韓国科学技術院(KAIST)などの研究チームが、スマートフォンにLEDつきのケースを取り付けて隠しカメラを見つける技術「SweepLED(スイープLED)」を発表しました。ケースの主要部品は7ドル未満、1個の物体を調べる時間は5秒未満、30個の物体で試した検出精度は約94%です。
安さと速さが目を引きますが、研究の中心にあるのは光学の話です。カメラのレンズは、光の当たる向きが変わったときに、鏡やプラスチックとは違う跳ね返し方をします。SweepLEDはその違いを拾います。
光る点を探す従来の検出器
ホテルや民泊の部屋、トイレなどに小型カメラが仕掛けられる事件は、各国で報告が続いています。Airbnbは2024年に、掲載物件の屋内に防犯カメラを置くことを世界共通で禁止しました。ただ、禁止されたからといって仕掛ける人がいなくなるわけではないので、泊まる側が自分で確かめる道具にも需要があります。
隠しカメラを探す携帯型の検出器は、すでに市販されています。原理は単純で、怪しい物に光を当て、レンズから返ってくる明るい反射を目で探すというものです。レンズはガラスなので、正面から光を当てればきらりと光ります。
問題は、部屋の中に光る物が多すぎることです。鏡、照明器具、金属の取っ手、つやのあるプラスチック。充電器や置き時計の表面も、光を当てればどこかが光ります。その光がレンズなのか、ただの光沢なのかは、使う人が自分の目で判断するしかありません。KAISTの発表も、既存の検出器の弱点として、金属やガラス、光沢のあるプラスチックの反射をレンズと見誤る点を挙げています。
スマートフォンケースに並べた15個のLED
SweepLEDの本体は、LEDを並べた基板を組み込んだスマートフォンケースです。New Atlasの記事によると、試作機のLEDは15個。KAISTの発表では、ケースの主要部品の費用は7ドル未満(約1万ウォン)とされています。
使い方は、調べたい物にスマートフォンを向けて、数秒じっと持っているだけです。その間にケースのLEDが順番に点灯し、物体に当たる光の向きが次々に切り替わります。スマートフォンのカメラは、その様子を動画として録画します。

大事なのは、スマートフォン自体は動かさないという点です。動くのは光だけで、カメラの位置と物体の位置は変わりません。こうしておくと、録画した映像のコマごとの違いは、ほぼ「光の向きが変わったことによる反射の違い」だけになります。
見分ける手がかりは反射の変わり方
従来の検出器が見ていたのは「光っているかどうか」でした。SweepLEDが見ているのは「光の向きを変えたとき、その光り方がどう変わるか」です。1枚の静止画ではなく、時間に沿った変化を調べます。
つやのあるプラスチックや金属の表面にできる反射は、光源の向きが変わると、表面の上をすっと移動したり、消えたりします。表面で1回跳ね返っているだけなので、動き方は素直です。
カメラのレンズでは事情が違います。隠しカメラのような小さなものでも、内部には複数枚のレンズ、光の量を絞る部品(絞り)、その奥に画像センサーが重なっています。光はこの重なりの中を通って返ってくるので、光の向きを変えると、反射は単に移動するのではなく、形そのものが独特の変わり方をします。KAISTの発表はこれを、レンズ・絞り・センサーという内部構造に由来する特有の変形パターン、と説明しています。

上の図は仕組みを示した想像図で、実際の検出の流れを描いた研究チームの図は、記事末尾の出典ページで見られます。
録画した映像は、ソフトウェア側でいくつかの処理を通ります。まず手ぶれを補正する。次に、LEDが点いているコマと消えているコマを比べて、LEDの光による反射だけを取り出す。そのうえで、反射の位置と形がコマを追ってどう変わったかを、深層学習(大量のデータからパターンを学ばせるAIの手法)のモデルが判定します。複数の向きから調べた結果を組み合わせて、判定の確かさを上げる工夫も入っています。
人の目で「光る点」を探す方法だと、部屋じゅうの光る物がすべて容疑者になります。反射の変わり方まで見れば、光っていてもレンズらしくない物を外せます。誤検出の多さという従来の弱点に、正面から手を入れた設計です。
30個の物体で約94%、1個あたり5秒未満
研究チームは、宿泊施設に実際にありそうな30個の物体でSweepLEDを試しました。充電器、時計、リモコンといった日用品で、カメラを仕込んだ物と、何も入っていないふつうの物の両方が含まれます。結果は検出精度が約94%、1個の物体を調べるのにかかる時間は5秒未満でした。
この研究は、モバイルコンピューティング分野の国際会議 ACM MobiSys 2026 で、2026年6月20日に発表されました。筆頭著者はKAIST博士課程のJonghyuk Yun氏、責任著者は同大学コンピューティング学部のJun Han教授です。著者にはシンガポール国立大学(NUS)とシンガポール経営大学(SMU)の研究者も加わっています。
試作段階という現在地
数字を読むときに、押さえておきたい点があります。
約94%は、30個の物体を使った実験での値です。市販されているあらゆる隠しカメラに対する性能を保証する数字ではありません。また、94%ということは、見逃しや誤判定が数%は残るということでもあります。「反応しなかったから、この部屋にカメラはない」とまでは言えません。
調べ方は、物体を1個ずつ、です。部屋の入口から全体をひと振りで調べる道具ではなく、怪しいと思った物にスマートフォンを向けて確かめる使い方になります。
そして、SweepLEDはいまのところ研究用の試作機です。製品化の計画は発表されていません。Han教授は、低価格のスマートフォン向けハードウェアとAIによる解析を組み合わせることで、専門家でなくても使える実用的な検出技術の可能性を示せた、と述べています。示されたのは可能性であって、店で買える段階の話ではありません。
それでも、すでに誰もが持っているスマートフォンに、7ドル未満の部品を足すだけという構成は、製品にしやすい形です。専用の検出器を持ち歩く人は少なくても、スマートフォンケースなら旅行かばんに入れる必要すらありません。光る点を探すという古い方法に、光を動かして反射の変わり方を見るというひと手間を足した研究、と整理できます。
出典
KAIST develops smartphone-based technology to detect hidden cameras(KAISTによるプレスリリース、EurekAlert!掲載)
Cheap smartphone add-on pinpoints hidden cameras to shut down spies(New Atlas)


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