宇宙でエビは餌を食べるのか——岡山理科大が挑む「宇宙養殖」の第一歩

科学・宇宙
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宇宙に出ると、食べ物は自分たちで持っていくしかない。地球でいちばん古い食べ物のひとつが魚介類だけれど、水の中で暮らす生き物が無重力に近い環境でどうふるまうのかは、意外なほど分かっていない。岡山理科大のチームが、この問いにまずエビで取り組んだ。模擬的な微小重力の中でも、エビはちゃんと餌を食べる——それが今回の論文の中身です。

「宇宙で魚は飼えるのか」というと魚そのものを思い浮かべるけれど、今回データが取れたのはエビと、その仲間のアルテミア(=ブラインシュリンプ、体長1mmほどの小さな甲殻類)。魚はカメラの性能が追いつかず、今回は撮れませんでした。なので正確には「水生生物のうち、まずエビの仲間で確かめた」話になります。

宇宙での食料という課題

長い宇宙滞在では、食事が地味に大きな問題になる。栄養だけならタブレットのような形でも摂れるけれど、それだけで何か月も過ごすのは精神的にこたえる。良質なタンパク質や必須脂肪酸という点で、魚介類は有力な候補になります。

ただ、育ったエビや魚をそのまま打ち上げるのは効率が悪い。現実的には、稚エビや稚魚、幼生、卵といった小さな状態で運んで、現地で育てることになります。ところがこの稚魚・幼生は外からの刺激に弱く、そもそも無重力に近い環境でちゃんと餌を食べられるのかがよく分かっていなかった。そこを確かめよう、というのが今回の実験の出発点です。

地上で微小重力を作る仕組み

まず悩ましいのが、地上でどうやって微小重力を作るか。よく使われる落下塔(自由落下させる装置)や放物線飛行は、本物の無重量状態を数秒しか作れず、生き物をじっくり観察するには短すぎる。国際宇宙ステーションを使う手もあるけれど、費用も高く、実験に割けるスペースも限られています。

そこで登場するのが「クリノスタット」という装置。2つの軸でぐるぐる回して、重力がかかる向きを絶えず変えることで、時間で平均すると重力がほぼ打ち消される——という仕組みで、微小重力を模擬します。単細胞生物や植物にはよく効くのですが、エビや魚のように自分で機敏に動ける生き物には効きにくい。ゆっくり回すと、生き物のほうが姿勢を立て直してしまい、無重力にならないのです。

従来のクリノスタットは毎分10〜25回転ほど。研究チームはここを思い切って上げ、毎分約130回転(毎秒2回転以上)で回る高速版を自作しました。速く回せば、エビが向きを立て直す前に次の向きへ変わってしまうので、擬似的な無重量状態を作り出せる、という発想です。

エビの摂餌行動の観察

この高速クリノスタットに、クルマエビの稚エビを入れて15分間、模擬微小重力にさらしました。カメラとライトを備えた小さな箱の中で、エビが餌を食べる様子をじっと観察します。

高速で回すと中の水もかき混ざり、秒速0.15mほどの水流ができた。エビはこの流れに流されまいと、容器の中に用意されたプラスチックの網につかまっていたそうです。餌も、口の前に来たペレットだけを口にして、ふだんの1G(地上の重力)のように積極的に探し回ることはしなかった。そして興味深いことに、水流が止まったときにいちばんよく食べていました。

エビの食べ方が控えめだったのが、水流のせいなのか微小重力そのもののせいなのかは、今回はっきり切り分けきれていません。それでも、流れが止まると活発に食べ始めたことから、エビは無重力でも自分から餌をとりにいく、と考えてよさそうだ——というのが著者らの見立てです。

遺伝子に現れた変化

研究チームは、食べる様子だけでなく、体の中の変化も調べています。24時間ぶん模擬微小重力にさらしたエビと、ふつうの1Gで過ごしたエビとで、RNA(遺伝子の働きを写し取る分子)を比べました。使ったのはGO解析(遺伝子オントロジー解析=どんな働きの遺伝子が変化したかを分類する手法)です。

すると、キチン(エビの殻をつくる成分)の代謝に関わる遺伝子や、外側の殻(クチクラ)の発生に関わる遺伝子に、はっきりした変化が出ていました。どちらも運動と殻に直結する部分なので、微小重力がエビの動きに、体の中のレベルでも影響している可能性を示しています。

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▼ ここに水中でメッシュにつかまり餌を食べるエビのイメージ(shrimp-feeding-microgravity.png)を挿入 ▼
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補助役を務めたブラインシュリンプ

エビは体が大きいぶん、統計的に十分な数をそろえて実験するのが難しい。そこで補助として使われたのが、アルテミア(ブラインシュリンプ、通称「シーモンキー」)です。1匹1mmほどと小さく成長も速いので、まとめて観察しやすい。

このアルテミアを4日間ずっと回し続けたところ、餌の藻をちゃんと食べ、排泄もし、体も目に見えて大きく育ちました。つまり模擬的な微小重力の中でも、目立った悪影響なく、ふつうに生きて成長できたということ。小さな甲殻類なら、無重力に近い環境でも生き延びられそうだ、という手応えです。

宇宙養殖研究の中での位置づけ

今回の論文は、岡山理科大が進める「宇宙養殖プロジェクト」の最初の成果報告にあたります。月や火星の基地で魚介類を育てられるようにする、という長期の目標に向けた、まずは足場固めの研究です。

魚そのものについては、今回は撮影がうまくいかず持ち越しになりましたが、世界を見渡すと似た挑戦はほかにもあります。月面で受精卵を水に入れて孵そうとする「Lunar Hatch」計画や、ISS向けに全自動の養殖システムを開発する「SpaceGenFish」などです。宇宙で新鮮な魚介を育てる、という発想そのものは、少しずつ現実の研究テーマになってきています。

解釈上の留意点

面白い話ですが、受け取り方には少し注意がいります。まず今回はあくまで地上のクリノスタットで微小重力を「模擬」した実験で、本物の宇宙で行ったものではありません。装置で作る擬似的な無重量状態と、実際の宇宙環境がどこまで同じかは、これから確かめる部分です。

そして中心になったのはエビとアルテミアで、魚のデータは今回取れていません。「宇宙で魚が飼える」と確かめられたわけではなく、まずエビの仲間で入口を押さえた段階です。エビの控えめな食べ方が水流由来か微小重力由来かも、まだ切り分け途中。全体として「宇宙養殖が始まった」ではなく、そこへ向かう基礎研究、という枠で見るのがちょうどよさそうです。

なお、このプロジェクトでは今回の論文とは別に、マダイの卵を模擬微小重力下で孵化させることにも成功していると報告されています。魚での本格的な観察は、これからの課題ということになります。

出典

この記事は、以下をもとに書きました。

  • Universe Today「Scientists are Teaching Shrimp to Eat in Microgravity for Future Moon Bases」(Andy Tomaswick、2026年7月17日):記事を読む
  • 岡山理科大/EurekAlert プレスリリース「First paper published from Space Aquaculture Research」:プレスリリースを読む
  • 元論文:C. Yokota et al., “In Situ Observation of Shrimp Feeding Process Under Microgravity Environment,” Microgravity Science and Technology 38, 41 (2026):論文を見る(DOI: 10.1007/s12217-026-10262-3)

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