いま手元にあるテレビもスマホも、映像を出しているのは液晶や有機ELのパネルだ。細かい画素がびっしり並んでいて、動く部分はどこにもない。ところが、パネルを一枚も使わずに映像を出す装置がある。AncientJamesという名前で設計を公開している製作者が作った「Scanwheel」は、細いすき間を刻んだ筒をぐるぐる回すだけで、5つの小さな画面に別々の絵を同時に映してみせる。全体は手のひらに載る大きさで、動く部品はモーターとその上の筒だけ。原理は、テレビがまだ機械じかけだった100年前とほとんど変わっていない。

スリットと残像がつくる映像
Scanwheelの心臓部は、3Dプリンタで作った筒だ。直径60mm、高さ12mm。CDのちょうど半分ほどの直径で、高さは1cmちょっとしかない。製作者はこれをドラムと呼んでいる。
このドラムの側面に、細長いすき間(スリット)が20本刻まれている。1本あたり幅0.3mm、高さ0.4mmほど。シャープペンシルの芯より細い。20本は同じ高さに並んでいるわけではなく、ドラムを1周する間に少しずつ位置が上がっていって、ちょうど1周で8mmぶん登りきる。側面の壁の厚さも0.4mmしかない。
このドラムの内側にLEDを置くと、光が外へ出られるのは、スリットがLEDの正面を通り過ぎる一瞬だけになる。ドラムが回れば、スリットが次々と目の前を通過し、そのたびに横一本の光の線が引かれる。しかもスリットの高さは1本ずつずれているので、線は下から上へ位置を変えながら20本引かれていく。この20本で1コマぶんの絵になる。あとは十分に速く繰り返せば、目の残像がつないでくれて、止まった1枚の絵として見える。
回す速さは毎分900回転ほど。1秒間に15回転なので、そのまま毎秒15コマの映像になる。

同じドラムを使い回す5つの窓
Scanwheelがうまいのは、このドラムを1つの画面のために使い切っていないところだ。
スリットはドラムの全周に散らばっている。だからドラムのまわりのどこに窓を開けても、そこには必ずどれかのスリットが通りかかるし、通りかかる順番も高さの変わり方も同じになる。つまり窓を5か所に開けて、それぞれの内側にLEDを置いてやれば、1本のドラムで5つの走査が同時に進む。動く部品を増やさないまま、表示できる面積だけを5倍にできる、ということになる。
実際のScanwheelは、9mm×8mmの窓を5つ横に並べている。小指の爪より小さい画面が5つ、という格好だ。中央の窓にはRGBのLEDを1個入れてカラー表示にし、左右に2つずつ並ぶ残り4つには白色LEDを入れて白黒表示にしている。5つの窓には、それぞれ別の絵を出せる。
走査線20本という数字の中身
縦方向の細かさはスリットの本数で決まってしまうので、20本が上限になる。いまの4Kテレビが縦2160本なので、その100分の1をさらに下回る。数字だけ見れば、かなり粗い。
ただ、横方向は事情が違う。公開されているプログラムは、Raspberry Pi Picoに載っている「PIO」という小さな周辺回路にLEDの制御をまかせている。マイコン本体の処理とは切り離して、決まったパターンの信号を高速で吐き出し続けられる仕組みだ。これを使って、横一本の線を1024段階に分けて点滅させている。
LEDは点くか消えるかの2択しかないが、点灯のまばらさで明るさを表すディザリングという手法で濃淡を作り、それをスリットの幅がほどよくならしてくれる。結果として、目には階調のあるなめらかな線として届く。製作者も、20本という走査線の数から想像するよりずっとよく見える、としている。付属のデモでは横2048段階・毎秒20コマまで上げている。
部品構成と製作上の注意点
中身は拍子抜けするほど少ない。Raspberry Pi Pico、ステッピングモーターを回すためのA4988というドライバ基板、Symbol Technologies製の21-02485というステッピングモーター、そしてLEDが5個(RGBが1個と白色が4個)。あとはモーターの電源に入れる100μFのコンデンサと、LEDごとの電流制限抵抗だけ。3Dプリントするのは台座・ドラム・ふたの3部品しかない。マイコンをPico Wにすれば、パソコンから無線で動画を流し込むこともできる。
抵抗の値は、手元のLEDに合わせて実測で決める必要がある。赤・緑・青の明るさをそろえ、さらにRGB全体と白色LEDの明るさもそろえる。しかも全部合わせて、Picoの端子から50mAを超えてはいけない。製作者の場合は赤が基準になり、120Ωで10.75mA。それに合わせて緑が260Ω、青が220Ω、白が82Ωという値に落ち着いたそうだ。
いちばん気を使うのは、やはりドラムの印刷になる。壁の厚さ0.4mm、スリットは0.3mm角ほど。小さな乱れがそのまま画面に出てしまうので、積層を細かく、速度を落として印刷する。Orca Slicerなら壁の生成方法をArachneに切り替えて、インフィルは100%。プリンタの収縮ぶんを見込んで、XY方向を100.33%に拡大しておくとちょうどよかったという。0.2mmのノズルが使えるならそちらのほうがよく、回転が安定しないときはドラムの軸にワッシャーを足して重みを増やす手もある。
ドラムはOpenSCADのモデルも公開されていて、走査線の本数やインターレースの有無、回転の向きをパラメータで変えられる。作り直して試せる形になっている。
機械式テレビの系譜
穴を並べた円板や筒を回し、絵を細い線の連なりに切り分ける——というアイデアは、テレビのいちばん最初の姿だ。ドイツのパウル・ニプコーが1884年1月6日に特許を出願し、翌1885年1月15日に「電気望遠鏡」の名で認められている。らせん状に穴を並べた円板を回すという内容だったが、ニプコー本人が実物を組み立てたかどうかは分かっていない。
この考えが実際に動く装置になったのは、それから40年ほど経った1920年代のこと。回転する円板と光る管を組み合わせた機械式テレビが、世界で最初のテレビ放送を担った。ただ当時の装置は、円板の直径が数十センチあり、家具のような大きさだった。
Scanwheelがやっているのは、同じ原理を3Dプリンタとマイコンで手のひらに収めることだ。しかも円板ではなく筒にして、全周を5つの窓で分け合っている。100年前の制約が外れると、この方式でもここまでできる。それがこの工作の見どころになっている。
工作としての位置づけ
Scanwheelは実用の表示装置ではない。個人の工作プロジェクトで、映せるのは小指の爪ほどの窓が5つぶん。回っている間はモーターの音もする。それでも、部品表も3Dモデルもプログラムも一式そろって公開されているので、同じものを組み立てられる形になっている。ソフトはMicroPython 1.28で動く。
製作の様子と、実際に映っているところは動画でも公開されている。回るドラムのすき間から小さな絵が浮かび上がる様子は、文章で読むより見たほうが早い。
出典
Scanwheel: A Pocket-Sized POV TV(Hackaday)


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