月の砂を溶かして酸素を取り出す ブルーオリジンが公開した装置

宇宙開発
スポンサーリンク

アメリカの宇宙企業ブルーオリジンが、月の砂(レゴリス=月面をおおう細かい砂や岩の層)を模した砂を溶かして、そこから呼吸できる酸素を取り出す装置を公開した。「Air Pioneer(エア・パイオニア)」と名づけられたこの装置は、いずれ月に置いて、地球から酸素を運ばずに現地でまかなうことを狙っている。月で人が長く暮らすうえで欠かせない「空気の現地調達」に、一歩近づいた話だ。

月の砂に眠る酸素

意外に思うかもしれないが、月の砂の重さのおよそ半分は酸素だ。ただし気体として転がっているわけではなく、鉄やチタン、シリコン、アルミといった金属とがっちり結びついた「酸化物」の形で閉じ込められている。だから、ただ掘っても吸える空気にはならない。金属との結びつきを切り離して、酸素だけを気体として取り出す仕組みが要る。

もし月の上でこれができれば、酸素は二重に役立つ。ひとつは呼吸用。もうひとつはロケットの燃料としてで、酸素は燃料を燃やすための「酸化剤」に使える。地球から月まで酸素を運ぶのは重くて高くつくうえ、爆発の危険もある。現地で作れるなら、その荷物を丸ごと減らせる。こうした「行った先にあるものを使う」考え方は、宇宙開発でISRU(In-Situ Resource Utilization=現地資源利用)と呼ばれている。

Air Pioneerが酸素を取り出す仕組み

Air Pioneerは、大きく2つの部品からなるモジュール式のシステムだ。ひとつは砂を溶かして反応させる「リアクター(反応炉)」、もうひとつは出てきたガスをきれいにする「精製システム」。この2つを組み合わせて、砂から使える酸素までを一気通貫でつくる。

核心は「溶融レゴリス電気分解」という方法にある。名前は難しいが、やっていることはシンプルだ。まず砂をおよそ1,600℃まで熱してどろどろに溶かす。次に、その溶けた砂に電流を流す。すると、金属と結びついていた酸素が引きはがされて気体になり、一方の電極へ集まっていく。反対側には鉄やシリコンといった金属がたまる。学校の実験で水に電気を流して水素と酸素に分けたのと、発想は同じだ。ちがうのは、相手が水ではなく1,600℃の溶けた岩だという点になる。

こうして出てきた酸素は、まだ他のガスが混ざったままなので、精製システムを通してより分ける。ブルーオリジンによれば、最終的には医療に使えるほど純度の高い酸素や、ロケットの推進剤に使える酸素になるという。しかも、水も有害な薬品も使わず、二酸化炭素も出さない。副産物として出てくる鉄・アルミ・シリコンも捨てずに済み、月面での建材やソーラーパネルの材料に回せる。

「世界初」という言葉との距離

今回の発表は、一部のメディアで「月の砂から酸素を取り出すのに世界で初めて成功した」と報じられた。ただ、この言い方はやや行き過ぎている。月の砂(を模した砂)から酸素を取り出す研究そのものは、以前から続いてきたからだ。

たとえばNASAは、電気分解でレゴリスから酸素を得る「GaLORE」という技術に数年前から取り組んでいる。研究室レベルで見れば、月の岩を電気分解して酸素を取り出す試み自体はもっと古くからある。ヨーロッパの企業も似た挑戦をしてきた。だから「誰もやったことのないことを初めてやった」わけではない。

では今回、何が新しいのか。ブルーオリジンが示したのは、こうした処理を営利企業として、いずれ月へ運べる小型・モジュール式の装置の形にまとめ、実際に酸素を取り出してみせたことだ。研究室の大がかりな設備は、そのまま月に送るには重すぎて扱いにくい。それを「飛ばせるサイズ」に近づけようとしている点が、今回のポイントになる。「まったくの初」ではなく、「実用に向けた作り込みが一段進んだ」と受け止めるのがちょうどいい。

月面での資源利用に向けて

ブルーオリジンは、Air Pioneerを同社のより大きな計画「Blue Alchemist(ブルー・アルケミスト)」の一部と位置づけている。この計画は、月の砂を出発点に、酸素だけでなくソーラーパネルや送電用のワイヤー、金属までを現地でつくり出すことを目指すものだ。酸素はその中の「呼吸と燃料」を担う部分にあたる。

月に恒久的な基地をつくろうとすると、いちばん重くのしかかるのが「地球から運ぶ荷物の量」だ。空気も、燃料も、建材も、すべて打ち上げていては費用がかさむ。現地で作れるものが増えるほど、運ぶ荷を減らせて、月に長くとどまる現実味が増していく。今回の酸素の取り出しは、その「現地調達リスト」に呼吸用の空気を加えるための一歩、という位置づけになる。

現時点での留意点

期待の大きい話ではあるが、いくつか押さえておきたい点がある。

まず、今回のデモはあくまで地上での実験で、使ったのは月の砂そのものではなく、それを模した「模擬レゴリス」だ。本物の月の砂は場所によって成分が違い、装置の中で模擬物とまったく同じようにふるまうとは限らない。月面での実証は、これから先の段階になる。

電力の問題もある。この装置を動かすにはおよそ1メガワットもの電力が要るとされ、月に置くなら近くに大きなソーラーパネルなどの電源が欠かせない。また、1メガワットでどれだけの量の酸素が作れるのかといった具体的な数値は、今回はっきりとは公表されていない。「作れる」ことと「基地の人数分を安定してまかなえる」ことの間には、まだ距離がある。

とはいえ、地球から酸素を運ぶ以外の道が、企業の手で実際に形になり始めているのは確かだ。派手に構えず、こうした一歩が積み重なっていくのを見ていきたいテーマだ。

出典

Blue Origin 公式発表(Air Pioneer・Blue Alchemist)
https://www.blueorigin.com/news/blue-alchemist-hits-major-milestone-toward-permanent-sustainable-lunar-infrastructure

The Telegraph「Oxygen made from Moon dust for the first time」(2026年4月9日)
https://www.telegraph.co.uk/news/2026/04/09/oxygen-made-from-moon-dust-for-the-first-time/

BBC Sky at Night Magazine「US space firm Blue Origin just extracted oxygen from Moon dust」
https://www.skyatnightmagazine.com/news/blue-origin-air-pioneer

Hackaday「From Lunar Dust To Breathable Air」(先行研究との関係にふれた解説)
https://hackaday.com/2026/04/13/from-lunar-dust-to-breathable-air/

コメント

タイトルとURLをコピーしました