
| 名前 | アンキロサウルス・マグニヴェントリス(Ankylosaurus magniventris)。「癒合したトカゲ」「大きな腹」の意味 |
| 分類 | 鳥盤類 装盾類 曲竜類 アンキロサウルス科 |
| 時代 | 白亜紀末(約6800万〜6600万年前) |
| 発見地 | アメリカ(モンタナ州・ワイオミング州)、カナダ(アルバータ州・サスカチュワン州) |
| 全長 | 約6〜8m |
| 体重 | 約4.8トン(小型の個体)〜約8トン(最大の個体の概算) |
| 尾のこぶ | 長さ60cm、幅49cm、高さ19cm(知られている唯一の標本) |
アンキロサウルスは、背中から尾まで骨の板で覆われ、尾の先にこぶ状のハンマーを備えた植物食恐竜、曲竜類(よろい竜)のなかまです。白亜紀のいちばん最後に北アメリカに現れ、ティラノサウルスやトリケラトプスと同じ地層から見つかります。よろい竜の代名詞になっている一方で化石はごくわずかしか見つかっておらず、全身のそろった標本は1体もありません。尾のハンマーは肉食恐竜を撃退する武器として描かれるのがふつうですが、近縁種の傷跡の研究から、主な相手は同じ種の仲間だったとする見方が出ています。
姿と暮らし
体は低く幅広く、四本の太い脚で地面に張りつくように立っていました。全長6〜8mに対して肩の高さは1.5m前後で、横幅のわりに背は低い体型です。頭は上から見ると三角形で、後ろの左右の角に短いつのが後方へ突き出し、頭の表面は多角形の骨の板が敷きつめられたようにでこぼこしています。首の上には大きな骨の板を6枚ずつ並べた半円形の帯が2列あり、その後ろは背中から腰にかけて、楕円形で低い稜のある板が横列と縦列をなして並びました。板は皮膚の中で育つ骨で、生きているときは角質の鞘に包まれていました。
顔にはこの属だけの特徴があります。鼻の穴が前ではなく、頭の側面のやや後ろに開き、しかも下向きを向いています。よろい竜のなかまはどれも鼻の中の通路が複雑に曲がりくねっていますが、アンキロサウルスでは鼻骨が前に張り出して鼻の穴そのものの位置を押し下げた形になっており、同じ姿をした恐竜は他に知られていません。歯も変わっていて、頭の大きさに比べて極端に小さく、そのぶん本数が多く、上あごの片側だけで34〜36本ありました。
尾は全長の半分近くを占め、大型の個体では3m以上あったと推定されています。付け根側の半分は関節がよく動き、後ろ半分は椎骨(背骨の一つ一つ)どうしが互いの突起を抱え込むように組み合わさって、曲がらない一本の棒になっています。この棒が「柄」、先端を左右から包む2枚の大きな骨の板と、それを縫い合わせる小さな板が「こぶ」で、柄とこぶを合わせて尾のハンマーと呼びます。アンキロサウルスでこぶが残っているのはアルバータ州で見つかった1体だけで、長さ60cm、幅49cmです。柄の椎骨は近縁のエウオプロケファルスの2倍の幅があり、これもこの属にしかない特徴です。
食べていたのは背の低い植物です。頭を上げてもたいした高さにならないので、地面近くのシダや低木の葉を、幅の広いくちばしでまとめて食いちぎっていたと考えられています。小さな歯ではほとんど噛みくだけないため、消化は大きな腹の中で発酵させて行いました。学名の「大きな腹」はこの体つきから付けられています。鼻の穴が下向きに開く点や、くちばしが近縁種より細い点から、地面を掘って根や小動物を探す暮らしだった可能性も検討されていますが、決め手になる証拠はまだありません。
暮らしていたのは、当時の北アメリカを南北に貫いていた内海の西岸に広がる、川と森と湿地の平野です。現在のモンタナ州からサウスダコタ州にかけて広がるヘルクリーク層がその代表で、同じ地層からティラノサウルス、トリケラトプス、エドモントサウルス、パキケファロサウルスが見つかっています。ただしアンキロサウルスの化石は極端に少なく、この地層で見つかる恐竜化石のうち0.05%にも届きません。もともと数が少なかったのか、化石が残りやすい海岸の平野にはあまり来なかったのか、どちらとも決まっていません。最初に見つかった標本は白亜紀の終わりを刻む地層の境界から60mあまり下から出ており、小惑星衝突の直前まで生きていた恐竜のひとつです。
最初の復元にハンマーはなかった
アンキロサウルスの最初の化石は、1906年にアメリカ自然史博物館の調査隊がモンタナ州ヘルクリーク層で掘り出した部分骨格です。頭骨の一部、背骨、肩の骨、多数の骨の板が含まれ、1908年にバーナム・ブラウンが記載しました。ブラウンはこの恐竜を「よろい竜の新しい科」の代表と位置づけ、アンキロサウルス科という名前も同時に作っています。
ただし、ブラウンが描いた復元図に尾のハンマーはありません。当時よろい竜の化石はごくわずかで、尾の先はふつうの恐竜のように細く先細りになっていました。骨の板はすき間なく敷きつめられ、首にあった半円形の帯は腰と尾の飾りだと解釈されていました。尾のこぶが見つかったのは1910年、アルバータ州で発見された2体目の標本によってです。それ以降の絵にはハンマーが描き込まれるようになりましたが、代わりに肩から突き出た大きなとげが加わりました。これは別のよろい竜エドモントニアの特徴を取り違えて混ぜたもので、現在の復元では取り除かれています。
