電気をかけると、熱の通りやすさが方向によって変わるセラミックがある——しかも、その差はおよそ3倍。アメリカのオークリッジ国立研究所(ORNL)を中心とする研究チームが、電場をかけた向きに沿って熱が桁違いに流れやすくなる現象を突き止め、学術誌『PRX Energy』に発表した。
熱は基本的に、高いところから低いところへ勝手に広がっていく。放っておけばあらゆる方向へ均等に逃げていくものを、電気のスイッチひとつで「こっちには流す、こっちには流さない」と仕分けできるかもしれない、という話だ。
固体の中で熱を運ぶフォノン
まず、固体の中を熱がどう伝わるのかを押さえておきたい。
金属でも石でもセラミックでも、中身は原子がびっしり並んだ格子だ。片側を温めると、そこの原子が激しく揺れはじめる。その揺れは隣の原子へ、また隣へと波のように伝わっていく。この「原子の振動の波」が熱の運び手で、フォノン(音の波を粒のように数えたもの、と考えるとイメージしやすい)と呼ばれる。
フォノンは、まっすぐ遠くまで進めるとは限らない。結晶の中に乱れがあると、そこでぶつかって向きを変えたり、消えたりしてしまう。これを散乱という。散乱が多い材料ほど熱は伝わりにくく、フォノンが長く生き延びられる材料ほど熱はよく伝わる。つまり、熱の伝わりやすさを変えたければ、フォノンがどれだけ長く走れるか(=寿命)をいじればいい。
ところが、これが難しい。電子であれば電圧をかけて向きも量も自在に操れるが、フォノンは電荷を持たないので、外から電場や磁場をかけてもほとんど反応しない。「熱を電気で制御する」という発想が長らく絵に描いた餅だったのは、この“つかみどころのなさ”のせいだ。実際、これまでの強誘電体を使った実験でも、電場で変えられた熱伝導率はせいぜい5〜10%止まりだった。

電場方向で約3倍という差
研究チームが使ったのは、リラクサー強誘電体と呼ばれるセラミックの一種で、組成はPMN-30PT(鉛・マグネシウム・ニオブの酸化物に、チタン酸鉛を3割ほど混ぜた材料)。医療用の超音波プローブなどに使われている圧電材料の仲間で、決して珍しいものではない。
この材料には、内部にごく小さな“電気的な偏り”の領域が無数に散らばっているという特徴がある。外から直流の電場をかけると、バラバラだったその偏りが同じ向きにそろう。この処理をポーリング(分極処理)という。結晶を育てて実際にポーリングを施したのは、共同研究先であるアンフェノール社のRaffi Sahul氏だ。
そろえたあと、熱の通りやすさを方向別に測ってみると、電場をかけた向きに沿った熱伝導率が、それと直角の向きに比べておよそ3倍に達していた。しかも増えるのは電場の向きだけで、直角方向は増えない。全体がまんべんなく熱を通しやすくなったのではなく、特定の一方向だけが開通した格好だ。
実験を主導したORNLのMichael Manley氏は、これまでの研究から予想されていたのはせいぜい数%の効果であり、3倍という差が出たのは大きな結果だと述べている。つまり、フォノンは外からの電場に鈍いという前提そのものが、材料の選び方しだいで覆るということだ。
中性子で確かめた寿命の伸び
なぜ3倍にもなったのか。答えを出したのは中性子だった。
ORNLの散乱中性子源(SNS)という大型施設で、非弾性中性子散乱という手法が使われた。結晶に中性子をぶつけて、跳ね返ってきたときのエネルギーの変化を調べる方法だ。これを使うと、原子がどこに並んでいるかという「かたち」だけでなく、原子がどう揺れているかという「動き」まで見える。フォノンの速さも、寿命も、直接読み取れる。
測定の結果、電場をかけた方向に沿って原子が揺れるタイプのフォノンは、速くなっただけでなく、散乱されて消えるまでの時間がぐっと延びていた。研究チームは、その理由をナノスケールの構造変化に求めている。この材料の中には、隣り合う原子が逆向きに変位した細かな乱れ(反強誘電的なゆらぎ)が散在していて、これがフォノンの散乱源になっている。電場をかけて偏りをそろえると、この乱れが電場方向に沿って抑え込まれる。フォノンにとっては、混んでいた道から車が減ったようなもので、その分だけ遠くまで走れる。
フォノンの寿命が延びたから、その方向の熱伝導が3倍になった——熱の測定と中性子の測定を突き合わせることで、この因果関係を数字でつなげたのが今回の要点だ。
固体だけで熱を切り替える発想
熱をどうさばくかは、いまの技術のあちこちでボトルネックになっている。高性能な半導体チップは発熱で性能が頭打ちになるし、データセンターの冷却には膨大な電力が費やされている。工場の廃熱を電気に変え直す装置も、熱の出入りを狙いどおりに制御できるかどうかで効率が決まる。
ここで期待されるのが、電気信号だけで熱の通り道を開け閉めできる「固体熱スイッチ」だ。可動部品も冷媒もなく、電圧をかけるかどうかだけで熱の流れを切り替えられる部品——電気回路でトランジスタが果たしている役割を、熱に対してやるようなものだ。研究チームは、今回見つかった仕組みが、そうしたスイッチを現実的に作るための有望なルートになりうると位置づけている。
逃がしたい方向にだけ熱を流し、それ以外の方向へは漏らさない。そんな制御ができれば、チップの冷やし方も、熱を回収して使い直すやり方も、設計の前提から変わってくる可能性がある。
解釈上の留意点
とはいえ、実験室で材料の性質を突き止めた段階であって、熱スイッチという部品ができあがったわけではない。今回示されたのは、ポーリングした結晶で方向によって熱伝導率が3倍違うという事実であり、電圧のオン・オフで熱の流れを何度も切り替えてみせた、という話ではない。実際のデバイスにするには、切り替えの速さや繰り返しへの耐久性、必要な電圧の大きさなど、詰めるべき点が残っている。
材料そのものにも注文がつく。PMN-PT系は鉛を含むため、用途によっては環境規制が壁になりうる。また、今回のような大きな効果がリラクサー強誘電体という特定のグループに固有のものなのか、他の材料にも広げられるのかは、これからの検証課題だ。
なお、この研究は『PRX Energy』に2026年1月5日付で掲載された査読済みの論文で、誰でも全文を読めるオープンアクセスとして公開されている。資金はアメリカ・エネルギー省(DOE)の基礎エネルギー科学プログラムなどが提供した。熱伝導の測定を設計したオハイオ州立大学のJoseph Heremans教授は、論文の公開を待たずに他界している。
出典・もっと知りたい人へ
元論文:Puspa Upreti, Delaram Rashadfar, Raffi Sahul, Douglas L. Abernathy, Joseph P. Heremans, Raphaël P. Hermann, Michael E. Manley「Electric Field Control of Phonon Lifetimes and Thermal Conductivity in Relaxor-Based Ferroelectric」PRX Energy 5, 1(2026年1月5日):DOI: 10.1103/5d1z-wg4p
研究機関のプレスリリース:Electric field tunes vibrations to ease heat transfer(Oak Ridge National Laboratory, 2026年3月5日)
関連記事:This electric field trick boosted heat flow by nearly 300%(ScienceDaily)


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