自転が逆回りになった彗星——ハッブルの保管データが捉えた初の事例

科学・宇宙
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彗星の自転がだんだん遅くなり、いったん止まって、そのまま逆向きに回り出す。そんなことが起きた証拠が、ハッブル宇宙望遠鏡の保管データから見つかりました。彗星の自転の向きが反転したとみられる例は、これが初めてです。

しかも同じ解析からは、この彗星の核があと数十年で自分の回転に耐えきれなくなるかもしれない、という見積もりも出てきました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のデイヴィッド・ジューイット氏が単独でまとめ、2026年3月にThe Astronomical Journal誌に掲載された論文の内容です。

彗星41Pの素性

主役は41P/タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星、短く41Pと呼ばれる天体です。長い名前は3人の発見者を並べたもの。1858年にホレース・タットルが見つけたあと行方が分からなくなり、1907年にミシェル・ジャコビニが、さらに1951年にリュボル・クレサークが、それぞれ独立に見つけ直しました。3回目でようやく、すべて同じ彗星だと分かったという経緯があります。

生まれは海王星の外側に広がるカイパーベルト(太陽から30〜50天文単位あたりに氷の小天体が集まっている領域)だと考えられています。そこから木星の重力に引き寄せられて今の軌道に落ち着いた、木星族彗星と呼ばれるグループの一員です。5.4年で太陽を一周し、最も近づくときで太陽から1.05天文単位、最も遠ざかるときで5.12天文単位。地球の軌道のすぐ外側から木星の軌道あたりまでを、行ったり来たりしています。

そして何より、小さい。今回の解析では、核(彗星の本体である氷と塵のかたまり)の半径は500±100メートルと見積もられました。差し渡しで1キロほど、東京タワー(333メートル)を3本積み上げた高さと同じくらいです。彗星としてはかなり小型の部類で、この小ささが後の話をすべて動かします。

2017年に観測された自転の急減速

41Pが天文学者の注目を集めたのは2017年でした。4月12日に太陽へ最接近(近日点通過)し、その少し前の4月1日には地球から約0.14天文単位のところを通っています。1世紀以上ぶりの近さで、観測には絶好の機会でした。

このとき複数のチームが、41Pの自転がみるみる遅くなっていく様子を捉えます。論文がまとめている数字では、自転周期は近日点をはさむ2か月ほどのあいだに、およそ20時間から53時間へと倍以上に延びました。NASAの発表によれば、5月にニール・ゲーレルス・スウィフト衛星が測った時点で、3月にアリゾナ州ローウェル天文台の望遠鏡が捉えたときの3分の1ほどの速さまで落ちていたことになります。

彗星の自転が変わること自体は珍しくありません。ただ、ここまで急激な減速が観測されたのは、当時としては前例のないことでした。

ハッブルの未解析データが示した14.4時間

今回の解析は、新しく望遠鏡を向けて得られたものではありません。ジューイット氏が、宇宙望遠鏡の観測データが集められているアーカイブを眺めていて、手つかずのまま残っていた41Pの画像に気づいた、というのが出発点です。

そのデータは、近日点通過から8か月後の2017年12月11〜14日に、ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3で撮られたものでした。使える画像24枚を足し合わせると、合計3840秒ぶんの露出になります。彗星はすでに太陽から2.8天文単位まで遠ざかっており、写っていたのはほとんど点にしか見えない核と、その周りのごくかすかなコマ(核を包むガスと塵)だけでした。

ここで手がかりになるのが、明るさのわずかな上下です。細長い天体が回転すると、こちらに向ける面積が周期的に変わり、それが明るさの変化として見えます。24枚の測光値には0.4等ほどの振れがあり、周期を探す手法(位相分散最小化法)にかけたところ、最もよく合ったのは0.599日——14.4時間の周期でした。明るさの山は1回転あたり2回来るので、この14.4時間が自転周期にあたります。振れ幅からは、核の見かけの縦横比が1.4対1以上あることも読み取れました。

