8年前の写真を計算し直したら、静止軌道の見えないごみが浮かび上がった

科学・宇宙
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新しい望遠鏡を建てたわけでも、カメラを高性能なものに載せ替えたわけでもありません。8年前に撮ってそのまま保管されていた画像を、別のやり方で計算し直した。それだけで、静止軌道を漂う小さな破片の軌跡が、新たに25本ぶん浮かび上がりました。

英ウォーリック大学のジェイムズ・ブレイク氏を筆頭とする国際チームが、査読誌『The Journal of the Astronautical Sciences』に2026年6月24日付で発表した論文の話です。使った手法は「ブラインド・スタッキング」。ざっくり言えば、破片がどう動いたか分からないので、ありうる経路を片っ端から仮定して、それぞれに沿って画像をずらして重ねる、という力技です。

ごみが落ちてこない軌道

静止軌道は、赤道の上空およそ3万6000kmを回る軌道です。地球一周が約4万kmなので、それとほぼ同じ距離を真上に取ったところ、ということになります。

この高さを回る衛星は、地球の自転とぴったり同じ周期で地球をまわるので、地上から見ると空の一点に止まって見えます。通信・放送・気象観測の衛星がここに集まっているのはそのためで、パラボラアンテナを一度向けたら動かさなくていいのも、この性質のおかげです。

やっかいなのは、この高さには空気がほとんどないことです。低い軌道なら、わずかに残る大気の抵抗が少しずつブレーキをかけ、いずれ落ちて燃え尽きます。静止軌道にはその仕組みがありません。一度そこに生まれた破片は、事実上いつまでも残り続けます。

実例もあります。2024年10月に通信衛星インテルサット33eが壊れた件では、公開されている米国のカタログ「Space-Track」に登録された破片は36個でした。ただし対応にあたった各国の監視網は、それとは別に数十から数百の破片を追い続けています。地上の実験室で衛星を模した物体をぶつける試験からは、この種の事故で生じる破片が数千個規模に達すること、そしてその大半は地上の望遠鏡でとらえられるほどの明るさを持たないことが分かっています。

一枚の写真では届かない感度

では、なぜ小さな破片は写らないのか。理由は単純で、遠くて暗いからです。

今回のもとになった観測は、2018年9月2日から9日にかけての8夜、カナリア諸島ラ・パルマ島のロケ・デ・ロス・ムチャチョス天文台で行われました。使われたのは口径2.54mのアイザック・ニュートン望遠鏡(INT)と、その隣に据えた口径36cmの小型望遠鏡です。

ここで少し変わった撮り方をします。望遠鏡を星の動きに合わせて追尾させず、地面に固定したまま撮るのです。こうすると、静止軌道に位置を保っている衛星は点として写り、そこからずれて漂っている破片は短い筋として写ります。一方、背景の星は日周運動でどんどん流れていくので、長い線を引きます。露出は10秒で、INTの場合、星が引く線は約228ピクセルぶんの長さになりました。

露出を長くすれば暗いものも写りそうですが、この撮り方ではそうなりません。露出を伸ばすと破片の光は長い筋に引き伸ばされ、1ピクセルあたりの明るさはかえって下がります。背景のノイズだけが筋の面積に比例して増えていくので、割に合わないのです。こうして「10秒の1枚から筋を探す」というやり方が、そのまま感度の上限になっていました。

ブラインド・スタッキングの仕組み

そこで持ち出されたのが、ブラインド・スタッキングです。天体写真をやる人にはおなじみの「コンポジット」——同じ場所を撮った何枚もを重ね合わせて、ノイズを薄めながら淡い光を浮かび上がらせる手法——の親戚にあたります。

ただし今回の相手は動いています。素直に重ねると、破片の光はフレームごとに別の場所へ散ってしまいます。かといって、どう動いているかは分かりません。カタログに載っていない破片を探しているのだから、軌道を先に知ることはできないのです。

そこでチームは、分からないなら全部試す、という方針を取りました。フレームからフレームへ破片が動きうる速さと向きをあらかじめ範囲で区切り、その範囲に収まる経路をピクセル単位で総当たりする。それぞれの経路に沿って画像をずらしながら重ね、最後にもう一度、1枚のなかで破片が引くはずの筋の長さぶんだけ光を足し合わせます。当たりの経路なら、フレームごとにばらけていた微かな光が同じ場所に積み上がり、ランダムな背景ノイズのほうは打ち消し合って薄れます。外れの経路なら、何も浮かび上がりません。

論文が示したシミュレーションでは、9枚の画像に埋もれた信号のSN比(信号の強さとノイズの大きさの比)は、1枚のままだと0.29でした。正しい経路で重ねると0.84になり、筋に沿って足し合わせる処理を加えると2.59まで上がっています。

もうひとつ、地味ですが効いているのが位置合わせの精度です。ずらして重ねる以上、画像同士が正確に噛み合っていなければ意味がありません。チームは背景の星が引く線の中心を求め直し、線を横切る方向の明るさの断面をガウス関数で、線に沿った方向を「テプイ関数」と呼ばれる式で当てはめました。テプイは南米にある切り立った卓状の台地のことで、上面が平らな形を指しています。さらに望遠鏡の光学系が持つ歪みも補正した結果、星の位置のずれは従来の約2秒角から0.2秒角ほどまで縮みました。

