1857年に見つかった小惑星、170年目に「三つのこぶ」の姿を現す

科学・宇宙
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火星と木星のあいだに広がる小惑星帯に、通し番号44番の「ニサ(Nysa)」という天体がある。見つかったのは1857年5月、パリで私設の観測所を構えていたヘルマン・ゴルトシュミットの手による。小惑星としてはかなりの古株だ。

そのニサを、地上でも指折りの大型望遠鏡で撮り直した結果が出た。三つのこぶが二本の谷でつながった、これまでどの小惑星でも見たことのない姿だった。しかも同じ画像から、直径1kmほどの小さな衛星まで一緒に見つかっている。

論文はローウェル天文台のケイト・ミンカー氏らによるもので、7月28日にarXivで公開され、天文学の専門誌 Astronomy & Astrophysics にレター論文(速報性を優先した短い形式)として受理されている。

長らく決まらなかった輪郭

ニサは反射率がとても高く、太陽の光をよく跳ね返す。地球から見える明るさのわりに小さいというのは、つまり表面がよく光っているということで、この性質のおかげで昔から観測対象として人気があった。E型と呼ばれる分類に入り、鉄をほとんど含まないエンスタタイト(輝石の一種)に近い成分でできていると考えられている。知られているE型小惑星のなかで最大級の一つでもある。

ただ、明るさは追えても、形はずっと決まらなかった。小惑星帯にある70km級の天体は、地球から見ると視直径が0.1秒角にも届かない。空にごく小さな点として写るだけなので、望遠鏡を向けても輪郭はにじんでしまう。

それでも手がかりはあった。ニサは6時間半弱で1回転していて、回転にともなって明るさが周期的に変わる。この明るさの変化(光度曲線)を大量に集めて逆算すると、おおよその形が出る。2002年にこの方法で作られたモデルは円錐のような形になり、二つの塊がくっついた天体ではないかと言われた。ところが2006年にアレシボ天文台のレーダーで観測すると、返ってきた電波の波形は「二つに分かれた天体」とは合わなかった。くびれはありそうだが、二つには割り切れない——そういう宙ぶらりんの状態が長く続いていた。

二本の谷が区切る三つのこぶ

今回の観測に使われたのは二台。アリゾナ州グラハム山にある大双眼望遠鏡(LBT)に載ったイタリア製の装置 SHARK-VIS と、チリ・パラナルの超大型望遠鏡(VLT)に載った SPHERE の偏光カメラ ZIMPOL だ。どちらも補償光学と組み合わせて使われた。補償光学は、大気のゆらぎで乱れた光を、鏡をリアルタイムで変形させて打ち消す仕組みで、これがないと地上の望遠鏡はどれだけ口径を大きくしても像がぼやける。

2026年2月15日と3月21日に得られた画像には、表面の凹凸を示す影がいくつも写っていた。なかでも目を引いたのが、天体をぐるりと巻くように走る二本の深い谷だ。研究チームはこれを「コリ(colli)」と読んでいる。ラテン語で首を意味する言葉で、別々だった塊が接したときにできるくびれを指す。谷が二本ということは、区切られた部分は三つになる。

チームはさらに、この画像と世界各地の観測所から集めた明るさのデータを組み合わせ、ADAM というコードで立体モデルを組み直した。出てきた形は、細い首でつながった三つのこぶという読み方を支持するものだった。全体の大きさは直径にしておよそ75km。琵琶湖の南北の長さより少し大きいくらいの岩塊が、三つに分かれかけた状態で宇宙に浮かんでいることになる。

二つの塊がくっついた天体(接触連星)自体は珍しくない。アヒルのおもちゃに似た形で知られる67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星も、雪だるまのようなカイパーベルト天体アロコスも、そのなかまだ。ゆっくり近づいて、砕けずにそっと接した結果できた形だと考えられている。ただ、それが三つ連なった天体は、これまで一つも確認されていない。つまりニサは、確定すれば初めての例になる。

まぶしさの陰に隠れていた1kmの衛星

もう一つの発見は、画像処理の副産物として出てきた。

明るい天体を撮ると、その周りには散乱光のにじみ(ハロー)が広がる。ニサは反射率が高いぶんこのにじみも強く、すぐ近くに暗い天体があっても飲み込まれてしまう。そこでチームは、系外惑星を探すときに使われる高コントラスト撮像の手法を持ち込んだ。恒星の猛烈な光の脇から、その何億分の一しかない惑星の光を拾い出す技術だ。ハローを差し引いた残りを丹念に見ていくと、小さな点が残った。

本体との明るさの差は約9等級、倍率でいうと4000倍近い。表面の反射率が本体と同じだと仮定して大きさを見積もると、直径は1km前後(誤差±0.5km)になった。仮符号は S/2026 (44) 1。

