大きな星が一生を終えると、中心部がつぶれてブラックホールができる。教科書に載っている、ブラックホールの標準的な生まれ方だ。ところが重力波の観測データを調べ直したところ、そうではない生まれ方をしたブラックホールが、思っていたより多いことが見えてきた。
MITの研究チームの解析によると、宇宙で合体しているブラックホールのうち、およそ14%は「二世代目」——つまり、それ自体が過去に別のブラックホール同士の合体でできたもの——らしい。ブラックホールにも親がいて、家系図が描ける、という話になる。
ブラックホールの標準的な生い立ち
まず前提から。重力波は、時空そのものがわずかに伸び縮みしながら伝わっていく波で、アインシュタインが100年以上前に存在を予言していた。ブラックホール同士の衝突のような激しい現象が起きると発生し、アメリカのLIGO(ライゴ)、イタリアのVirgo(バーゴ)、日本のKAGRA(かぐら)という3つの装置が地上でそれを捉えている。2015年に初めて直接とらえられて以来、見つかった合体はすでに数百件にのぼる。
そうして見つかったブラックホールの多くは、重い星が超新星爆発を起こしたあとに残ったものと考えられてきた。ただ、できあがったブラックホールがそこで終わりとは限らない。周りに別のブラックホールがいれば、また引き寄せ合ってぶつかり、さらに重いブラックホールになりうる。それがもう一度、また一度と繰り返される可能性もある。この「合体の積み重ね」を、階層的合体(かいそうてきがったい)と呼ぶ。
ただし、これが起きるには条件がいる。合体でできたブラックホールが次の相手を見つけられるほど、周囲が混み合っていなければならない。星がぎゅうぎゅうに詰まった星団のような環境が、その舞台の候補になる。

155件の解析が示した割合
研究チームが使ったのは、LIGO・Virgo・KAGRAがまとめた重力波カタログ「GWTC-4.0」だ。このうち誤検出の確率が十分に低いブラックホール連星153件に、4回目の観測の後半で見つかった特徴的な2件(GW241011とGW241110)を加えた、計155件を対象にした。
これまでの研究は、「この1件は階層的合体らしい」と、気になるイベントを一つずつ詳しく調べる形が中心だった。今回はやり方が違う。155件をまとめて一つの集団として扱い、そこに階層的合体が混ざっているならこう見えるはずだ、というパターンをデータ全体から探した。
結果として、合体しているブラックホールのうち階層的合体にあたるものの割合は、約14%と見積もられた。推定には幅があり、7%から26%ほどの間に収まるという結果になっている。つまり、ブラックホールが二度三度と合体を重ねる道筋は、例外的な出来事ではなく、無視できない割合を占めているということになる。
自転と歳差運動という手がかり
では、どうやって世代を見分けるのか。鍵になるのは自転(スピン)の速さだ。
重い星が超新星爆発を起こすとき、星は大量の質量を吹き飛ばすと同時に、自分が持っていた回転の勢いも大きく手放す。あとに残されるブラックホールは、ほとんど回っていない状態になると考えられている。
一方、ブラックホール同士の合体でできたブラックホールは事情が違う。二つが互いのまわりを回っていた勢いがそのまま引き継がれるので、勢いよく回る。理論上は、そのブラックホールが取りうる自転の上限の7割ほどの速さになる。回っているかいないかで、生い立ちが分かれるわけだ。
この違いが観測に効いてくる。合体の直前、二つのブラックホールは円盤のような面に沿って互いに近づいていく。自転の向きがその面に対してまっすぐ立っていれば、面の向きは安定したままだ。ところが自転が傾いていると、面そのものがコマの首振りのようにぐらつく。歳差運動(さいさうんどう)と呼ばれる動きで、このぐらつき方には、二つのブラックホールの重さの釣り合いと自転の情報が刻まれている。
チームは、1世代目と2世代目が組んだ場合にどんなぐらつき方が現れるかをモデル化し、それを155件すべてに当てはめた。すると、そのパターンに合う合体がいくつも浮かび上がってきた。今回の解析で読み取れた2世代目の自転の速さは上限の66%ほどで、理論が予想していた7割という値とよく合っている。

