宇宙にはいま、別々のところで宙ぶらりんになっている謎がふたつあります。ひとつは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が初期の宇宙で大量に見つけた、正体不明の赤い天体「小さな赤い点」。もうひとつは、南極の氷の下で十年以上とらえ続けられている、どこから来たのかわからない高エネルギーのニュートリノ。京都大学を中心とする研究チームが出した論文は、この2つが同じ1つの答えでつながるかもしれない、と提案しています。
ウェッブが見つけた赤い点
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が動き始めてまもなく、画像の中に妙なものがたくさん写っていることがわかりました。とても小さく写り、そして赤い。英語ではそのまま「Little Red Dots(小さな赤い点)」、略してLRDと呼ばれています。
見つかっているのは、赤方偏移でいうz=4〜7あたり。光が地球に届くまでに宇宙が大きく膨らんだぶん波長が伸びている度合いのことで、ざっくり言えば宇宙が生まれて10億年前後という、かなり初期の時代です。
やっかいなのは、性質がちぐはぐなことでした。スペクトル(光を波長ごとに分けたもの)には幅の広い輝線が出ていて、これは普通なら「中心に成長中の超巨大ブラックホールがある」というサインです。ところが、そういう天体につきもののX線や電波が、ほとんど検出されない。ブラックホールが物質を勢いよく飲み込んでいるなら、もっと派手に光っているはずなのに、静かなのです。
この食い違いを説明する有力な考え方のひとつが、中心のブラックホールが濃いガスの「繭(まゆ)」にすっぽり包まれているという描像です。中で出た光は厚いガスに吸収されたり散らばったりして、外に出てくるころには赤外線寄りのぼんやりした光に変わっている。だから赤く見えるし、X線や電波は繭に閉じ込められて出てこない、というわけです。ただしこの解釈もまだ確定ではなく、LRDの正体そのものが議論の途中にあります。

南極の氷が受け止めてきた粒子
もうひとつの謎は、まったく別の分野の話です。
ニュートリノは、電気を帯びていない、重さがほぼゼロの素粒子です。いちばんの特徴は、ほかの物質とめったにぶつからないこと。地球でさえ素通りしてしまうので、検出するには巨大な仕掛けが要ります。そこで南極の氷そのものを検出器に使ってしまったのが、アイスキューブ観測所(IceCube)です。氷の中に1立方キロメートルにわたってセンサーを埋め、まれに氷とぶつかったニュートリノが出す青い光をとらえます。
アイスキューブは2013年以降、宇宙からやってくる高エネルギーのニュートリノを継続的に検出してきました。空のあらゆる方向から、ほぼまんべんなく降ってきています。ところが、その大部分についてはどの天体から来たのかがわかっていません。個々の発生源を特定できた例はごくわずかで、全体の量を説明できるほどではないのです。
発生源が満たすべき条件
発生源探しには、ひとつ厄介な縛りがあります。
高エネルギーのニュートリノは、陽子のような粒子がものすごい速さまで加速され、周囲の光や物質にぶつかることで生まれます。そしてこの反応が起きると、ニュートリノと一緒にガンマ線もできます。セットで出てくるのです。
ところが、宇宙から届くガンマ線の総量はすでに測られていて、その値はそれほど多くありません。もし観測されているニュートリノの発生源がすべて、ガンマ線も素直に外へ逃がすタイプだったとすると、計算上、ガンマ線の観測値を超えてしまいます。つじつまが合わない。
つまり、探すべき発生源は「ニュートリノは出すのに、ガンマ線は外に出てこない」場所だということになります。ガンマ線は物質に吸収されますが、ニュートリノはほとんど何ともぶつからないので、厚いガスの中で作られてもそのまま抜け出してくる。だから、分厚いものに覆われた天体ほど、条件に合うのです。
ここでLRDの話とつながります。濃いガスの繭に包まれたブラックホール——それは、まさに探されていた「隠れた発生源」の条件そのものでした。
繭の内側で起きていること
研究チームが考えたシナリオは、こうです。
繭の中心にあるブラックホールからは、細く絞られたジェット(噴き出す高速の物質の流れ)や、より広がった噴き出し(アウトフロー)が出ています。ジェットは繭を突き破って外まで出るのではなく、繭の内側にとどまったまま、比較的ガスの薄い極方向の「トンネル」を進んでいきます。
このトンネルの中で、陽子などの粒子が極端なエネルギーまで加速されます。加速された陽子は、繭の中に満ちている大量の光子とぶつかる。光子との衝突で中間子ができ、それが崩壊してニュートリノが生まれます。この反応で同時にできたガンマ線は、濃いガスに吸収されて外へは出られません。一方ニュートリノは、繭を素通りして宇宙空間に飛び出していきます。