近日点付近で測られていた24〜48時間台とは、まるで違う値です。

逆回転と判断した根拠

ここで厄介な問題があります。明るさの変化からは、天体がどちら向きに回っているかが分からないのです。時計回りでも反時計回りでも、光度曲線はまったく同じ形になります。つまり14.4時間という値だけでは、もとの向きのまま回転が速くなったのか、逆向きに回り出したのか、決められません。

そこでジューイット氏は、2017年春からの自転周期の変化を時間軸に並べ、両方の可能性を並べて検討しました。

逆回転だとすると、12月の測定値は、春からの減速をそのまま延長した曲線の上にきれいに乗ります。一方、もとの向きのままだとすると、春の観測のあとで、回転を遅くしていた力が何らかの理由で突然向きを変え、今度は加速させ始めたと考えなければなりません。素直なのは前者です。

この延長線で計算すると、41Pの自転は2017年6月9日ごろにいったん止まり、そこから逆向きに回り始めたことになります。論文はこれを「もっともらしい説明」として提示しており、断定はしていません。

小さな核ほど効く噴出の反動

回転を変えた犯人は、核から噴き出すガスだと考えられています。

彗星が太陽に近づくと、表面や表面近くの氷が温められて液体を経ずに直接ガスになり(昇華)、勢いよく宇宙空間へ吹き出します。この噴出が表面のあちこちから均等に出ていれば、押す力は打ち消し合って回転には効きません。ところが実際には、氷が露出している場所は限られており、噴出は偏ります。偏った位置から核の表面をかすめるような向きに噴けば、核を回そうとする、あるいは止めようとする力が生まれます。

ジューイット氏の言い方を借りれば、回っているメリーゴーラウンドを逆向きに押すようなものです。押し続ければいつかは止まり、さらに押せば逆に回り出します。

興味深いのは、41Pのジェットが特別に強いわけでも、特別に偏っているわけでもない点です。論文は噴出がどれだけ効率よく回転をひねっているかを表す指標を計算し、0.013という値を得ています。短周期彗星8個の中央値0.007の2倍ほどで、エンケ彗星と同じくらい。桁外れというほどではありません。

効いているのは、核の小ささのほうです。同じ力で押しても、小さくて軽いものほどよく回ります。41Pの核は差し渡し1キロ、密度は彗星でよく使われる値(1立方メートルあたり500キロ、水の半分ほど)を当てはめての計算になりますが、ガスの反動に振り回されるには十分に頼りない天体でした。派手な自転変化は噴出が異常だから起きたのではなく、核が小さいから起きた。論文はそう整理しています。

2001年からの活動低下

同じ解析からは、41Pの表面がこの20年ほどで大きく変わってきたことも見えてきます。

目安になるのは、水がどれだけ噴き出しているかです。2001年の太陽最接近では毎秒およそ1.5トンありました。それが2017年には毎秒約90キロまで落ちています。16年、軌道にして3周ぶんで、ほぼ一桁の減り方です。

これを核の表面積と突き合わせると、もっと極端な数字が出てきます。2017年の噴出量をまかなうのに必要な氷の面積は、核の表面積の0.14倍ほど。表面の1割強しか活動していない計算です。ところが2001年は2.4倍でした。核の表面がすべて氷でも足りない、という意味になります。

こういう彗星は「超活動的」と呼ばれ、核から放り出された氷の粒がコマの中で溶けながらガスを足している、と説明されます。41Pは16年のあいだに、その状態からむしろおとなしい部類の彗星へと変わったことになります。1973年には突然9等級——およそ4000倍——も明るくなる大増光を起こしており、表面が不安定なことは以前から知られていました。

彗星の表面が変わるには、ふつう何百年もかかると考えられてきました。氷が使い果たされたのか、噴き出した塵が積もって断熱材のように氷にふたをしたのか。理由ははっきりしませんが、人間が観測を続けられる時間の中で変化が見えている点が、41Pの珍しいところです。

