南極のペンギンが何を食べていたかを、現地に行かずに調べる方法がある。フンの色を、衛星から見るのだ。
クレムソン大学などのチームが、NASAとUSGSが運用する地球観測衛星「Landsat(ランドサット)」の画像を1984年から2013年まで30年分さかのぼり、南極大陸のほぼ全域にあるアデリーペンギンのコロニー(繁殖地)を解析した。狙いは個体数ではなく、食べもの。岩肌に残ったグアノ(フン)の色から、そのコロニーがオキアミ寄りの食生活だったのか、魚寄りだったのかを推定するというものだ。
結果は、海氷が多い年・多い場所ほど魚を多く食べ、海氷が減った年・減った場所ほどオキアミに頼っていた、というもの。しかもオキアミ寄りの食生活だったコロニーほど、その後に個体数を減らしている傾向があった。つまり、フンの色という一見ばかばかしい手がかりから、海氷の減少が食物網を通じてペンギンの数にまで届いている道筋が、大陸規模で見えてきた。論文は7月に Current Biology 誌に載っている。

アデリーペンギンという指標種
アデリーペンギンは、南極大陸をぐるりと取り囲むように繁殖地を持つ、南極でもっとも数の多い捕食者のひとつだ。ただ、食べているものの種類は多くない。繁殖期の主食はナンキョクイワシ(ショウワギス科の小魚)と、オキアミ——エビに似た小さな甲殻類——のほぼ二本立てである。
食べるものが少ないというのは、環境の変化がそのまま生活に響きやすいということでもある。海の状態が変われば、魚とオキアミのどちらが手に入りやすいかが変わり、それがペンギンの食卓に直結する。研究者が「炭鉱のカナリア」に例えるのはこのためで、共著者のマイケル・ポリト氏(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)も同じ言い方をしている。
問題は、南極が広すぎることだった。研究者が実際に行けるコロニーは限られるし、そこへ何十年も繰り返し通うとなると、さらに難しい。大陸のあちこちで同時に何が起きているのかを知る手段が、そもそもなかった。
フンの色に残る食性の痕跡
手がかりになったのが、営巣地の地面を染めるグアノの色だ。オキアミを多く食べているコロニーのフンは赤みを帯び、魚が中心のコロニーでは白っぽくなる。営巣地は密集していて、シーズン中はかなりの面積が染まるので、宇宙からでも色の違いが拾える。
ここで研究チームが使ったのは、目で見た「赤っぽい/白っぽい」ではなく、スペクトル特性だ。可視光から赤外線までの波長ごとに、どれだけ光を反射するかを数値で並べたものだ。人間の目は色を3種類のセンサーでざっくり捉えるが、衛星のセンサーは波長帯を細かく分けて測るうえ、目に見えない赤外線まで含む。だから、見た目ではほとんど同じに思える色の差も数値として区別できる。
解析の手順と較正の方法
とはいえ、「この色ならオキアミ何割」と言い切るには、答え合わせが要る。チームがやったのはこうだ。
まず筆頭著者のケイシー・ヤングフレッシュ氏が、実際にコロニーへ出向いてグアノを採取した。集めたのは103点。これを研究室に持ち帰り、一つひとつの反射スペクトルを測る。
同じサンプルに対して、今度は安定同位体分析をかける。生きものの体には、食べたものの由来が窒素の同位体比(δ15N)として残る。食物連鎖の上のほうにいる生きものを食べているほどこの値は高くなるので、魚を多く食べていれば高く、オキアミ寄りなら低く出る。つまり「そのフンの主が、オキアミ〜魚のどのあたりを食べていたか」を化学的に決められる。
これで、同じサンプルについて「色」と「食性」の両方が手に入った。あとは色と食性を結ぶモデルを統計的に組み立て、それをLandsat画像に当てはめていけばいい。現地に行けなかったコロニーの、30年前の食生活まで推定できる、という仕組みだ。

