宇宙人は星の「回転」を盗んでいるかもしれない——高校生が出したSETIの新しい探し方

科学・宇宙
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宇宙のどこかにいる文明が作った巨大構造物を探す、という話でまず名前が挙がるのはダイソン球です。恒星をまるごと覆って、その光を残らずエネルギーに変える仮想の建造物。赤外線望遠鏡で何十年も探されてきましたが、これだと確定した例はまだひとつもありません。

そこへ、まったく別の資源に目をつけた提案が出てきました。星の光ではなく、星の回転そのものを抜き取ればいいのではないか——という発想です。書いたのはトルコ・アンカラの高校生、サヒン・トルラクジク(Sahin Torlakcik)氏。2026年7月8日、査読前のプレプリントとしてarXivに投稿されました。

ダイソン球探索の行きづまり

ダイソン球は、物理学者フリーマン・ダイソンが1960年に提案したアイデアです。エネルギーを大量に必要とする文明は、いずれ自分たちの恒星が出す光をまるごと受け止める構造物を作るのではないか、という発想でした。実在が確かめられたものではなく、あくまで仮説上の構造物です。

この構造物を探す論理はしっかりしています。星の光をさえぎってエネルギーとして使えば、使い終わったぶんは必ず熱になって外へ出ていく。だから中間赤外線で「本来より温度の低い、余計な熱」を探せばいい。1980年代のIRASから、WISE、そしてGaiaのデータを使った近年の探索まで、感度を上げながら追いかけられてきました。それでも確定した候補は出ていません。

裏を返せば、この探し方には抜け道があります。捨てる熱がごくわずかで済むようなエネルギーの取り方をしている文明がいたとしたら、赤外線の網には最初からかからない、ということです。

光ではなく回転という着眼点

星が抱えているエネルギーは光だけではありません。太陽は約25日かけて1回転していて、この回転そのものにもエネルギーが蓄えられています。論文の見積もりでは、太陽の自転による運動エネルギーはおよそ2.3×1035ジュール。

これは光に比べればずっと小さい量です。同じ10億年という時間で比べると、太陽が光として放出するエネルギーのほうが、回転に蓄えられたぶんのおよそ1億倍あります。エネルギー源として見れば、回転は明らかに「格下」です。

それでも回転を狙う理由が2つある、と論文は言います。ひとつは、必要な材料が桁違いに少なくて済むこと。星の光を受け止めるには、星を取り囲む広大な球面を埋めていく必要があります。一方、角運動量(かくうんどうりょう=回転の勢いを表す量)を抜き取るのに、面積は要りません。

論文が挙げる目安がわかりやすい。太陽の回転を10億年かけて止めるだけの力を出すには、半径1天文単位(地球と太陽の距離、約1億5000万km)の超伝導のループに700億アンペアほどの電流を流せばいい。とんでもない数字に見えますが、超伝導の電流密度で換算すると、導線の断面積は数平方メートル。もちろん支持構造も冷却も無視した概算で、論文自身も「桁を比べるための議論であって設計ではない」と断っていますが、ダイソン球の材料規模とは比べものになりません。

赤外線観測に引っかからない性質

もうひとつの理由が、観測にかかりにくいことです。ここが今回の提案のいちばん面白いところでもあります。

太陽の自転エネルギーの半分を10億年かけて抜き取ったとして、平均の出力は1018ワットほど。これは太陽が光として出しているエネルギーのおよそ1億分の1です。ケプラー望遠鏡が見ていたような約1キロパーセク(およそ3,300光年)の距離に置くと、そこから届く赤外線は、WISEが検出できる限界を何桁も下回ります。

つまり、回転を抜き取っている文明がいたとしても、赤外線探索には映らない。論文はこれを「設計上のステルス」と表現しています。代わりに何が残るかというと、たったひとつ——その星が、同じような星に比べて異常にゆっくり回っている、という事実です。

想定される3つの取り出し方

星に摩擦ブレーキを当てるわけにはいかないので、力を伝える手段は電気と磁気になります。論文は3つの道筋を挙げていますが、いずれも「原理的にありうる経路を示したもので、完成した設計ではない」と明記されています。

1つめは磁気テザー。恒星風(星から吹き出す荷電粒子の流れ)の中に電気を通す構造物を置き、磁力線を伝わる波(アルフヴェン波)と結びつけて回転の勢いを受け取ります。実は星は、自分の磁場と恒星風によって自然に自転を遅くしています(磁気ブレーキと呼ばれます)。この仕組みを人工的に強めるようなやり方です。

2つめは軌道フライホイール。1天文単位あたりの軌道に、電気をよく通す巨大なリングを置き、星の磁場との間に働くローレンツ力(磁場が電流に及ぼす力)で回転をやりとりします。論文の例では、質量1022kg——月のおよそ7分の1——のリングで、条件がうまく整えば10億年かけて数パーセントの減速。このとき捨てる熱の温度は200〜400K(Kはケルビン。0Kは約−273℃で、目盛りの幅は℃と同じ)程度と見積もられています。

3つめはシンクロトロン減速アレイ。恒星風の中に導体を列に並べて荷電粒子を光速近くまで加速すると、磁力線に沿って曲げられた粒子がシンクロトロン放射という強く絞られた電磁波を出します。放り出された放射の反作用がアレイを押し、アレイは恒星風を通じて星とつながっているので、結果として星の回転にブレーキがかかる。この方式だけは、電波やX線という自前の痕跡を残します。あとで効いてくる点です。