分裂までの時間と残された矛盾

逆向きに回り始めた41Pは、そのまま速くなり続けていると考えられます。では、どこまで速くなれるのか。

自分の重力だけでまとまっている天体は、回転が速くなりすぎると遠心力が重力を上回り、赤道のあたりから物質がこぼれ落ちて壊れてしまいます。41Pの想定密度から計算すると、その境目はおよそ4.7時間。2017年12月の14.4時間からは、まだ距離があります。

とはいえ、2017年に測られた回転の変わり方をそのまま当てはめると、止まった状態から4.7時間に達するまでの時間は13年ほど。短周期彗星8個の傾向から得られた別の式でも、25年ほどという答えが出ます。どちらにしても数十年です。ジューイット氏はNASAの発表で、この核はすぐに自壊するだろうと見ている、と述べています。

ただ、この数字は素直に受け取ると別の疑問を生みます。41Pが今の軌道に入ったのは、木星に接近した約1500年前。軌道計算では、この先1万年ほどは似たような軌道にとどまるとされています。数十年で壊れるはずの天体が、なぜ1500年も残っているのでしょうか。

論文はふたつの逃げ道を挙げています。ひとつは、いまの41Pがたまたま活発すぎる時期にあるという説明。ふだんは塵の層が氷にふたをしていて噴出はもっと弱く、回転もそこまで変わらない。だとすれば、2017年の値から計算した「数十年」は短く見積もりすぎていることになります。もうひとつは、41Pがもともと数キロ級の大きな彗星で、削られたり割れたりして今の姿になった生き残りの破片だという説明。大きければ噴出の反動は効きにくく、長く持ちこたえられます。

どちらが正しいのか、あるいは両方が同時に効いているのか、いまのデータでは決められません。41Pがいまもそこにあること自体が、この彗星の来歴を絞り込む手がかりになっている。それが論文の落としどころです。

解釈上の留意点

受け取り方について、いくつか補助線を引いておきます。

まず、自転の反転は直接見えたわけではありません。明るさの変化からは回転の向きが読めないため、2017年春からの流れを自然に延長した解釈として「反転した可能性が高い」と結論しています。論文自身、もとの向きのままという解も光度曲線とは矛盾しない、と明記しています。

2017年12月の周期そのものにも幅があります。観測は4日間で24枚、時間の間隔もそろっていません。周期の候補は複数あり、そのうち小天体では明るさの山が1回転に2回来るのが一般的だという理由から14.4時間が選ばれています。核の大きさや密度、表面の反射率も、41Pについて直接測られた値ではなく、他の彗星から借りてきた仮定を含んでいます。

寿命の見積もりは、さらに幅が大きくなります。「数十年」は、2017年に測られた回転の変わり方が同じ向き・同じ強さで続くと仮定した計算です。論文は、実際には軌道を回るたびに噴出の場所も向きも変わるはずで、その場合は行きつ戻りつのランダムウォークに近くなり、実際にかかる時間はもっと長くなると書いています。数十年で必ず壊れる、という話ではありません。

なお、この論文は査読を経てThe Astronomical Journal誌に掲載されたものです。同じ内容のプレプリントがarXivで無料公開されているので、図を含めて誰でも確認できます。

次の近日点通過は2028年2月。観測条件は2017年より悪くなりますが、自転がどうなっているかを確かめる機会にはなります。数十年という見積もりが正しいのか、それとも41Pがもっとしぶといのか。答えが出るのは、それほど先のことではありません。

出典

論文:David Jewitt, “Reversal of Spin: Comet 41P/Tuttle–Giacobini–Kresak”, The Astronomical Journal, 171, 229(2026年3月26日掲載)/doi:10.3847/1538-3881/ae4355

プレプリント(無料で全文が読めます):arXiv:2602.06403

NASAプレスリリース:NASA’s Hubble Detects First-Ever Spin Reversal of Tiny Comet

紹介記事:Spin-Reversing Comet May Face Self-Destruction(Universe Today)

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