利き手が器用なのは生まれつきではなかった——技量は練習で育つという研究

医学・健康
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右利きの人は右手で字を書くのがうまく、左利きの人は左手でうまく書ける。この「利き手のほうが器用」という感覚は、生まれつき備わっているものだと思われがちです。ところが最近発表された研究は、その器用さのほうは生まれつきではなく、使い込んだ結果として後から育っていくものらしい、という見方を示しました。

研究チームの言い方を借りると、こうなります。手が器用だからその手を使いたがるのではなく、使いたがる手だから器用になっていく——順番が逆だ、というわけです。

「好み」と「技量」の切り分け

この研究のいちばん大事なところは、ふだん「利き手」とひとまとめにしている中身を、2つに分けて考えた点にあります。

ひとつは好み。どちらの手をとっさに使いたくなるか、という傾向です。こちらは生まれる前、お腹の中にいるうちから現れることが、これまでの研究でわかっています。生物学的な根っこがある部分です。

もうひとつが技量、つまり利き手と反対の手のあいだにある「うまさの差」です。今回の研究が正面から取り組んだのは、こちらのほう。なぜ好むほうの手が、もう一方より上手にこなせるのか——長年答えの割れていた問いでした。

ひとつの有力な考えは、好むほうの体を動かす脳の側(半球)が、そもそも運動をうまくあやつるように配線されている、というものです。もうひとつは、単にそちらの手をよく使うから、うまさが積み上がっていくだけだ、という考え。研究チームが確かめたかったのは、この2つのどちらが正しいのかでした。

差が出るのは「道具を持ったとき」だけ

チームはまず、右利きの人およそ20数人に、腕を伸ばして目標に手のひらで触れる、という動作をしてもらいました。3D モーションキャプチャー(体の動きを立体的に記録する装置)で、左右の腕の動きをこまかく比べます。

ふつうに手を伸ばすだけなら、利き腕と反対の腕で、はっきりした差は出ませんでした。手首に約1.8キロ(4ポンド)のおもりを付けても、やはり差は出ません。ところが、前腕に細い棒を取り付けて、その棒の先で目標をつつく、という課題になったとたん、利き腕のほうがうまくこなすようになったのです。棒を使うと動きの軌道が複雑な曲線になり、利き手と反対の腕はその制御に手こずりました。差が顔を出すのは、道具を介したときだけだった、ということです。

もうひとつの実験は、もっとくっきりと結論を照らし出しました。11人に、両方の手でアルファベットの「A」と数字の「8」を、できるだけきれいに速く書いてもらいます。予想どおり、利き手のほうが上手でした。ところが今度は、ペンをひじに取り付けて同じ字を書いてもらうと、左右のどちらが上ということもなくなったのです。ひじは、そもそも字を書いた経験がありません。使い慣れの差が消えると、利き手側のアドバンテージも消えました。

さらに別の12人に、そのひじ書きを数時間ぶん練習してもらったところ、利き手側のひじも反対側のひじも、同じペースで上達しました。両方とも、練習すればちゃんと身につく——技量の差は、生まれつきの配線ではなく、積み重ねた練習量から来ている、と考えるほうが自然だ、という結果です。

道具を使う生き物ならではの特徴

この結果は、利き手のうまさが人生をかけて少しずつ作られていくもの、という描き方につながります。左右の非対称は、遺伝子や脳の片側にあらかじめしまい込まれているのではなく、自分たちが発明した道具を使ううちに、かたよって積み上がっていく——研究者のひとりは、利き手を「人間の道具使い文化の指紋のようなもの」と表現しています。

実用の面でも意味があります。利き手と反対の手も、練習しだいで技量を伸ばせるということは、脳卒中で手の使い勝手が変わった人や、手を失った人が、別の部位でうまく動かす力を身につけていく場面とも地続きです。もともと不利に見える側でも、練習という入り口が残されている、という話でもあります。

右利きが世界の約9割を占めるのはなぜか、という古い疑問にも、この見方はひとつの角度を与えます。複雑な体の動かし方は、多くの場合ほかの人から教わって覚えるものです。教える側と教わる側が同じ利き手だと、動きをまねしやすく、覚えるのが楽になります。周りに右利きが多いほど右利きが受け継がれやすい、という循環が働いているのかもしれません。

解釈上の留意点

この研究は査読を経てアメリカの科学アカデミー紀要(PNAS)に載ったものですが、結論をそのまま広げすぎないよう、いくつか押さえておきたい点があります。

まず、実験に参加したのはいずれも右利きの人で、人数もひと桁から20数人と多くはありません。左利きの人でも同じことが言えるのか、動作の種類が変わっても成り立つのかは、これから確かめる必要があります。研究チーム自身も、次は左利きの人や、脳卒中を経験した人、手を失った人といった、好みと練習量がずれているケースを調べたいとしています。

もうひとつ、念のため。今回わかったのは「技量の差は練習で育つ」ということであって、「どちらの手を使いたがるかという好みまで、生まれた後に決まる」という話ではありません。好みのほうは、これまでの研究どおり、生まれる前から現れる部分だとされています。生まれつきの要素がまったくない、と読み替えないように気をつけたいところです。

出典

Ahmet Arac, Nicolas Y. H. Jeong Lee, John Krakauer, “Arm dominance is an emergent effect of practice executing complex trajectory shapes required by tools and objects,” Proceedings of the National Academy of Sciences(2026年6月30日)。DOI: 10.1073/pnas.2601569123

論文(PNAS)
プレスリリース(Santa Fe Institute / EurekAlert!)
プレスリリース(UCLA Health)
解説記事(Smithsonian Magazine)

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