ケプラーのデータを使った絞り込み

提案だけで終わらせず、著者は実際に探索をやっています。

探すべきものは「同年代の似た星より遅く回っている星」。ただ、星の年齢を推定して期待される自転周期と比べる、という素直なやり方には落とし穴があります。星の年齢は自転周期から求められることが多く、そのまま使うと循環論法になってしまう。そこで著者は年齢を経由せず、色と表面重力(星の表面での重力の強さ。星の膨らみ具合を反映する)が近い星どうしを直接くらべる方式をとりました。似た者どうしのグループを作り、その中でどれだけ外れているかを見る、というやり方です。

材料は、ケプラーの観測から自転周期がわかっている34,030個の恒星カタログと、Gaiaの情報を組み合わせた恒星の性質カタログ。この2つを突き合わせ、8つのふるいにかけます。膨らんで自然に減速した準巨星、主系列(星が水素を燃やして安定して輝いている時期)を終えた星、金属量(水素とヘリウム以外の元素の割合)が低くて磁気ブレーキが効きにくい星、連星の兆候がある星などを順に外していく。残ったのが6,725個のFGK型主系列星でした。太陽もこの仲間に入ります。

浮かび上がった2つの候補

グループ内のばらつきを物差しにすると、統計的に5σを超える外れ値はゼロ。4σを超えるものが2つありました。KIC 6606183とKIC 9834255です。

自転周期はそれぞれ61日と65日。どちらも水素を燃やしている最中の主系列星で、年齢の推定値は10億年と20億年です。この年代・このタイプの星なら、ふつうは5〜10日で1回転している。46億歳の太陽ですら約25日ですから、若いのに太陽の倍以上ゆっくり回っている計算になります。もしこれを回転の抜き取りで説明するなら、回転エネルギーの95%以上が持ち去られていることになります。

ただし著者は、これを「見つけた」とは書いていません。それどころか、ふつうの天体物理で説明がつく可能性のほうを、論文の中でていねいに潰しにかかっています。

KIC 6606183は、Gaiaの測定によると金属量が太陽の4分の1ほどしかありません。もともと8つのふるいには金属量の条件も入っていたのですが、この星は元データの金属量が空欄だったせいで、ふるいをすり抜けていました。値が入っていれば落ちていた星です。さらに、星の位置の測り方にわずかなふらつきがあり、見えていない伴星がいる兆候が高い確度で出ています。表面温度が高めで、内部の対流層が薄くなり磁気ブレーキが効きにくくなる境目に近い、という事情もあります。

KIC 9834255のほうは金属量が太陽に近く、そちらでは説明がつきません。ただしGaiaの観測データに、すぐ近くの別の光源が重なっている兆候が見えています。

結局、著者はこの2つを検出とは扱わず、上限値を出す方向に切り替えました。はっきりした回転抜き取りの信号を示す星は、少なくともおよそ2,200個に1個より少ない——というのが、この探索から言えることです。

技術の痕跡を探す軸の広がり

この論文の持ち帰りは、候補天体ではなく探し方の整理のほうにあります。

文明が星から何を奪うかで分けると、光を取る(ダイソン球)、質量を取る(スターリフティング=星から物質を吸い上げる構想)、そして回転を取る。3本目の軸が加わった、という位置づけです。それぞれ痕跡の出方が違うので、探索としては互いに補い合う関係になります。

そして実務的に大きいのは、3本目を調べるのに新しい望遠鏡が要らないことです。ケプラーやTESSがすでに測った自転周期のカタログがあるので、その中から外れ値を拾い上げればいい。手持ちのデータの読み直しで手が届く範囲にあります。

もうひとつ、シンクロトロン減速アレイの方式なら電波が出ます。VLAやLOFARといった電波望遠鏡で追いかけられる。これまでのテクノシグネチャー(技術の痕跡)探索が使ってこなかった経路が、ひとつ増えることになります。

解釈上の留意点

この論文は査読前のプレプリントです。専門家の審査を通っておらず、今後内容が変わる可能性があります。

そして繰り返しになりますが、宇宙人の構造物が見つかったという話ではありません。挙がった2つの候補について、著者自身が「ふつうの天体現象で説明がつく可能性が高い」と結論しています。この2つを追いかけるには、分光観測で金属量を確かめ、視線速度を継続的に測って連星かどうかを確定させ、高解像度の撮像で近くの天体を分離する必要がある——という宿題のリストまで、論文には書かれています。

手法そのものの限界もはっきりしています。回転エネルギーを60%抜き取ってようやく、星のばらつきの1σぶんの違いが出る程度。3σに届くには94%以上を抜き取る必要があります。つまり、ほどほどに回転を借りている文明は、この方法では原理的に見つかりません。引っかかるのは、星の回転をほぼ使い切るような極端な運用だけです。

調べた範囲も広くはありません。6,725個は、Gaiaが捉えている同種の星のごく一部にすぎず、自転周期もケプラーの単一カタログに頼っています。TESSなど別の観測での裏づけが要ります。この研究は外部の資金を受けず、独力で行われたものでもあります。

最後に、書き手が高校生だという点について。著者はこれが初めての投稿ではなく、SETI(地球外知的生命の探査)で観測対象を絞り込む手法をまとめた論文が査読を通り、2026年6月に天文学の専門誌PASPに掲載されています。経歴として珍しいのは確かですが、誰が書いたかと内容が正しいかは別の話です。今回の論文も、そこは切り離して読むのが妥当なところだと思います。

出典

この記事は以下をもとに書きました。プレプリントは全文を無料で読めます。

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