太陽嵐を「はね返す」6機の衛星——シミュレーションが示した宇宙天気対策

科学・宇宙
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太陽の活動が引き起こす「磁気嵐(じきあらし)」は、送電網やGPS、人工衛星に被害を与えることがあります。これまで人類にできたのは、その到来を予測して被害に備えることだけでした。ところがボストン大学の研究チームが、磁気嵐そのものの強さを半分ほどまで弱められるかもしれない防御システムを、シミュレーションで示しました。宇宙天気を「予測して耐える」のではなく「能動的にそらす」——そんな発想の提案です。

宇宙天気がもたらす被害

地球のまわりの「宇宙天気」は、地上の天気よりずっと荒っぽいことがあります。太陽の表面で起きる巨大な爆発(太陽フレア)は、電波通信を遮ったり衛星の電子機器を焼いたりします。太陽から吹きつける風(太陽風)の乱れが起こす磁気嵐は、GPSの信号を乱し、地上の送電網に電流のサージ(急な過電流)を走らせて設備を痛めます。

影響は「一時的に停電する」「地図アプリが使えない」だけにとどまりません。世界中の電子決済は、衛星が送る正確な時刻情報に頼っています。2024年5月の磁気嵐では、農作業のトラクターを正確に走らせるGPSが数日にわたって使えなくなり、アメリカの農家に5億ドルの損失が出たと報告されています。衛星に頑丈なシールドを付けたり軌道を調整したりはできますが、それはあくまで応急処置にすぎません。

StormWallという構想

この状況を変えられないか、と考えたのがボストン大学工学部のブライアン・ウォルシュ(Brian Walsh)准教授です。ミシガン大学の研究者と組んで進めたこの提案は、学術誌『Space Weather』に掲載されました。名前は「StormWall(ストームウォール=嵐の壁)」。地球の磁場の外縁に化学物質を吹き付けて防御を一時的に厚くし、飛んでくる宇宙天気をそらす、というアイデアです。

ウォルシュ准教授はこの発想を、自然の現象から得たといいます。地球の大気の一部がはがれ、地球を包む磁気の泡「磁気圏(じきけん)」の縁まで漂って、それを補強することがあるのだそうです。「この働きを強めてやれないか、と思った」と話しています。予測から防御へという発想の転換を、本人は「川の氾濫(はんらん)を予測できる村の人たちが、いっそ堤防を築いてしまうようなもの」と例えています。

磁気嵐をそらすしくみ

StormWallは、6機の宇宙機(衛星)を、地球の自転に合わせて回る静止軌道(せいしきどう)に打ち上げるところから始まります。それぞれの機体には、「マスローディング材」と呼ばれる物質を詰めた容器を積みます。中身はバリウムやリチウムといった、アルカリ性の元素です。

強い磁気嵐が予報されたら、この物質を宇宙空間に放出します。太陽の光を浴びると、物質は「光電離(こうでんり)」——光を受けて電気を帯びる変化——を起こし、あたりにプラズマ(電気を帯びた気体)をばらまきます。シミュレーションによれば、このプラズマが太陽嵐と磁気圏のあいだのエネルギーの受け渡しを乱し、宇宙天気を地球のまわりではね返して、そのまま通り過ぎさせるのに十分だといいます。つまり、磁気の泡を一時的にふくらませ、嵐が地球に食い込む前に脇へそらす、という考え方です。

シミュレーションでの検証

研究チームは、2024年5月に実際に起きた大きな磁気嵐(20年以上で最も強かったとされる嵐)を計算機の中で再現し、二通りの条件で比べました。ひとつは通常どおり嵐が来た場合、もうひとつはStormWallのプラズマの壁を働かせた場合です。

結果、StormWallは嵐を完全に消し去るわけではないものの、大きな磁気嵐の強さを半分ほどまで下げられることが示されました。エネルギーの流れを磁気圏の境目でかき乱すことで、宇宙天気の勢いの多くを地球の外へ受け流す、という筋書きです。

実現に向けた課題

ウォルシュ准教授自身、「宇宙に嵐の壁をつくるなんてSFのようだ」と認めつつ、「本気で物理を当てはめれば、ちゃんと成り立つ。必要な物質の量も打ち上げ能力も、今の私たちの手の届く範囲だ」と話します。

とはいえ、壁は高い。最大の課題はコストです。6機の宇宙機を打ち上げ、あわせてタンクローリー十数台ぶんの物質を運ぶのは安くありません。しかも放出した物質は光電離してしまうと使い切りで、補充がききません(一度きりの「打ち止め」)。それでも、民間企業が宇宙インフラに巨額を投じている流れを踏まえれば、費用と効果の釣り合いはいずれ見合うようになるかもしれない、とチームは見ています。100年に一度の巨大な磁気嵐(前回は1859年)が来れば、送電網の被害だけで2.4兆ドル(数百兆円規模)に達すると論文は指摘しています。

「宇宙ごみになるのでは」という心配についても、ウォルシュ准教授は、高い高度へ送り込んだ物質は役目を終えると自然に系の外へ運び出される、と説明しています。磁気圏はおよそ6時間ほどでその物質を洗い流すのだそうです。今後は、使う物質の量を半分に減らせないか、少しずつ放出して寿命を延ばせないか、より効率のよい軌道はないか、といった点を詰めていくとしています。

解釈上の留意点

押さえておきたいのは、StormWallはあくまで計算機シミュレーション上で示された構想だという点です。査読を経て学術誌に載った研究ではありますが、実際に機体を打ち上げて試したわけではありません。使う元素の最適な選び方や、放出のしかた、コストの見積もりなど、詰めるべきところは多く残っています。「地球の宇宙環境を人の手で作り変える(ジオエンジニアリング)ような提案は、ほかに聞いたことがない」とウォルシュ准教授も言うとおり、前例のない挑戦的なアイデアであることは確かです。

それでも、宇宙天気に対して「見て、備えて、耐える」しかなかったこれまでの前提に、「そらせるかもしれない」という選択肢を加えた——研究の意義はそこにあります。もし実現すれば、特定の国や一部の衛星だけでなく、地球上のすべての人を守ることになる、とウォルシュ准教授は述べています。

出典・もっと知りたい人へ

We Can Predict Space Weather. What If We Could Also Stop It?(ボストン大学 The Brink)

論文(学術誌『Space Weather』掲載・DOI: 10.1029/2025SW004846)

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