そしてLRDは、数がとても多い。研究チームが典型的な明るさと個数密度を使って見積もったところ、LRD全体が出しうるエネルギーの規模は、観測されている拡散ニュートリノ背景放射(空全体から降ってくるニュートリノの総量)の量と、けたが合っていました。つまり、量的につじつまが合ってしまう。
見積もられた寄与の大きさ
チームは大づかみの計算に加えて、粒子の加速や、そこから生まれる二次的な粒子、それらがエネルギーを失っていく過程まで追う数値計算も行い、LRDから期待されるニュートリノのスペクトルを求めました。
その結果、条件を楽観的に置いた場合、LRDはTeV(兆電子ボルト)から1PeVに届かないくらいのエネルギー帯で、観測されている拡散ニュートリノ背景放射のおよそ30%を説明できる、という数字が出ました。想定した典型的なLRDは、ブラックホールの重さが太陽の約300万倍、それを包む繭の重さも同じくらいです。ちなみに私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホールが太陽の約400万倍なので、規模としてはそれに近いものを考えていることになります。
言い方には注意が必要で、これは「LRDがニュートリノの正体だった」という話ではありません。第一著者の久世陸さんも、LRDがアイスキューブのニュートリノの主要な起源だと立証したわけではなく、無理のない仮定のもとでその一部を担いうる、と示したものだと説明しています。それでも、ずっと空席だった「隠れた発生源」の候補席に、有力なものが1つ座った、というのが今回の意味です。
仮説を確かめる方法
では、この説が正しいかどうかはどうやって確かめるのでしょうか。
LRDはあまりに遠く、暗い。個々の天体をひとつ名指しして「ここからニュートリノが来た」と直接示すのは、当分むずかしそうです。そこでチームが提案しているのが、別の指標を見るやり方です。
ニュートリノには電子型・ミュー型・タウ型という3つの種類(フレーバー)があり、地球に届くときの3種類の混ざり具合は、どこでどう作られたかによって変わります。今回のシナリオでは、高いエネルギー帯(およそ105.5GeV以上)で、途中にできるミュー粒子が周囲の光にエネルギーを奪われて冷える効果が効いてきます。これが最終的なフレーバーの比率に、ほかの説とは違う特徴を残すというのです。
この違いを読み取れれば、発生源そのものを見なくても仮説を試せます。頼りになりそうなのが、アイスキューブを大きく拡張する次世代計画IceCube-Gen2などの観測装置です。つまり検証のカギは、宇宙望遠鏡ではなく氷の中の検出器のほうにある、という筋書きになっています。
解釈上の留意点
いくつか、押さえておきたいところがあります。
まず、この研究は観測でニュートリノの発生源を突き止めたものではありません。理論計算にもとづく提案です。論文はPhysical Review D誌に掲載された査読済みのものですが、内容は「こういう条件ならこうなるはず」という見積もりであって、検出結果ではありません。
次に、土台になっているLRDの描像自体がまだ確定していません。「濃いガスの繭に包まれたブラックホール」は有力な解釈のひとつですが、LRDの正体をめぐる議論はいまも続いています。土台が変われば、その上に乗る結論も変わります。
そして「30%」という数字は、条件を楽観的に置いたときの上限に近い値です。ジェットが繭の中にとどまる条件がどれくらい一般的なのか、加速の効率がどの程度なのかによって、実際の寄与はもっと小さくなりえます。フレーバー比の精密な予測や、ジェットが埋もれる条件の解明は、これからの課題として残されています。
それでも、まったく別々に転がっていた2つの謎が、1本の線でつながる可能性が出てきたこと自体が面白いところです。答え合わせは、南極の氷が引き受けることになりそうです。
出典・もっと知りたい人へ
研究論文(Physical Review D、有料):Little red dots as hidden neutrino sources(Kuze et al., Phys. Rev. D, 2026年4月28日)
同論文のプレプリント(arXiv、無料で全文読めます):arXiv:2601.11203
京都大学のプレスリリース:The little red galaxies that may be sending us neutrinos
アイスキューブ観測所:IceCube Neutrino Observatory


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