Landsatは1972年から続く地球観測プログラムで、同じ場所を繰り返し撮り続けているのが強みだ。もちろんペンギンの食生活を調べるために打ち上げられたわけではない。ヤングフレッシュ氏はこの点を、新しかったのは衛星技術そのものではなく、蓄積された画像を現代の地球化学・統計・計算の道具と組み合わせられたことだ、と説明している。誰もこんな使い道を想定していなかった画像アーカイブが、30年越しに別の答えを出したことになる。
海氷の量と食性の対応
解析からは、大陸のどこにいるかで食性がはっきり違うこと、そして年ごとの食性の揺れが海氷の動きと強く結びついていることが出てきた。
傾向は単純で、海氷が多い年・多い場所では魚の割合が高く、海氷が少ないと、オキアミへの依存が強まる。ナンキョクイワシの生活史が海氷と深く結びついているためで、氷が減れば魚が手に入りにくくなり、代わりにオキアミを食べることになる。
食性と個体数の関係
そして、食性は個体数の長期的な変化とも対応していた。オキアミ寄りの食生活をしていたコロニーは、魚寄りのコロニーより減少している率が高かったのだ。
これは、これまでの研究とも噛み合う。魚を多く与えられたヒナのほうが大きく育ち、生き延びる見込みも高いことが分かっている。オキアミは魚ほど栄養価が高くないうえ、南極の一部海域ではオキアミ自体が減りつつある。水温の上昇に加え、いったん激減してから回復してきたアザラシやクジラが食べる量が増えていること、そして人間の漁業も競合相手になっている。
ヤングフレッシュ氏は、ペンギンがオキアミを食べられないわけではない、ただ以前より手に入る量が減っているのだろう、という趣旨のことを述べている。代わりが利かないわけではないが、代わりでは足りない、という状況だ。
今後の観測への意味
この研究がカバーしたのは2013年までで、じつはその後のほうが状況は厳しい。南極の海氷は近年、大規模な減少と観測史上最低の記録が相次いでいる。この傾向が続けば、アデリーペンギンはより広い範囲でオキアミ中心の食生活に移らざるを得ない、というのがチームの見立てだ。
もうひとつの意味は、手法そのものにある。野生動物の食性は、これまで基本的に現地で調べるものだった。それを衛星画像から、大陸規模・数十年スケールで復元できることが示された。研究チームは、食物網の動きを大陸規模かつ数十年単位で衛星から捉えたのはこれが初めてだとしている。ペンギンは営巣地が密集していて色が出やすいという条件のよさがあるにせよ、既存の衛星アーカイブに、まだ誰も取り出していない生態系の記録が眠っている可能性は考えてよさそうだ。
解釈上の留意点
いくつか、割り引いて読むべきところがある。
色から食性を読むのは、あくまで推定だ。103点のサンプルで作った対応関係を大陸全体に広げているので、地面の素材や湿り気、雪、太陽の高さ、コロニーの密度といった条件が違えば、色のほうもずれる。モデルには当然、推定の幅がついている。「このコロニーはオキアミ何割だった」と一点で言い切れる話ではない。
「初めて」という表現も、研究チーム自身の位置づけであることを踏まえておきたい。衛星でペンギンのコロニーを数える研究は以前からあり(共著者のヘザー・リンチ氏らが進めてきた)、今回はそこに食性という軸を足したものだ。まったく前例のない発想が突然現れた、という種類の話ではない。
それから、食性と個体数の減少が対応していたというのは、相関であって、オキアミを食べたから減ったと直接示したわけではない。海氷の減少が魚も個体数も同時に左右している、といった見方も残る。データが2013年までで止まっている点も含め、現在の南極でそのまま同じことが起きていると読み替えるのは早い。
出典
- Space-based monitoring of penguin diet links sea ice, food webs, and population change(Current Biology)※本文は有料
- Clemson researcher uses satellites to track what penguins eat from space(クレムソン大学プレスリリース)
- The color of penguin poo(カリフォルニア大学サンタクルーズ校プレスリリース)
- Stony Brook University Researchers Use Satellites to Track What Penguins Eat from Space(ストーニーブルック大学プレスリリース)
- Satellite Images of Penguin Poo Reveal Climate Change’s Impact on the Species(Universe Today)


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