日本の再使用ロケット実験機「RV-X(アールブイエックス)」が、初めての飛行試験に成功しました。2026年7月11日の早朝、秋田県の能代(のしろ)ロケット実験場でのことです。垂直に離陸して、空中で止まり、横に移動して、また垂直に降りて着陸する——飛行時間はわずか40秒ほど。数字だけ見ると小さな一歩ですが、日本のロケット開発にとっては、20年以上待った一歩でもあります。

再使用ロケットという課題
いま世界で飛んでいるロケットの多くは、1回きりの使い捨てです。何百億円もかけて作った機体を、一度打ち上げたら海に捨てる。この仕組みを変えたのがアメリカのスペースXで、同社のファルコン9は1段目を着陸させて回収し、繰り返し使うことで打ち上げコストを大きく下げました。今年7月には中国も新型ロケット「長征10号B」で1段目の洋上回収に成功しており、「ロケットは使い捨て」という前提そのものが崩れつつあります。
ロケットを再使用するには、ただ機体が頑丈なだけでは足りません。降りてくるロケットの姿勢を保ち、エンジンの推力を細かく調整しながら、狙った場所へそっと着陸させる技術が要ります。さらに、着陸した機体を点検して、燃料を入れ直して、また飛ばす——この一連の「運用」を短い間隔で回せなければ、コスト削減にはつながりません。日本はこの分野で、まだ飛行実績をほとんど持っていませんでした。
実験機RV-Xの位置づけ
RV-Xは、その穴を埋めるためにJAXA(宇宙航空研究開発機構)が三菱重工業と共同で研究してきた小型の実験機です。全長7メートルほどの機体で、液体燃料エンジンを積み、垂直離着陸の一連の流れを実際に飛んで確かめることを目的としています。
実はJAXAには、再使用ロケットの下地があります。前身の宇宙科学研究所が1990年代末から「RVT」という実験機で離着陸試験を重ねていて、垂直に上がって降りる飛行そのものは経験済みでした。ただ、その飛行試験は2003年が最後。今回のRV-Xの飛行は、JAXAの再使用ロケットとしておよそ23年ぶりの飛行試験になります。RV-X自体の研究も2016年ごろから約10年かけて進められてきたもので、地上でのエンジン燃焼試験、着陸脚の落下試験、機体を移動して燃料を入れて抜いて点検する、という運用の練習まで、飛ぶ前の準備を積み上げてきました。
もうひとつ、RV-Xには「次につなぐ」役割があります。JAXAはフランスのCNES(フランス国立宇宙研究センター)、ドイツのDLR(ドイツ航空宇宙センター)と共同で、1段再使用の飛行実験機「CALLISTO(カリスト)」を開発中です。RV-Xは、そのCALLISTOに先立って技術や運用の課題を洗い出す先行研究という位置づけで、ここで得た知見がCALLISTO、さらにその先の将来の基幹ロケットの再使用化へ引き継がれていきます。
飛行試験の結果
試験当日の流れは、JAXAの速報でこう報告されています。7月11日の午前6時14分55秒に離陸したRV-Xは、垂直姿勢を保ったまま最高で高度約11メートルまで上昇。そこから横方向へ約16メートル移動し、エンジンを噴かしながらゆっくり降下して、約40秒の飛行を終えて着陸しました。

事前の計画値は、飛行時間が約40秒、高度が10メートル程度、水平移動が15メートル程度。つまり結果は、ほぼ計画どおりでした。派手さはありませんが、「思ったとおりに飛んで、思ったとおりに降りた」ことこそが、制御技術の試験としてはいちばんの成果です。
この試験、実は当初2026年3月に予定されていました。ところが機体からケーブル類を切り離す地上設備の不具合などで直前に延期。チームは約3か月半かけて設備の改修やソフトウェアの改善、運用の訓練を重ねて、この日の飛行にこぎつけたそうです。また、記者説明会での説明によると、搭載されたエンジンはこれまでに165回もの燃焼試験をくぐり抜けてきたもので、着陸後の機体も脚のまわりの断熱材に想定内の焦げが見られる程度とのこと。「同じ機体で繰り返し飛ぶ」ための実験機らしく、データ分析と点検を経て2回目の飛行試験も検討されています。
CALLISTOと基幹ロケットへの道筋
今回の飛行はあくまで入口で、この先には段階があります。まず日仏独共同のCALLISTOが、より高い高度、さらには超音速の領域まで試験範囲を広げる計画で、2026年度中の飛行試験開始が目標とされています。そこで積んだ技術と運用ノウハウが、将来の日本の基幹ロケットの第1段再使用化につながっていく、という筋書きです。
再使用ロケットの分野では、スペースXが市場を引っ張り、中国が追い上げる構図がはっきりしてきました。そのなかで日本が自前の飛行データを取り始めた意味は小さくありません。高度11メートルは、たしかにささやかな高さです。それでも「飛ばして、降ろして、また飛ばす」というサイクルを国内で回し始めたことは、この先の開発の土台になります。
留意点
いくつか線を引いておきます。まず、今回の飛行は高度約11メートル・約40秒という、ごく低高度・低速の試験です。実際のロケットの1段目が経験する高高度からの降下や再突入とは条件が大きく違い、その領域の検証はCALLISTO以降の課題になります。また、上に挙げた数値はJAXAが試験直後に公表した速報値で、詳しい評価・解析はこれから行われる予定です。そして「再使用ロケットの実用化」までには、回収した機体を実際にもう一度飛ばし、それを低コストで繰り返せると示す必要があり、道のりはまだ長い段階です。
出典
この記事は、JAXAの発表と国内報道をもとに書いています。RV-Xの研究概要はJAXA研究開発部門の「基幹ロケットの再使用化による打ち上げコストの低減」ページにまとまっています。飛行試験の詳しい経緯はsoraeの記事やSPACE CONNECTの記事が参考になります。今後もこうした宇宙開発の話題を取り上げていく予定です。


コメント