毎秒25回転で景色に溶ける——ノースウェスタン大の「見えにくいドローン」

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扇風機を回すと、羽根の向こう側が透けて見える。止まっているときは板そのものなのに、速く回った途端に景色に溶けてしまう。あれと同じことを、機体まるごとでやってしまおう——というドローンが発表されました。

米ノースウェスタン大学のチームが作った「Phantom Twist(ファントム・ツイスト)」は、迷彩でも透明素材でもなく、自分自身が毎秒25回転することで見えにくくなるドローンです。7月16日、シドニーで開かれたロボット工学の国際会議 Robotics: Science and Systems 2026(RSS 2026)で発表されました。

モーションブラーという着眼点

ドローンを目立たなくする研究はこれまでもありました。周囲の色に似せる迷彩、透明な素材、光を曲げる光学系——どれも「機体の見た目を変える」方向の工夫です。

今回のチームが変えたのは、見た目ではなく見る側の仕組みのほうでした。人の目は、入ってきた光をある程度の時間ためこんでから像として認識します。カメラのシャッターを開けている時間に近い性質です。だから、その時間よりずっと速く動くものは、輪郭がぼやけて特徴を失う。写真でいうモーションブラー(被写体ブレ)が、人の目のなかでも起きているわけです。

研究を率いたマイケル・ルーベンスタイン准教授は、機体を周囲に似せるのではなく、人が動きをどう知覚するかに合わせて機体そのものを設計できないかと考えたと説明しています。回りつづけることで見えにくくする、という発想はほとんど手つかずの領域だった、とも。

一本のプロペラと逆回転する機体

ふつうのクアッドコプターは、4つのローターが回っていても、本体は空中で静止しています。プロペラは消えても、真ん中の胴体はしっかり見える。ここが弱点でした。

Phantom Twist はモーター1個、プロペラ1枚だけ。プロペラが一方向に回り、それ以外の機体全体が反対向きに回ります。静止している部分がひとつもない構造です。回転数は最大で毎秒25回。1秒間に25周というのは、扇風機の羽根と同じくらいの速さだと思えばだいたい合っています。

2万通りから絞り込む自動設計

おもしろいのは、この形をどうやって決めたかです。

チームはまず、安定して飛べる機体構成を計算モデルで約2万通り生成しました。そこにAIと最適化のアルゴリズムをかけ、モーター、プロペラ、制御基板、カウンターウェイト(重心を取るためのおもり)、バッテリーといった主要部品の配置を何度も入れ替えていきます。

有望な候補が残ったら、それが回転しながら飛ぶ様子をシミュレーションし、100種類の実際の風景に重ねる。その画像を、人の見え方に近いとされる知覚モデル(LPIPS という画像の見た目の差を測る指標)にかけて、どのくらい目立つかを採点します。背景に溶けこむ設計ほど低い点になる仕組みです。点数の低かった500案をさらに最適化にかけ、部品の位置を微調整して点を下げていきました。

設計の工程はすべて自動化されていて、条件を満たすと確信できたものだけを実際に組み立てた、とルーベンスタイン氏は述べています。

部品を重ねない配置の効果

そうしてできあがった機体は、部品が高さも角度もバラバラに、しかも間隔をあけて散らばった格好をしています。見た目はかなり不格好ですが、これが肝でした。

部品が同じ高さに並んでいると、回転したときにそれぞれの残像が同じ帯の上で重なり、濃い輪になってしまいます。高さと角度をずらしておけば、残像は薄く広がるだけで重ならない。結果として、はっきりした形ではなく、うっすら半透明の雲のようなものに見えるわけです。

共著者のエマ・アレクサンダー助教(コンピュータビジョンが専門)は、この機体はほとんどが空隙で、わずかに残る不透明な部品が背景と視覚的に平均化されるため、全体としてかすんだ靄のように見えると説明しています。

つまり、消えているのではなく、輪郭を作らせないという解き方をした——それが Phantom Twist の答えでした。採用した見えにくさの指標では、通常のクアッドコプターのおよそ10分の1という評価になっています。

想定される用途

ドローンが使いにくい場面のひとつが、「そこにいると気づかれた時点で目的が崩れる」タイプの仕事です。営巣中の鳥を観察する、湿地の生態を調べる、人が行き交う場所でインフラを点検する。機体が目に入るだけで、動物は散り、人は普段どおりに振る舞わなくなります。

見えにくいドローンなら、同じ作業を、周囲をかき乱さずに進められるかもしれない。研究チームが挙げているのは、野生動物のモニタリング、環境調査、インフラ点検といった用途です。

解釈上の留意点

英語の報道では「invisible」「nearly vanish」といった言葉が並びますが、完全に見えなくなるわけではありません。研究チーム自身が限界を挙げています。

まず、プロペラの音はそのまま出ます。目には入らなくても、耳では気づかれる。次に、機体の配線や支柱は依然としてある程度見えます。光の当たり方によっては輪郭を拾えるということです。チームは今後、より透明な素材や静かな推進方式を検討するとしています。

もうひとつ押さえておきたいのが、「10分の1」という数字の出どころです。これは人の知覚に合わせて作られた画像指標による評価で、大勢の人に見てもらってどれだけ気づかれなかったかを測った被験者実験の結果として示されているものではありません。実機を作って飛行試験まで行っている点は確かですが、見えにくさの部分はあくまで指標上の評価だと理解しておくのが正確です。

それから、この手の技術に軍事や監視への転用を思い浮かべる人もいると思います。今回の発表でそこに触れられてはいませんが、見えにくい飛行体という性質上、用途の議論は今後ついて回るはずです。

出典

プレスリリース:New spinning drone hides in plain sight(Northwestern Now、2026年7月16日)

発表論文:Computational Design of a Low-Visibility UAV Using a Human-Aligned Perceptual Metric(RSS 2026)論文PDF

関連記事:Spidery Drone Goes Near Invisible By Spinning Really, Really Fast(Hackaday)

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