ヨーロッパでいちばん活発な火山、シチリア島のエトナ山。年に何度も噴火し、世界でもっとも観測機器が張りついている火山のひとつです。ところが「この火山はどうやってできたのか」という、いちばん基本的なところが、じつはまだ決着していません。教科書に載っている火山のでき方――その三つのどれに当てはめようとしても、エトナだけはうまく収まらないからです。
ローザンヌ大学(スイス)のチームは、この長年の宙ぶらりんに対して、「エトナは四つ目のタイプかもしれない」という説を出しました。しかもその四つ目というのが、日本の研究者が海の底で見つけた、ごく小さな火山の仲間だというのです。
火山のでき方をめぐる三つの定石
火山は、地下のマントル(地殻の下にある岩石の層)の一部がとけてマグマになり、それが地表まで上がってきて固まることで育ちます。そのマントルがとける状況として、これまで大きく三つが知られてきました。
ひとつめは、プレート(地球の表面を覆う岩板)どうしが離れていく境界。押さえが外れた分だけ下からマントルが上がってきて、圧力が下がってとけます。海底で新しい地面がつくられていく場所です。ふたつめは沈み込み帯。プレートが別のプレートの下へもぐり込むところで、いっしょに引きずり込まれた水がマントルのとける温度を下げ、しばしば爆発的な火山をつくります。富士山はこのタイプです。三つめがホットスポット。プレートの真ん中あたりで、まわりより熱いマントルの物質が上がってくる場所で、ハワイやレユニオン島のような火山島ができます。
この三つで、地球上の火山はだいたい説明がつきます。だいたい、というところにエトナが引っかかります。
エトナが抱える矛盾
エトナは沈み込み帯の近くにあります。アフリカプレートがユーラシアプレートにぶつかって、もぐり込んでいく一帯です。ところが、エトナが吐き出す溶岩の化学組成を調べると、沈み込み帯の火山らしくない。むしろハワイのようなホットスポット型の火山に似ています。かといって、シチリアの下にホットスポットがあるわけでもありません。
厄介なのは量とペースです。エトナはアルカリ質(ナトリウムやカリウムを多く含むタイプ)の溶岩を出しますが、この種のマグマは、マントルがほんの少しだけとけたときにしかできません。少ししかとけないのに、たくさん出る。しかも年に何度も。そんなに勢いよく供給できるはずのないものが、50万年以上ものあいだ休まず出続けている――そこが、火山学者を悩ませてきた点でした。
第四の候補としてのプチスポット火山
新しい研究が持ち出したのは、「そもそもマグマは、噴火の直前につくられているわけではないのでは」という発想です。
エトナの地下、深さおよそ80キロメートル。富士山を20個以上積み上げた高さの分だけ地面を下った先に、上部マントルの「低速度層」と呼ばれる領域があります。地震波がそこを通ると速度が落ちる層で、以前から、ごく少量のマグマがあちこちに潜んでいるのではないかと考えられてきた場所です。研究チームは、エトナを養っているのはこのあらかじめ存在していたマグマだまりだと提案しました。
では、なぜそれが上がってくるのか。アフリカとユーラシアの衝突でプレートは複雑に動き、沈み込み帯の手前ではプレートが曲がります。曲がれば割れ目ができます。その割れ目を通って、下にたまっていたマグマが押し出される。スポンジを握ったときに水が絞り出されるのと同じ理屈です。マグマを新しくつくる必要がないので、少ししかできないはずのアルカリ質の溶岩が、途切れずに出てくる説明がつきます。

上の図のように、深いところのマグマだまりから割れ目づたいに絞り出される――という仕組みは、じつは前例があります。「プチスポット火山」です。2006年に日本の研究者が日本海溝の沖合で報告したもので、沈み込む直前のプレートが曲がってできた割れ目から、マントル由来のマグマが噴き出してできる小さな海底火山を指します。直径は1〜2キロメートル、高さは数百メートルほど。海底をていねいに測るまで誰も気づかなかったくらい、ささやかな存在です。
今回の論文が言っているのは、エトナはその巨大版ではないか、ということです。論文のタイトルにある表現を借りれば、エトナは「低速度層からマグマが漏れ出している一本の配管」。つまりエトナは、四つ目のカテゴリーに属する、世界でも例のない大きさのプチスポット火山かもしれない――それが今回の提案です。

50万年分の溶岩から読み取れたもの
根拠になったのは、エトナが誕生してから現在までに出した溶岩です。研究チームはサンプルを集め、化学組成が時代とともにどう変わってきたかをたどりました。この地域のテクトニクス(プレートの動き方)は、50万年のあいだに何度も様子を変えています。もしマグマがそのつど地下でつくられているのなら、条件が変わればできるマグマの中身も変わるはずです。
ところが、実験データと照らし合わせながら追ってみると、エトナのマグマの組成はほとんど変わっていませんでした。変わっていたのは噴き出した量のほうで、そちらはプレートの動きでうまく説明がつきます。つまり、供給源のマグマは最初から地下にあって性質も一定で、プレートの動きが「蛇口をどれだけひねるか」を決めている。これが、プチスポットとの結びつきを支えている観察でした。
頻発する噴火と防災への含み
この見方が正しければ、エトナがなぜあれほど頻繁に噴くのかにも、筋の通った答えが出ます。マグマをその場でつくって待つ必要がなく、地下の在庫を割れ目から押し出しているだけなら、供給のペースは「プレートがどう動いたか」に左右されます。研究チームは、カターニア(エトナのふもとの都市)にある国立地球物理学火山学研究所(INGV)の火山災害評価にも役立つ可能性がある、としています。
もうひとつ、火山学の枠組みそのものへの含みがあります。プチスポットの仕組みは、これまで「小さな海底火山をつくるだけのもの」と見なされてきました。それで標高3000メートル級の成層火山が育ちうるのなら、世界のあちこちで「三つの定石に当てはまらない火山」を、別の目で見直すことになるかもしれません。
解釈上の留意点
この研究は査読を経て学術誌に載ったものですが、結論そのものは仮説の提案だという点は押さえておきたいところです。研究チーム自身も「エトナは似た仕組みでできた可能性がある」という言い方をしています。
地下80キロのマグマだまりを直接のぞいたわけではなく、地表で採った溶岩の化学組成という間接的な手がかりから、いちばん無理なく説明できる筋道として組み立てられたものです。エトナの成り立ちについては以前から複数の説があり、今回の説がそのまま定説になると決まったわけではありません。今後、地震波の観測などから独立した裏づけが得られるかどうかが、次の見どころになります。
出典・もっと知りたい人へ
論文:S. Pilet, J. Reymond, L. Rochat, R. A. Corsaro, M. Chiaradia, L. Caricchi, O. Müntener, “Mount Etna as a leaking pipe of magmas from the low velocity zone”, Journal of Geophysical Research – Solid Earth(2026年4月7日掲載)
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2025JB032785
ローザンヌ大学プレスリリース(EurekAlert!):A breakthrough in understanding the origin of Mount Etna
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