この点が背景の星ではないことは、観測の組み立て方で確かめられている。ニサを画面の中心に固定したまま3時間以上追い続けても、点はニサと一緒に動き続けた。背景の恒星なら、その間にニサだけが動いて置き去りになるはずだ。同じものが2月と3月、別々の観測でそれぞれ見つかっている点も、実在を後押ししている。

本体との間隔は、2月の観測で180km、3月の観測で170kmだった。ただしこれは空に映った見かけの間隔で、実際の距離はこれ以上ある。直径75kmの本体に対して2倍強しか離れていない計算になり、比率としてはかなり近い。地球と月の距離が地球の直径のおよそ30倍あることを思えば、ずいぶん窮屈な組み合わせだ。

探査機の画像に迫った地上からの撮像

ここまでの解像を、探査機を送らずに達成しているのがこの研究のもう一つの見どころになる。ミンカー氏は、地上から得られた画像としては探査機の画質にもっとも近づいたものだろう、と述べている。装置の性能だけでなく、そのあとの画像処理を専用に開発したことが効いている。

論文の中心メンバーの一人であるアントニー・ベルドゥ氏によれば、像をさらに鮮明にする処理と、天体を取り巻く明るいハローを取り除く処理の両方が必要だった。暗い伴天体を隠しているのがそのハローだったので、形の解析と衛星の検出は、同じ処理の表と裏だったことになる。

密度が分ける二つの成り立ち

ここで衛星が効いてくる。

衛星の軌道を追えると、本体の質量が求まる。立体モデルから体積は分かっているので、質量と体積から密度が出る。そして密度こそが、ニサがどうやってこの形になったのかを分ける鍵になる。

密度が低ければ、内部は隙間だらけということになる。大昔の衝突でばらばらになった破片が、ゆっくり集まり直して寄り集まった構造だという説明が有力になる。逆に密度が高ければ、中身の詰まった一枚の岩ということになり、三つに見えるのは表面が極端にえぐられた結果だという読み方に傾く。研究チームはこの二つを並べたまま、どちらとも決めていない。

成り立ちについてはもう一つ、大きな母天体との「かすめるような衝突」の残骸だという可能性も挙げられている。いずれにしても、決着をつけるのは今回の形の画像ではなく、その脇に写り込んだ小さな光の点になりそうだ。

内側太陽系の記録としてのE型小惑星

E型小惑星が注目されるのは、成分の由来による。エンスタタイトに富む物質は太陽の近くでできたと考えられていて、地球を作った材料とも化学的な共通点がある。だからE型小惑星は、内側の太陽系がどんな場所だったかの記録を残している可能性がある。

そこには二通りの見方がある。一つは、惑星に育ちきらないまま残った原始的な材料そのものだという見方。もう一つは、いったん内部が層に分かれるところまで育った原始惑星の、外側の殻が砕けた破片だという見方だ。ニサがどちらなのかは、まさに密度が語ってくれる部分でもある。

ニサは自身の名を冠した小惑星族(似た軌道を持つ天体の一群)の最大メンバーでもあり、この一帯の歴史を読み解く起点にもなっている。1857年から見つめられてきた天体の形が、170年近く経ってようやく像を結びはじめた——それも、惑星がどう組み上がったのかという問いにつながる形で。

解釈上の留意点

受け取り方には、いくつか区別しておきたい点がある。

まず、今回の「三つのこぶ」は探査機が近くで撮った写真ではない。補償光学で乱れを補正した画像に、専用の復元処理と光度曲線のデータを重ねて組み上げた形だ。解像には限界があり、細部は処理の結果に依存する。

研究チーム自身も断定していない。ミンカー氏の説明では、もっともありそうなのは「三つがつながった天体」か「これまで見たことのないほど極端にいびつな一枚岩」のどちらかで、二つを並べたままにしている。ローウェル天文台のプレスリリースの見出しも「〜かもしれない(may be)」という言い方だ。もっとも、後者だったとしてもそんな形の天体は他に知られていないので、どちらに転んでも前例のない天体ではある。

衛星の直径1kmは推定値で、誤差は±0.5kmある。本体と同じ反射率だと仮定して明るさから逆算した数字なので、実際の反射率が違えば大きさも変わる。距離の170kmも見かけの間隔であって、軌道そのものはまだ決まっていない。質量と密度が出るのは、これから軌道が押さえられてからになる。

出典

ローウェル天文台 プレスリリース:
Asteroid (44) Nysa May Be the First-Known Three-Lobed World

論文(arXiv・A&Aレター受理版):
Minker, K. et al. “Unmasking (44) Nysa: Evidence for a trilobate structure”, arXiv:2607.25786

アリゾナ大学 ニュースリリース:
Three-lobed asteroid is a world unlike any other

解説記事(Universe Today):
The Asteroid That May Be Three Worlds

解説記事(Space.com):
1st three-headed asteroid found in our solar system — and it has a little moon

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