地球の中心近くでは、どろどろに溶けた鉄の海がゆっくりと渦を巻いている。その流れの向きは、何十年かけてもそうそう変わらない——長いあいだ、そう考えられてきた。ところが太平洋の真下にあたる一角だけが、2010年ごろを境に流れの向きをぐるりと変えていた。弱い西向きだった流れが、強い東向きへと転じていたのだ。地上と人工衛星の観測データを28年ぶんつなげて分析した研究で、その様子が浮かび上がってきた。
地磁気から探る、見えない外核の動き
まず、舞台になっている「外核(がいかく)」の話から。地球の内部は、外側から順に、岩石でできたマントル、溶けた金属の外核、そして固体の内核(ないかく)という層構造になっている。外核は地表からおよそ2900km下、マントルの底に広がっていて、主成分は電気を通す溶けた鉄だ。
この溶けた鉄が動くと電流が生まれ、地球全体をつつむ磁場(地磁気)ができる。方位磁針が北を指すのも、太陽から飛んでくる荷電粒子を地球がはね返せるのも、もとをたどればこの外核の流れのおかげだ。金属が動いて磁場をつくるこのしくみは「ダイナモ(発電機)」と呼ばれている。
ただ、外核は地下2900kmの世界。掘って見に行くことはできない。そこで手がかりになるのが、地表で測れる磁場そのものだ。磁場は年ごとに少しずつ形を変えていて、その変わり方を細かく追うと、外核の表面近くで金属がどちら向きに流れているかを逆算できる。

2010年に東向きへ転じた太平洋直下の流れ
これまでの観測では、外核の表面近くの流れは全体として西向きが基本だった。地球の自転軸から少しずれた大きな渦(西向きの流れ)があって、磁場がじわじわ西へずれていく現象ともつじつまが合っていた。
研究チームが1997年から2025年までのデータを解析したところ、この大きな西向きの渦がカバーしていない赤道付近の太平洋で、様子が違っていた。2010年ごろ、それまで弱く西へ流れていた領域が、強い東向きの流れへ切り替わっていたのだ。長年「わりと安定している」と思われていた外核が、10年ほどの短い間に地域的な変化を見せることもある——そこが今回のいちばんの驚きどころだ。
さらにチームのモデルによれば、この東向きの流れは2020年ごろをピークに、その後は弱まりつつあるという。つまり2010年前後の逆転が、一時的な揺らぎなのか、周期的にくり返すものなのか、それとも新しい安定状態への移行なのか——まだ決着はついていない。
磁場のかすかな変化を読み解く手法
流れの向きを直接のぞき見たわけではない。研究チームがやったのは、地上の観測所と複数の人工衛星が測ってきた磁場データを持ち寄り、その「年ごとの変化(永年変化)」から外核表面の流れを推定することだ。短い時間なら磁場が拡散でぼやける効果は小さい、と仮定したうえで、観測された変化を流れのモデルへ翻訳していく。
使ったのは1997年以降の長いデータセット。ESA(欧州宇宙機関)のSwarm(スウォーム)やCryoSat、ドイツのCHAMP、デンマークのØrsted(エルステッド)といった衛星群の測定に、地上観測所の記録を組み合わせている。なかでも2013年に打ち上げられたSwarmは、3機がそろって飛ぶことで、地殻や海、電離層など別の場所から来る磁気の信号と、外核由来の信号とを切り分けられる。おかげで、ノイズに埋もれがちな波のような加速や、素早く形を変える流れの構造まで拾えたという。
内核のふるまいとの関連という仮説
興味深いのは、この太平洋の流れの変化が、もっと深いところ——固体の内核のふるまいの変化と、時期が重なっている点だ。内核の動きは、測地学(地球の形や自転のわずかな変化を測る分野)や地震波の解析から推定されている。研究チームは、内核をふくむ深部の変化が、太平洋の下の流れの切り替わりと結びついているのではないか、と見立てている。
ただしこれはあくまで仮説で、因果関係が確かめられたわけではない。外核・内核・その外側のマントルが、深部でどうつながって影響し合っているのか。その謎を解く手がかりのひとつとして注目されている、という段階だ。
ナビゲーションや宇宙天気への波及
外核の流れが変わると聞くと身構えるかもしれないが、これ自体が人や気候に危険をもたらすわけではない。ただ、外核の流れが生む磁場は、私たちの生活と地味につながっている。磁場は固定されておらず、外核の流れが変わればゆっくり形を変える。その変化は、方位を使うナビゲーション、人工衛星の運用、太陽風がもたらす宇宙天気(宇宙空間の環境変化)の予測モデルなどに効いてくる。
だから、外核がいつ・どう変わるのかを知ることには、純粋な科学的関心だけでなく、実用面の意味もある。今回のように衛星で継続して測り続けることが、磁場の変化を先読みする精度を上げていく。
解釈上の留意点
いくつか、受け取り方に気をつけたい点を。まず、この「東向きへの逆転」は観測から逆算したモデルの結果であって、流れを直接見たものではない。地上・衛星のデータと、いくつかの仮定にもとづく推定だ。次に、2010年の変化が一時的なものか、周期的なものか、新しい状態への移行かは、まだわかっていない。今後も観測を続けて見きわめる必要がある。内核との関連も、現時点では仮説どまりだ。この研究は査読を経て学術誌に載ったものだが、「深部で何が起きているか」の全体像は、これから少しずつ埋まっていく。
出典・もっと知りたい人へ
ESAプレスリリース:Insights into Earth’s molten outer core from space(ESA)
エディンバラ大学 School of GeoSciences:Insights into Earth’s molten outer core from space(University of Edinburgh)
元論文(オープンアクセス・無料で読めます):Madsen, F. D., Howard, I., Brown, W., & Whaler, K. (2026). Principal component analysis of the 2010 reversal of core-surface flow beneath the Pacific Ocean. Journal of Studies of Earth’s Deep Interior, Vol. 2.


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