ゲーム開発者で、Unity向けのツールも手がけるフレイア・ホルメル(Freya Holmér)さんには、ずっと温めていたアイデアがあった。テトリスのように落ちものを積んでいくが、盤面そのものがぐるぐると回転する——という遊びだ。試作を組み上げて、3月なかばに50秒ほどの短い動画をSNSに上げ、「これってアリかな?」と問いかけた。反応は上々で、遊べる版を求める声が数百件ついた。
ところが数日のうちに、その試作を”AIに書かせて再現した”バージョンが現れる。「明日にはゲームにできる」というコメントとともに投稿されたものもあれば、スマホのアプリストアに並んだものもあった。ホルメルさんが確認できただけで、まねた版は4本ほど。ゲーム系メディアの404 Mediaが、この一件を入り口に「AIによって、ゲームのそっくりコピーが以前よりずっと手軽に作れるようになった」現象を追っている。

「vibecoding」で数時間、の中身
ここで使われているのが vibecoding(バイブコーディング)と呼ばれるやり方だ。プログラミングやデザインの経験がなくても、やりたいことを言葉で生成AIに指示すると、AIがコードを書き、画面まで組み上げてくれる。あとはAIと会話しながら「ここをこう変えて」と手直ししていく。ただし、出てくるものが洗練されているとは限らない。
実際、ホルメルさんの試作をまねた版は、彼女がていねいに作り込んだ動きの気持ちよさを欠いていた。コピーの一つ「Rotris」を作ったチャーリー・グリーンマンさんは、いくつか指示を重ねて丸1日ほどでできたと404 Mediaに話している。倫理的な問題は感じていないという立場で、「そもそも誰も興味を持っていなかった」「テトリスを下敷きにしたゲームは無数にある。どこからがコピーなのか」と反論する。同じころ「Blockfall」という別のコピーも現れた。
ホルメルさんにとっては、素直に喜べない出来事だった。何かを公開するたびに、誰かが先回りして”完成”させ、収益化してしまう——そんな不安がつきまとう、と語る。かつては盗むにも技術や手間が要ったが、AIによって「技術や知識そのものの価値が薄まっている」という受け止めだ。『Papers, Please』の作者ルーカス・ポープさんも今年4月、制作中のものを公開すると「AIに吸い上げられて」まねされかねない、と近い懸念を口にしている。
AIが生んだ問題ではなく、加速させた問題
もっとも、ゲームのクローンそのものはAI以前からある。人気作や流行りものに便乗し、独自性をほとんど持たない模倣品でストアを埋める——という商売は、App StoreやGoogle Playで長く横行してきたし、家庭用ゲーム機のダウンロードストアにも入り込んでいる。
フランスのモバイルゲーム企業Voodooは、たびたび模倣を指摘されてきた一社だ。未発売だったインディーゲーム『Donut County』に似た『Hole.io』でアプリストア首位に立った経緯がある。皮肉なことに、Voodoo自身は他社に自社のクローンをまねされるのは嫌い、別のモバイル大手を相手取ってフランスの裁判で争い、勝訴している。ウィスコンシン大学マディソン校のジェレミー・モリス教授は、こうした過剰生産を促す仕組みがもとからあった以上、AIが新しい問題を生んだわけではなく、「一人でこなせる量を増やしただけだ」と指摘する。
古い例もある。2014年、ガブリエレ・チルリさんの『2048』が、先行するインディー『Threes!』の模倣だと非難を浴びた。ただ実際には、『Threes!』を下敷きにした『1024』があり、『2048』はそれを踏まえて作られたもの。連鎖的にまねが広がるなかで、たまたま『2048』が大きく当たった。当時19歳だったチルリさんは商業目的はなかったと話し、「自分は悪者なのか」と思い悩んだ時期があったと振り返る。
ソースコードごと盗む「クローン工場」
一方で、あきらかに度を越したケースもある。モルドバのMidnight Worksは、”詐欺”と評されるほど大量のクローンをストアに流し込んできたとされる企業だ。元従業員は404 Mediaに、流行りのゲームを数か月で「そぎ落としたコピー」に仕立て、似た名前と見た目で本物と勘違いさせて買わせるのが常套手段だったと明かす。そして開発の「あらゆる工程」で生成AIを使い、バナーやスクリーンショット、UI、3Dモデルまで作らせていたという。
被害を受けた開発者もいる。ホラーゲーム『The Backrooms 1998』を手がけたSteelkrill Studioは、自作がソースコードや素材ごとほぼまるごと複製されたと語る。気づいたのは、視聴者から「自分で同じゲームを再公開しているのか」と指摘されたときだった。ファイルには、ゲームに入れていた自身の古い私的な映像まで残っていたという。この複製版はストアから削除されたが、似た手口の模倣品はいまも名前を変えて出回っているとされる。
どこまでが影響で、どこからが盗用か
ここで難しいのは、「まね」と「盗用」の線引きだ。中国のクローンゲームを研究する弁護士のマイケル・ワンさんによれば、アイデアそのものは著作権や特許では守れない。コードや素材をそっくり持ち出せば侵害と判断しやすいが、「似ているだけ」のゲームは、たとえかなり似ていても許容されることが多いという。
ゲームの歴史は、影響と模倣が地続きであることを繰り返し示してきた。『PUBG』がなければ『フォートナイト』はなく、日本映画『バトル・ロワイアル』がなければ『PUBG』もなかった、という具合だ。同じ”まね”でも中身はさまざまで、たとえばソフトウェア技術者のヴィットリオ・ロメオさんは、好きだった『Super Hexagon』のPC版が存在しなかったため、学習中の言語を使って似た作品『Open Hexagon』を自作した。原作者は「おおむね問題ない」という反応で、いまはSteamで有料公開され、プレイヤーが新しいステージを作り足すコミュニティも続いている。利益目的で粗製乱造するクローン工場とは、動機も成果物の質もまるで別物だ。
プラットフォーム側も手をこまねいているわけではない。任天堂は、安売りされがちな粗悪なゲームが上位に来ないよう、売れ筋ランキングをダウンロード数ではなく売上額で並べる方式に変えたとされる。とはいえ、いたちごっこはどのストアでも続いている。
留意点
「数時間で作れる」という見出しの数字には幅がある。今回コピーを作った本人は丸1日ほどと説明しており、他の報道では数十時間という見方もある。「経験ゼロで一瞬」というより、「以前より桁違いに速く・安くなった」と受け止めるのが実態に近い。
また、これらのコピーがすべて”違法”とは限らない。前述のとおりアイデア自体は保護されず、似ているだけでは法的にとがめにくい。コードや素材の直接的な複製は別として、模倣か盗用かの判断は個別の事情による。企業側の売上比率といった数字は自己申告や過去の記録に基づくもので、匿名の証言も含まれている点は割り引いて読みたい。AIはこの問題を”生んだ”のではなく、もともとあった構造を速く回せるようにした、という位置づけも押さえておきたい。
渦中のホルメルさんは、いまも例の回転テトリスを作り続けている。得点の仕組みをどうするか、失敗の条件を設けるか、ブロックはどう消すか——決めることは山ほどある。投稿直後の一週間は毎日のように新しいAIコピーが現れてうんざりもしたが、注目が落ち着いたいまは「急いで出すより、じっくり胸を張れるものを作れる」と話す。作る側と、まねる側と、それをさばくストア側。三者のいたちごっこに、AIという新しい変数が加わった——いま起きているのは、たぶんそういうことだ。
参考
AI Made Cloning Games Easier Than Ever(404 Media, Nicole Carpenter・2026年7月14日)


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