プロペラも脚も、モードを切り替える折りたたみ機構もない。それでいて水の中を泳ぎ、潜り、そのまま水面を突き破って空へ飛び立つ——。そんなロボット鳥をMITとスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームが作り、その成果を2026年7月9日付の科学誌『Science』に発表した。動かしているのは前後に一組だけの羽ばたく翼で、泳ぐときも飛ぶときも同じ翼を使う。
自然界にヒントがあった
アビ、カモメ、ツノメドリ、ミズナギドリ。空を飛びながら水にも潜れる鳥は、世界に約100種いるとされる。獲物を追って水にダイブし、また水面から飛び立つ、という芸当を日常的にやってのける仲間だ。チームはこの中でもツノメドリ(パフィン)の動きに注目した。空を速く飛べるうえに、水中を秒速3メートルほどで泳げる鳥だ。
ただ、これを機械で再現するのは簡単ではない。水は空気のおよそ1000倍も密度が高く、同じ翼で両方を進もうとすれば、抵抗の桁がまるで違う環境にいきなり放り込まれることになる。多くの水陸両用の設計が、水中用と空中用でハードウェアを切り替えてこの落差をしのいできた。今回のロボットは、翼を一組のまま使い切っている点が新しい。研究チームによれば、泳ぐ・潜る・飛び立つ・飛ぶという一連のサイクルを羽ばたきだけで完結させた、鳥サイズの機体はこれが初めてだという。
一組の翼で水と空気を行き来する
機体は本物の鳥をざっくり真似た形をしている。胴体に電池と防水モーターが入っていて、モーターがクランクシャフトを回し、二枚の翼を決められた速さで上下に羽ばたかせる。翼は薄い膜でできていて、水をはじく疎水性のナノ粒子をコーティングしてある。尾も動くようになっていて、角度を変えることで上昇と下降を調整する。重さは300グラムに満たない。半ポンドほどの、手に載る大きさだ。
ポイントは翼のしなやかさにある。水中では翼が受ける力が大きいため、翼がしなって曲がることで一回の羽ばたきの負担を減らす。一方、空中では同じ翼が形を保ち、機体を浮かせ続ける。羽ばたく速さも水と空気でまるで違う。空中では毎秒10回前後まで速く羽ばたけるのに対し、水中ではぐっとゆっくりになる。この使い分けは、実際の潜る鳥たちの羽ばたき方ともよく似ていた。実験では、秒速1メートル近くで泳ぎ、秒速6メートルほどで飛ぶことができた。
もう一つ効いているのが浮力の設定だ。この機体は「中性浮力」といって、放っておいても浮きも沈みもしない状態にしてある。浮こうとする力に逆らってモーターを回し続ければ、限られた電池はあっという間に尽きてしまう。浮き沈みで消耗しないようにしてあるわけだ。

いちばんの難所は「水面を突き破る一瞬」
泳ぐのも飛ぶのも、それぞれ単体ならなんとかなる。難しいのは、その境目——翼だけを使って自分の体を水から空へ押し出す、ほんの一瞬だ。鳥サイズのロボットでこれまで誰も成功していなかったのも、まさにここが理由だった。
実際にはこの跳躍を、8〜10回の羽ばたきで1秒足らずのうちにやってのける。ただし成立する条件は狭い。翼は硬すぎず柔らかすぎず、ちょうど中間の張りが必要になる。尾は短く、体に近い位置になければならない。長い尾が水中に残っていると、それが機体を下へ引き戻してしまうからだ。そして水面から飛び出す角度は70度あたりがよい。浅すぎると尾が引っかかって沈み、垂直に近すぎると後ろにひっくり返って水に落ちる。
面白いのは、この機体が足を使っていないことだ。ツノメドリやカモのような鳥は、水面から飛び立つとき翼を羽ばたかせるだけでなく足で水を蹴っている。ところがロボットで試してみると、水から飛び出すのに足で水を掻く動きは必ずしも要らないことが分かった。鳥にとっては当たり前の一手が、機械では省けたわけだ。
材料費は約300ドル、設計図は公開
翼は大きさの違う3種類(幅60・80・100センチ)を用意して付け替えられるようにし、まず小さな水槽で、続いてスイスのレマン湖(ジュネーブ湖)で試している。もっとも安定して泳ぎ・飛び・行き来できたのは、中くらいの翼だった。
材料費はおよそ300ドルで、誰でも手に入る部品でできている。チームはCADデータを公開しており、家庭用の3Dプリンターがあれば自分で組み立てることも一応できる。研究チームが思い描くのは、環境観測での活用だ。船や岸から放って、氷山や港湾施設の近く、あるいはクジラの群れの上まで飛ばし、水に潜って計測やサンプル採取をしてから飛んで戻ってデータを届ける——そんな使い方を「夢の姿」として挙げている。研究チームの試算では、移動距離がおよそ15.5メートルを超えると、泳ぐより飛んだほうがエネルギーを使わずに済むという。近ければ潜ったまま、遠ければいったん飛び上がって向かう、という選び方ができる。
留意点
この研究は査読を経た『Science』掲載の論文だが、機体はまだ原理を実証する段階のプロトタイプだ。実用機というより、「一組の翼で泳ぎから飛行まで通してこなせる」ことを示した試作機として受け止めるのが正確だろう。
現時点では自律飛行はできず、テストは手動での投入とタイマーやトリガーによる作動で行われている。試したのも水槽と穏やかな湖で、荒れた波や強い風の中、あるいは塩水での性能はこれからの課題だ。研究チームは次の目標として、自律的な航行、塩水での動作、航続距離と耐久性の向上を挙げている。ここが埋まってはじめて、湖や川、沿岸の観測といった現場に出せるようになる。実際の海で働くロボットになるかどうかは、まだこの先の話だ。
出典
Leaping out of the water: aerial-aquatic locomotion with flapping wings(Science, 論文)
New flapping robot swims and flies like a diving bird(MIT News)
A flapping robot swims and flies like a diving bird(EPFL)
First bird-scale robot to swim, dive, and launch back into flight(New Atlas)


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