冥王星のはるか先を進むNASAの探査機ニュー・ホライズンズが、太陽から吹き出すプラズマ(電気を帯びたガス)の風が少しずつ遅くなっていくようすをとらえました。太陽の影響が届く範囲の“端っこ”に近づくにつれて、太陽風がじわじわブレーキをかけられている——その減速ぶりを、これまでで最も遠いところまで数字で押さえた研究です。太陽系と星と星のあいだの空間(星間空間)との境目がどこにあるのか、その手前で何が起きているのかを知る手がかりになります。

太陽を包む泡・ヘリオスフィア
太陽からは、電気を帯びた粒がたえず外へ流れ出しています。これが太陽風です。地球のあたりでは秒速およそ400km、時速になおすと100万kmを軽く超えるスピードで吹いていて、私たちの太陽系をぐるりと風船のように包んでいます。この“太陽風でふくらんだ泡”を、ヘリオスフィア(太陽圏)と呼びます。
泡の中では太陽の風が主役ですが、泡の外には星間物質——ほかの星々が作った、ごく薄いガスやちりが漂う空間が広がっています。太陽系はこの星間物質の中を進んでいるので、外からは絶えず星間ガスの粒が泡に向かって入り込んできます。太陽風がどこまで届き、どこで力尽きるのか。その“境目”を探ることは、太陽系がどこで終わって星間空間が始まるのか、という問いにそのままつながっています。
21〜58AUで確かめた減速
今回研究を率いたのは、米サウスウエスト研究所(SwRI)のヘザー・エリオット氏。ニュー・ホライズンズに積まれた「SWAP(スワップ)」という太陽風を測る装置のデータを使いました。もともとは冥王星のまわりの太陽風を調べるための装置ですが、探査機が冥王星を通り過ぎてさらに遠くへ進むあいだも、太陽風を測り続けています。
調べたのは、太陽から21〜58AUの範囲です。AU(天文単位)は地球と太陽の距離を1とする物差しで、1AUがおよそ1億5000万km。地球のそばで測った太陽風の速さと比べると、太陽から30〜43AUのあたりでは5〜10%ほど遅くなっていました。さらに遠い58AUまで来ると、その差は13〜15%に広がっていた——つまり、遠ざかるほど太陽風が着実にスピードを落としていたのです。ちなみにニュー・ホライズンズは現在、太陽から65AUあまりの地点を飛んでいます。
星間ガスが積み荷になる仕組み
なぜ遠くほど遅くなるのか。カギは、外から入ってくる星間ガスとの“荷電交換”という現象にあります。
星間空間から泡の中へ入ってくるのは、電気的にかたよりのない中性の原子です。この中性原子が、超音速で吹きすぎる太陽風の粒とすれ違うとき、電子をやりとりして電気を帯びた粒(イオン)に変わることがあります。いったんイオンになると、その粒は太陽風の流れに取り込まれて一緒に運ばれるようになります。エリオット氏はこれを、太陽風が星間物質という“積み荷”を拾い上げていくようなものだと説明します。荷物を積めば積むほど重くなって足取りが鈍るのと同じで、太陽風は星間ガスを取り込むたびに少しずつ勢いをそがれていくわけです。
今回測られた「じわじわ遅くなる」パターンは、星間物質が泡の中へ入り込んで太陽風に影響するという、これまでの理論モデルの予想とよく合っていました。太陽の影響が、遠く離れるにつれて実際にどう弱まっていくのかを、観測でなぞって見せた格好です。
この先で待つ急ブレーキ
ここまでの減速は、あくまで“じわじわ”です。ところが探査機がさらに外側へ進むと、太陽風はもっと劇的なブレーキに出くわします。太陽から85AUあたりにあるとされる「末端衝撃波面(ターミネーション・ショック)」です。ここは、外から押し寄せる星間物質に太陽風が押し返され、速さが一気に落ちる境目にあたります。
実際、先を行くボイジャー2号は、84AUの地点でこの末端衝撃波面を通過したとき、速さが46%も急落するのを測っています。ニュー・ホライズンズがこの領域に届くのは、2029年ごろになると見られています。太陽の影響が本格的に弱まっていくその現場で、探査機が何を記録するのか——ここは今後の見どころです。なお、太陽風がついに星間物質に負けて止まる最も外側の境界「ヘリオポーズ」は、ボイジャー1号が2012年、2号が2018年にすでに通り抜けていて、そこから先が本当の星間空間とされています。

宇宙飛行士の被ばくとの関わり
この観測は、遠い宇宙の話にとどまりません。泡の外側の境界がどんな形をして、どんな性質を持つかによって、太陽系の外から入り込んでくる「銀河宇宙線」の量が変わってくるからです。銀河宇宙線は、はるか遠くの天体からやってくる高エネルギーの粒で、ヘリオスフィアという泡がある程度それをさえぎってくれています。それでも一部は泡をすり抜けて地球まで届きます。
この銀河宇宙線は、月やその先へ長期間出かける宇宙飛行士にとって、大きな脅威のひとつです。地球の大気や磁場という守りの外に長くいれば、がんのリスクが上がったり、機器に不具合が出たりする恐れがあります。だからこそ、太陽風の泡がどこまで広がり、宇宙線をどれだけ防いでくれるのかを知っておくことは、月や火星をめざす有人ミッションを計画するうえで欠かせない情報になります。エリオット氏らは、ニュー・ホライズンズのデータを、IBEXやIMAP、ボイジャーといったほかのミッションの観測と組み合わせることで、太陽系の“縁”の理解が進むと期待しています。
ほかの星の“泡”を知る足がかり
太陽が太陽風で泡を作っているように、ほかの星もそれぞれに似たような泡(アストロスフィア)を作り、まわりの星間物質とやりとりしていると考えられています。仕組みには共通点が多いので、自分たちの太陽の泡を細かく調べることは、そのまま遠くの星々の環境を読み解く手がかりにもなります。エリオット氏は、ヘリオスフィアの研究を、太陽の影響がどこで終わるのかを一つずつ埋めていく“宇宙のパズル”になぞらえています。太陽系と星間空間の境目を知ることは、いつか人類が星間空間へ乗り出すときの下ごしらえでもある、というわけです。
出典・もっと知りたい人へ
この研究は査読を経て学術誌『The Astrophysical Journal』に掲載されました(DOI: 10.3847/1538-4357/ae39c6)。数値や経緯は、サウスウエスト研究所のプレスリリースと論文で確認しています。
論文:The Gradual Slowing of the Solar Wind in the Outer Heliosphere(The Astrophysical Journal)
Universe Today:New Horizons Watches the Solar Wind as it Slows Down


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