口径2.54mの望遠鏡での成果

INTのデータにこの処理をかけると、1枚ずつの解析では取りこぼしていた軌跡が25本、新たに見つかりました。感度の限界は約1等級ぶん暗い側へ動いています。1等級の差は明るさにして約2.5倍なので、これまでより2.5倍暗いものまで拾えるようになった計算です。

この25本はいずれも、公開カタログに載っている既知の物体とは対応しませんでした。誰も追いかけていなかったもの、ということになります。ウォーリック大学の発表によれば、今回見つかった暗い天体のうち約8割が、公開されているカタログに記載のないものでした。

大きさについて、論文は直径5〜10cmより小さいという見積もりを示しています。ゴルフボールから握りこぶしくらいまでの範囲です。静止軌道でとらえられたものとしては、最も小さい部類に入ります。

明るさの変化を時間で追う「ライトカーブ」からも、破片の性格が見えてきました。暗い破片は、大きな放棄衛星やロケットの上段より、明るさの振れ幅が相対的に大きい。多くは速く転がっていて、鋭いきらめきが断続的に現れます。形がいびつで、姿勢が定まらないまま回っている様子が透けて見えるわけです。

市販の36cm機による検証

ここからが面白いところで、チームは同じアルゴリズムを、INTの隣で同じ空を撮っていた36cm望遠鏡のデータにもかけました。セレストロン社のロウ・アッカーマン・シュミット・アストログラフ(RASA)に冷却CCDカメラを付けた、市販品の組み合わせです。

結果は87件の新規検出。うち、望遠鏡の向きを変えた前後で同じ物体と判断できるものをまとめると、別個の軌跡としては62本になりました。感度は従来の解析より約2等級ぶん改善しています。口径では2.54mのINTに遠く及ばないのに、改善の幅はむしろ大きい。

理由は、この手法との相性にあります。RASAは画像の読み出しが約4秒と速く、INTが7枚撮る間に最大16枚を撮れました。重ねる枚数が多いほどSN比は上がり、ノイズによる偽の検出も減ります。しかも1コマ待つ間に破片が動く距離が短いので、試すべき経路の数そのものが少なくて済む。視野の広さも効いていて、INTの視野はRASAの約2%しかありません。

そのうえチームは、INTで見つけた暗い破片を、同じ時刻に撮られたRASAの画像から拾い直すことにも成功しました。大型望遠鏡でつかまえたものを、市販の機材でも追えたことになります。つまり、身の丈の機材と計算の組み合わせでも、宇宙の監視に実際の戦力として加われる——そこが、この論文のいちばん実用的なところです。

日本も加わった追加観測

論文の終盤では、続きの観測にも触れられています。ラ・パルマに加えて、オーストラリアと日本の望遠鏡を組み合わせた多国間のキャンペーンです。オーストラリア側はオーストラリア国立大学、日本側はJAXAが参加しており、岡山県井原市にある美星スペースガードセンターの口径1m望遠鏡が使われています。静止軌道付近のデブリ観測のために設計された、世界でも早い時期の専用施設です。著者リストにも日本の研究者が複数、名を連ねています。

地球のあちこちに散らばった望遠鏡をつなげば、同じ破片を長い時間かけて追いかけられます。これは今回の弱点を埋めるための布石でもあります。今回の観測は1回の指向で数十秒から4分弱しか続かず、そこから軌道を割り出そうとしても、うまく解が求まったのは18%——初期値の与え方を工夫しても38%どまりでした。見つけただけでは足りず、どこへ向かっているかを押さえないと危険の評価には使えません。

解釈上の留意点

数字の読み方には、いくつか注意が要ります。

まず「25本」「62本」は、観測された軌跡(トラックレット)の本数であって、破片の個数ではありません。空のどこかに25個のごみが確認された、という意味ではないので、そこは区別して読む必要があります。

大きさの5〜10cmという数字も、破片を反射率0.175の球と見なして明るさから逆算したものです。論文自身、この仮定はきわめて不確かだと断っています。カタログにない物体は素性が分からないので、形も表面の状態も推定するしかありません。明るさは向きや太陽との位置関係でも大きく変わります。

そして、もとの観測は2018年のもので、しかもスタッキングを前提に組まれていません。露出と露出のあいだが長く、1回の指向あたりの枚数も少ない。この手法に合わせて設計した観測なら、まだ伸びしろがある——論文はそう書いています。裏を返せば、今回の結果はこの手法の実力の上限ではない、ということでもあります。

論文が示したのは、静止軌道に破片がどれだけあるかという総量ではありません。すでに手元にあるデータからでも、まだ引き出せるものが残っている、ということでした。

出典

J. A. Blake et al., “DebrisWatch II: Digging Deeper for Geosynchronous Debris,” The Journal of the Astronautical Sciences 73, 58 (2026).
論文(オープンアクセス・DOI: 10.1007/s40295-026-00602-1)
ウォーリック大学のプレスリリース(EurekAlert!)
Universe Today による解説記事
美星スペースガードセンター(JAXA)

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