・化学組成がそろったときにしかできません。逆に言えば、ガーネットができていること自体が「そのとき周りがどんな環境だったか」を細かく記録しているということ。石ができた当時の条件を読み取る、いわば天然のデータロガーのような存在です。

地球では、ガーネットはおもに変成岩(へんせいがん)に含まれます。もともとあった岩石が、強い熱や高い圧力、あるいは熱い流体にさらされて別の姿に変わったものが変成岩です。つまり火星の石からガーネットが出てきたということは、火星のどこかでも、そうした激しい熱と圧力の作用が起きていた可能性を示しています。

二度目の観察で見えた正体

発見のきっかけは、ロイヤルオンタリオ博物館(カナダ)が所蔵するNWA 8171の破片でした。研究を率いたブロック大学のターニャ・キゾフスキ氏が、この破片に含まれる鉱物と化学組成を調べていたところ、ある小さな領域の様子がどうも引っかかったといいます。

最初は、ごくありふれた鉱物である輝石(きせき=ピロキシン)だろうと考えていたそうです。ところが念のためもう一度詳しく見直したところ、それがガーネットだと分かりました。正確には andradite(灰鉄ざくろ石)というカルシウムと鉄を含むタイプのガーネットで、ラマン分光やEBSD(結晶の向きを調べる手法)、電子顕微鏡による分析で特定されました。火星の隕石からガーネットが確認されたのは、これが初めてのことです。

分析でわかった中身

詳しく調べると、このガーネットを含む小さなかけら(クラスト)は、性質のちがう二つの領域に分かれていました。一方はガーネットと輝石が組み合わさった部分、もう一方はカリ長石(ちょうせき)という別の鉱物を含む部分です。地球では、こうした鉱物の組み合わせは「スカルン」と呼ばれる、熱い流体が岩石と反応して性質を変える場所(交代作用)でよく見られます。

この二層構造から研究チームが読み取ったのは、この石が一度にできたのではなく、強い熱や圧力、そして冷却といった複数の段階を経てきたらしい、ということでした。火星の地下でマグマが上がってきたり、隕石が衝突したり、あるいは熱い流体が岩を作り変えたり——そうした出来事が重なった痕跡かもしれない、というわけです。

火星の地質像への意味

これまで火星は、地球ほど複雑な地質作用は経ていないと考えられがちでした。今回のガーネットは、その見方に一石を投じます。andraditeのようなガーネットができるには、それなりの温度・圧力・化学的な条件がそろう必要があるからです。つまり、太古の火星の地殻は、これまで思われていたよりも多様で込み入った作用を受けていた可能性が出てきた、ということになります。

キゾフスキ氏は、この新しいガーネットを含む岩石タイプが「火星がその歴史のなかでどう変わってきたか」「ガーネットを生んだような古い環境がどんなものだったか」を知る手がかりになりうる、と述べています。火星の地質という物語に、新しいページが一枚加わったかたちです。

産地をめぐる留意点

ただし、大きな留保が一つあります。このガーネットを含む岩石が、本当に火星でできたのか、それとも別の天体からやってきて火星の表面に取り込まれたのか——そこがまだ確定していないのです。NWA 8171はいろいろな破片が寄せ集まってできた角れき岩なので、このかけらが火星の外(地球外ならぬ「火星外」)から来た可能性も、いまの時点では否定できないとされています。

これをはっきりさせるには、ガーネットの酸素同位体(げんそのわずかな重さのちがい)を測る必要があります。ただしこの測定には試料の一部を壊す工程が伴い、しかもこの石は「いま手元にある唯一のガーネットを含む火星の石かもしれない」ほど貴重なため、いまはあえて避けられています。研究チームは、探査機や周回機のデータとの比較を重ねながら、破壊せずに素性を探る道を続けるとしています。派手に結論を出す前に、慎重にたしかめていく段階、というわけです。

なお、この研究は査読を経た論文として、2026年6月16日付で学術誌 Geochemical Perspectives Letters に発表されています。

出典

論文:T. V. Kizovski et al., “Expanding Mars’ lithologic diversity: discovery of a garnet-bearing clast in NWA 8171,” Geochemical Perspectives Letters, 2026.(DOI: 10.7185/geochemlet.2619

ポーツマス大学 プレスリリース:Scientists discover new rock type on Mars

SciTechDaily:This Strange Martian Rock Contains a Mineral Scientists Never Expected To Find

Phys.org:Mineral garnet discovered in Mars meteorite may reveal how the red planet evolved billions of years ago

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