質量帯ごとに分かれる出自
面白いのは、その割合が重さによってはっきり変わることだ。
太陽の9倍や30倍あたりのブラックホールは、ほぼすべてが1世代目だった。この帯では2世代目の割合が1割強より小さいと絞り込めていて、星から直接生まれたものが占めていると考えてよさそうだ。
ところが太陽の13〜20倍あたりには、2世代目とみられる一群がまとまって現れる。ピークは太陽の約16倍のところにある。そして太陽の45倍を超えると様子が一変し、そこから太陽100倍あたりまでは大半が2世代目だと推定された。境目にあたるのは太陽の46倍ほどで、この重さを境に集団の顔ぶれが入れ替わる。
空白のはずの質量帯
この45倍あたりという境目には、以前から知られた意味がある。
星の進化の理論によると、ものすごく重い星の最期は激しすぎて、あとに何も残さない。中心部が高温になりすぎると、星を支えていた光のエネルギーが電子と陽電子の対に化けてしまい、支えを失った星が丸ごと吹き飛ぶ。そのため、太陽の45倍から120倍あたりの重さのブラックホールは、星から直接は作れないはずだと予測されてきた。理論上の「空白地帯」だ。
ところが実際には、その重さのブラックホールが観測で見つかっている。作れないはずのものが、そこにある。
今回の結果は、その説明の一つになる。太陽の45倍を超える範囲で2世代目が優勢だという推定は、「星から作れないなら、小さいブラックホール同士をぶつけて作ればいい」という筋書きと素直につながるからだ。空白地帯を埋めているのは星の死ではなく、ブラックホールが合体を重ねてきた歴史のほうだった、ということになる。
もう一つの、太陽16倍あたりのピークも理論の予想とかみ合っている。星団のシミュレーションでは、2世代目の重さは太陽15倍あたりに山ができると予測されていた。ありふれた重さの1世代目がたくさん作られ、それらが組んで2世代目になるためだ。
ただし、この二つの山が同じ場所から来ているとは限らない。太陽45倍を超える2世代目は、鉄などの重い元素が少ない星団でできやすいと考えられており、低いほうの山とは育った環境が違う可能性がある。合体の家系図をたどることは、そのブラックホールがどんな星団で生まれ育ったかを探ることにもつながっていく。
なお、合体を繰り返す場所としては、星団のほかに、巨大ブラックホールを取り巻くガス円盤や、3つの天体が絡む系も候補に挙がっていた。今回のデータで見えた分布の形は、そうした環境よりも星団のほうが主役だという見方を支持している。
解釈上の留意点
いくつか押さえておきたい点がある。
まず、これは集団全体の分布から導いた統計的な推定であって、「この合体は2世代目だ」と一件ずつ確定できるものではない。個別の信号については、2世代目らしさの度合いが示されるにとどまる。14%という数字も一点の値ではなく、7〜26%ほどの幅を持った推定値だ。
また、この推定は「観測データに見えたある特徴的な分布のかたまり=階層的合体」という結びつけの上に成り立っている。理論側のシミュレーションでは、星団で起きる合体のうち2世代目が絡むものは17%ほど、星団の分布まで考慮すると10%前後と見積もられており、観測から出た14%はその範囲とだいたい合う。ただし研究チーム自身が、この一致を深読みしすぎないよう釘を刺している。理論側の見積もりも、合体の頻度を左右する不確かな仮定に依存しているからだ。
研究は査読を経て学術誌 Physical Review Letters に掲載されており、著者版は誰でも無料で読める。今後さらに検出が増えれば、14%という数字も、質量帯ごとの内訳も、精度が上がっていくことになる。
出典・もっと知りたい人へ
Many black holes had past lives, new research shows(MIT News)
Black Hole Collisions Tell a Tale of Repeating Mergers(Universe Today)


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