尾のハンマーが狙っていた相手
尾のハンマーが本当に武器として使えたのか、まともに計算されたのは2009年のことです。カナダの研究者ヴィクトリア・アーバーは、アルバータ州で見つかった近縁種の尾を使い、椎骨と骨の板の寸法から尾の各部分の重さと筋肉の太さを見積もり、振り回したときの速さと衝撃力を求めました。尾は上下にはほとんど動かせず、左右には全体で100度ほど振れます。こぶの内部をCTで見ると中身はスポンジ状で軽く、振りやすい構造でした。
結果は、こぶの大きさで分かれます。幅20cm以下の小さなこぶでは、当たっても相手の骨を折るほどの力は出ません。幅50cmを超える大きなこぶになると衝撃力は7000〜1万4000ニュートン、当たる面が狭いために骨にかかる圧力は生きた骨の強さを大きく上回り、確実に骨を折ると計算されました。ただし、この計算に使われたのはアンキロサウルスの化石ではなく、より古い時代の近縁種の尾です。アンキロサウルスで唯一知られているこぶは幅49cmで、この区分では「中型」に入ります。最大の頭骨を持つ個体からこぶの幅を推定すると57cm前後になり、近縁種の最大級のこぶと同じくらいで、それより大きくはなりません。柄の椎骨が支えられる重さに上限があったと考えられています。
この計算の時点で、アーバーは武器としての使い方に疑問を添えていました。近縁のピナコサウルスでは幼い個体に尾のこぶがなく、成熟してから育ちます。肉食恐竜から身を守るための武器であれば、いちばん襲われやすい子どものころに役に立たないのは筋が通りません。そこで、大人どうしが体の横を打ち合う争いに使ったのではないか、という見方が示されました。ウシ科の動物が横腹をぶつけ合ったり、キリンが首を打ち合ったりする行動と同じ型です。この場合、よろい竜には他の恐竜より多くの折れて治った肋骨や板が見つかるはずだと予測されました。
その予測に合う化石が、2022年に報告されました。モンタナ州ジュディスリバー層から2014年に見つかったズール・クルリヴァスタトルの標本です。約7600万年前のアンキロサウルス科で、背中から尾まで骨の板と皮膚が生きていた配置のまま残っていました。この標本の腰の左右、体の横に並ぶ長いとげが何本も折れ、そのあと丸く治った状態になっていました。傷は体のあちこちにばらばらではなく、左右対称に腰の高さだけに集中しています。ティラノサウルス類にかまれたなら歯の跡が残り、位置も偏らないはずです。腰の高さに横から当たり、左右両側に同じように残る傷は、別のズールが尾を横に振ってぶつけた結果として説明できました。研究チームは、尾のこぶの大きさが同じ種の中でも個体ごとに大きく違うこと、こぶが成熟後に育つことをあわせて、ハンマーは主に同種のなかまとの争いのために発達した構造だと結論づけています。
この研究は、ハンマーを肉食恐竜に向けることがなかったと言っているわけではありません。骨を折る威力があるのは計算のとおりで、追い詰められたときに振ることは十分あり得ます。ただ、この構造が進化した理由として「捕食者への防御」を支える証拠は見つからず、なわばりや繁殖をめぐる同種どうしの争いのほうが合う、という判断です。アンキロサウルス自体はこの傷跡を確かめられるほどの化石がまだなく、同じことが言えるかは今後の発見しだいです。




出典
Arbour, V. M. & Mallon, J. C. (2017). Unusual cranial and postcranial anatomy in the archetypal ankylosaur Ankylosaurus magniventris. FACETS 2: 764–794.
https://doi.org/10.1139/facets-2017-0063
Arbour, V. M. (2009). Estimating impact forces of tail club strikes by ankylosaurid dinosaurs. PLoS ONE 4(8): e6738.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0006738
Arbour, V. M., Zanno, L. E. & Evans, D. C. (2022). Palaeopathological evidence for intraspecific combat in ankylosaurid dinosaurs. Biology Letters 18: 20220404.
https://doi.org/10.1098/rsbl.2022.0404
Royal Ontario Museum (2022). Ankylosaurs battled each other as much as they fought off T. rex(プレスリリース)
https://www.rom.on.ca/news-releases/ankylosaurs-battled-each-other-much-they-fought-t-rex


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