アナログシンセと聞いて、たくさんのモジュールとパッチケーブルが絡み合った、あの黒い箱を思い浮かべる人は多いと思います。ところがフランスの研究チームが公開した「polyUAnalog(ポリユーアナログ)」は、その見た目のイメージとはだいぶ違う作り方をしています。音を出す部分をチップ単位でばらして、1つの音(1声)につきアナログのシンセ用ICを1個ずつ割り当てる、という構成です。しかもハードもソフトも丸ごとオープンソースで公開されています。

1声=1チップという構成
polyUAnalogの中心にあるのは「ボイスボード(voice board)」と呼ばれる基板です。1枚が単音のアナログシンセとして完全に自己完結していて、これ1枚だけでも音は出せます。心臓部にはアナログシンセ用のIC「AS3397」が載っています。フィルターやアンプといった、音を加工する回路をひとまとめにした専用チップです。これにRaspberry Pi Pico(RP2040マイコンを積んだあの小さな基板)を組み合わせることで、1声ぶんのアナログ音源が1枚の基板にまとまります。
昔ながらのアナログシンセは、1台の中で回路をやりくりして複数の音を鳴らそうとすると設計がややこしくなりがちでした。polyUAnalogは発想が逆で、「1声=1基板」を必要な数だけ並べて、あとで束ねればいい、という割り切り方をしています。基板が増えれば同時に鳴らせる音も増える、という素直な足し算です。
基板を束ねる指揮者ボード
複数のボイスボードをまとめて操るのが「コンダクターボード(conductor board)」、つまり指揮者役の基板です。MIDIやコントローラーからの入力を受け取り、どの音をどのボイスボードに割り振るかを差配します。各ボイスボードとの通信にはI2Cという配線方式を使っていて、指揮者が奏者に指示を出すように、鳴らすべき音の情報を各基板へ配っていく形です。
この指揮者ボードにどのマイコンを使っているかは、公開されているREADMEには明記がありません。Hackadayは、ボイスボードと同じくPicoではないかと推測しています。この点は現時点でははっきりしない、と押さえておくのがよさそうです。
10声で動作確認済み、設計上は約120声まで
開発チームによれば、現在の構成で10声の同時発音を確認できていて、問題なく動いているとのことです。設計上はさらに拡張できる余地があり、最大でおおよそ120声まで対応できるとしています。あわせて、1音を分厚く鳴らすためのユニゾン/スプレッド機能や、複数の音色を同時に扱うマルチティンバー機能(こちらは開発中)といった動作モードも用意されています。
ソースコードはC言語が中心で、ハードウェアの回路図やPCBの設計データも含めて、MITライセンスのオープンソースとして公開されています。作りたい人が回路から追試できる形になっているのは、この種のプロジェクトとしてはうれしいところです。
分光研究者による副業プロジェクト
polyUAnalogを手がけているのは、フランス・アンジェ大学の研究者2人です。本業は分光(物質が出したり吸ったりする光を調べる分野)で、これはそのかたわらで進めている副業的なプロジェクトだと紹介されています。開発の経緯や設計判断、途中でぶつかった技術的な課題は論文にもまとめられていて、学術誌向けに公開されています。趣味の電子工作と本職の研究のあいだをつなぐような取り組みだと言えそうです。
パッチケーブルの束ではなく、チップを並べて多声を作るという発想は、部品が今の時代に手に入りやすくなったことも背景にあります。手元でアナログシンセを一から組んでみたい人にとって、設計をまるごと読める公開プロジェクトがあるのは、それだけで参考になるはずです。
出典
Hackaday: An Analog Synth For The Modern World
プロジェクト本体(GitHub): PhysicsDptAngers/polyUAnalog


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