ゴッホの絵に見える星形成領域、DECamが撮影

科学・宇宙
スポンサーリンク

5億7000万画素のカメラで撮った星空は、ゴッホの絵に似ていました。チリのブランコ4メートル望遠鏡に載った暗黒エネルギーカメラ(DECam)が公開した新しい画像のことです。うずを巻く塵の帯、青くにじむガス、点々とちらばる若い星——「星月夜」を思い浮かべた人が多かったのもうなずけます。

ただ、この画像がおもしろいのは見た目だけではありません。写っているのは、地球からいちばん近い部類の「星の生まれる現場」です。

撮影機材の規模

DECam(Dark Energy Camera)は、米エネルギー省の資金でフェルミ国立加速器研究所が製作したカメラです。検出器を74枚ならべ、レンズの直径は1メートル近く。1回の撮影で5億7000万画素という広い視野を、細かいところまでつぶさずに写せます。

設置されているのは、チリのセロ・トロロ汎米天文台にあるビクター・M・ブランコ4メートル望遠鏡。もともとは宇宙の膨張が加速している原因、いわゆる暗黒エネルギーを探る大規模サーベイのために作られた装置ですが、こうして一枚の風景写真としても働いてくれます。

みなみのかんむり座分子雲の位置

写っているのは、みなみのかんむり座(南天の星座で、ラテン語名は「南の冠」)の方向にある分子雲です。距離は地球から約430光年。差し渡しは16光年ほどと見積もられています。宇宙の距離としては、ほとんど「隣町」です。

分子雲というのは、水素分子と塵からなる、冷たくて濃いガスのかたまりのこと。ここが重力で縮んでいくことで星が生まれるので、星形成領域とも呼ばれます。有名なオリオン座分子雲やへびつかい座の領域にくらべると研究例は少なめですが、近さでは引けを取りません。

星が生まれる場所が暗く見える理由

画像の左半分には、黒い帯がうねっています。何もない空間に見えますが、逆です。そこがいちばん物質の濃いところです。

理由は塵(ダスト)にあります。分子雲に含まれる固体の微粒子は、大きさが可視光の波長と同じくらい。そのため可視光をよく散乱・吸収してしまい、奥から届くはずの星の光をさえぎります。星がぎっしり詰まっている領域ほど、可視光では真っ暗な穴のように写る——つまり、暗いのは「星がない」からではなく「手前が濃すぎて見えない」からです。

同じ場所を赤外線で見ると景色が変わります。波長が長い赤外線は塵のすきまを比較的すり抜けやすく、雲の内側で育っている星が見えてきます。星形成の研究に赤外線望遠鏡が使われるのは、このためです。

画像に写り込んだ天体

左側でオレンジ色に光っているのは、NGC 6729という星雲です。ここを照らしているのは、Rみなみのかんむり座という連星。片方はまだ水素の核融合を始めていない前主系列星(生まれかけの星)で、もう片方は赤色矮星です。この2つは43〜47年ほどかけてたがいを回っています。

そこから視線を右上へ移すと、青白いガスが広がります。生まれたての星が周囲のガスを照らしているところです。ベージュと青がまだらに混じる部分は、NGC 6726とNGC 6727という反射星雲で、右下へ伸びてIC 4812につながっています。

右上に粒のかたまりが見えるのはNGC 6723、通称「シャンデリア星団」。球状星団と呼ばれる、星が数万から数百万個も球状に集まった天体です。見た目は分子雲のすぐ隣にありますが、実際の距離は約2万9000光年。手前の星形成領域とはまったく別世界で、たまたま同じ方向に重なっているだけです。

拡大画像には、HH100というハービッグ・ハロー天体も写っています。生まれたばかりの星が細く絞ったガスの噴流(ジェット)を吹き出し、それが周囲のガスにぶつかって光っているものです。この光る構造の寿命は数万年程度。天文の時間感覚ではまばたきのようなもので、いま見えている形は今この時期だけのものです。

静止していない分子雲

絵のように見えても、この雲は止まっていません。2023年に発表された研究では、みなみのかんむり座の複合体が銀河面から離れる向きに加速していることが示されました。これだけの運動エネルギーを与えるには、超新星爆発が2回必要だった計算になるといいます。

2025年の研究では、この複合体が年齢の若い「CrA-Main」と、より古い「CrA-North」の2つに分けられ、かつては今より近くにあったものがたがいに離れつつあることが報告されています。つまりこの一枚は、いくつもの爆発と離散を経てきた領域の、途中経過を写した写真ということになります。

解釈上の留意点

いくつか補足を。まず距離の数値は資料によって425光年から430光年程度と幅があります。分子雲は端がぼやけた天体なので、どこを測るかで値が動きます。

色についても、天体写真は複数のフィルターで撮った画像を合成して作られており、肉眼で望遠鏡をのぞいてこの色が見えるわけではありません。誇張ではなく、可視光の各波長帯をどう色に割り当てるかという処理の結果です。

また、NGC 6729の分類は資料により「反射星雲」「輝線星雲」と表記が分かれます。近くの若い星の光を塵が反射している成分と、紫外線でガスが電離して自ら光る成分の両方がありうるためで、どちらか一方が誤りというわけではありません。

出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました