【オルドビス紀の生物】イソテルス – 全長72cm、最大の三葉虫は熱帯の浅瀬にいた

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名前イソテルス 学名 Isotelus(ギリシャ語で「等しい端」。頭と尾がほぼ同じ大きさであることから)
分類節足動物門・三葉虫綱・アサフス目・アサフス科
時代オルドビス紀中期〜後期(紀末の約4億4400万年前に絶滅)
発見地主に北米。米国のニューヨーク州・オハイオ州、カナダのマニトバ州など
全長種によって異なり、大型種で30〜50cm。最大はイソテルス・レックスの約72cm(幅約40cm、高さ約7cm)
体重最大種で数キロ程度と考えられる(同程度の大きさの現生カブトガニからの概算)

イソテルスは、オルドビス紀の北米の海に栄えた大型の三葉虫のなかまである。頭と尾がほぼ同じ大きさで、凹凸の少ないなめらかな楕円形の体をもつ。最大種のイソテルス・レックスは全長約72cmに達し、完全な形で見つかった三葉虫としては世界最大である。この巨体が暮らしていたのは冷たい極地の海ではなく、赤道直下の温かい浅瀬だった。

姿と暮らし

体は頭部・胸部・尾部の3つに分かれる。頭部と尾部はどちらも丸みを帯びた三角形で、大きさもほぼ等しい。属名の「等しい端」はこの形を指している。あいだの胸部は8つの節でできており、ここを曲げて体を丸めることができた。三葉虫の名の由来である縦3列の区切りはイソテルスでは浅く、殻の表面にはトゲもこぶもほとんどない。目は頭部の左右にやや盛り上がってつき、小さなレンズが密集した複眼になっている。頬の後端は、種によって丸いものとトゲが後ろへ伸びるものがある。

裏側の口の前には、ハイポストーマと呼ばれる硬い板がつく。イソテルスのハイポストーマは後ろ半分が深く二股に分かれたフォーク形で、その表面には指紋に似た細かい筋が走る。殻の本体とは別にこの板だけが化石になって見つかることも多い。

食べものについては、体の化石と同じ地層に残る這い跡や掘り跡が手がかりになっている。イソテルス・レックスを記載した研究チームは、殻の表面にコケムシなどの付着生物がほとんどついていないことと、同じ地層に大きな溝状の生痕が残ることから、体をなかば泥に沈め、海底に浅い溝を掘りながら獲物や死骸を探る捕食者・腐肉食者だったと推定した。米国シンシナティ周辺の生痕化石からは、泥の中の蠕虫(ぜんちゅう)を狙っていたという解釈も出ている。一方で、泥ごと有機物を食べる堆積物食者とみる立場もあり、食性は一つに定まっていない。

当時の北米大陸(ローレンシア大陸)は赤道付近にあり、内陸の奥まで浅い海に覆われていた。石灰質の海底にはウミユリ、腕足動物、コケムシ、床板サンゴや四放サンゴが群れをつくり、その上を直角貝などの殻をもつ頭足類が泳いでいた。魚はまだ顎のない小型のものが中心だった。

北米では古くから知られた化石で、属が記載されたのは1824年、ニューヨーク州トレントン滝の標本による。オハイオ州では1919年、デイトン近郊のハフマン・ダムの工事中に全長約37cmの完全な個体が見つかった。この標本のレプリカを博物館で見た地元の小学3・4年生が州議員に手紙を書く運動を起こし、1985年、イソテルスはオハイオ州の「州の無脊椎動物化石」に指定された。

世界最大の標本、イソテルス・レックス

最大の標本は、カナダ・マニトバ州北部の町チャーチルで見つかった。ハドソン湾に面した海岸で、現在はホッキョクグマの観察地として知られる場所である。海岸の干潟にはオルドビス紀後期(約4億4500万年前)の石灰岩が薄い層になって露出している。

この海岸では1986年にも大型のイソテルスが掘り出されており、1988年には、1986年の標本よりさらに大きな動物がつけたとしか考えられない、幅広の這い跡が岩の表面で確認されていた。巨大な三葉虫がいたことは、体の化石より先に足跡から分かっていたことになる。

1998年7月、マニトバ博物館・マニトバ大学・ロイヤルオンタリオ博物館の合同調査が行われた。調査3日目、ロイヤルオンタリオ博物館の三葉虫研究者デイビッド・ラドキンが、石灰岩の層から突き出した巨大な三葉虫の一部を見つけた。その日は潮が満ちてきて日も傾いたため作業を打ち切り、上の地層をはがして全体を取り出したのは翌日だった。

回収された標本は、頭から尾までつながった背中側の殻で、長さ683mm。尾の後端が発見前に風化で約40mm失われていたと見積もられ、生きていたときの全長は700mmを超える。それまでに記録されていた最大の完全な三葉虫より、およそ7割長い。2003年、チームはこの標本を新種として記載し、ラテン語で「王」を意味するレックスの名を与えた。全長が50cmを超える三葉虫がいたことを、疑いのない形で示した最初の標本である。実物はウィニペグのマニトバ博物館に展示されている。

巨大化の舞台は極地ではなく赤道だった

海にすむ節足動物には、冷たい海ほど大きな種が現れる傾向がある。現在の南極の海には、脚を広げると数十cmになるウミグモや、ほかの海域の近縁種よりはるかに大きく育つ等脚類・ヨコエビのなかまがいる。この現象は極地巨大化(polar gigantism)と呼ばれる。1999年に『Nature』に掲載された研究は、世界各地のヨコエビ類の最大サイズが水中の酸素量と対応することを示した。水は冷たいほど酸素を多く溶かし、体の奥まで酸素を届けやすい。大きな体を維持できる上限が酸素で決まる、という説明である。

三葉虫にも、この説明に合う例がある。2009年、ポルトガル北部アロウカの粘板岩の採石場から、完全な個体で約70cm、部分化石からの推定では90cmに達する三葉虫が複数種まとめて報告された。当時のイベリア半島はゴンドワナ大陸の縁にあって南極点に近く、報告した研究チームはこれを極地巨大化の可能性がある例としている。

イソテルス・レックスは条件が逆である。チャーチルの石灰岩は、赤道域に広がっていた大陸内の浅い海で、岸に近い場所にたまったものだった。水は温かく、溶けている酸素は極地の海より少ない。記載論文はこの標本を「低緯度での巨大化」の際立った例と位置づけ、現在の海の節足動物に広く見られる極地巨大化とは対照的だと述べている。

つまりオルドビス紀の海では、南極に近い冷たい海と赤道の温かい浅瀬の両方で、三葉虫が70cm級に育っていた。冷たい水と豊富な酸素という説明はポルトガルの巨大種には当てはまるが、イソテルス・レックスには当てはまらない。温かい浅瀬でなぜここまで大きくなれたのかについて、定説はまだない。

オルドビス紀の終わりとともに姿を消す

イソテルスを含むアサフス類は、オルドビス紀末の大量絶滅でほぼ全滅した。最大の個体が現れた時期と絶滅の時期が近いため、大きくなりすぎたことが原因だったようにも見えるが、記載論文はこの関連を否定している。

論文が原因として挙げるのは幼生の暮らし方である。アサフス類の幼生は海中を漂うプランクトン生活を送っていたと考えられている。オルドビス紀末にはゴンドワナ大陸に氷床が広がり、地球全体が急速に冷えて海面が下がった。熱帯の大陸を覆っていた浅い海は干上がり、海中を漂って育つ幼生も、浅瀬で暮らす親も、すみかを同時に失った。シルル紀の海にイソテルスの姿はない。

以下の画像はいずれも生成した想像図である。実物の標本の写真は、下の出典にあるマニトバ博物館とウォータールー大学のページで見られる。

出典

Rudkin, D. M., Young, G. A., Elias, R. J., Dobrzanski, E. P. (2003) The world’s biggest trilobite—Isotelus rex new species from the Upper Ordovician of northern Manitoba, Canada. Journal of Paleontology 77(1): 99–112

Manitoba Museum「Replicating rex」(ホロタイプ標本の展示とレプリカ制作)

University of Waterloo, Wat On Earth「The world’s largest trilobite; the Waterloo Connection!」(1986年の標本、巨大な這い跡、1998年の発見の経緯)

Chapelle, G., Peck, L. S. (1999) Polar gigantism dictated by oxygen availability. Nature 399: 114–115

Gutiérrez-Marco, J. C. et al. (2009) Giant trilobites and trilobite clusters from the Ordovician of Portugal. Geology 37(5): 443–446

Ohio Department of Natural Resources, GeoFacts No. 6「Isotelus—Ohio’s State Invertebrate Fossil」

Cincinnati Museum Center「Isotelus: Ohio State’s Fossil」

Digital Atlas of Ordovician Life「Isotelus」

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