火星の岩石から複雑な有機分子——キュリオシティが7種を初検出

宇宙・天文
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NASAの火星探査車キュリオシティが、火星の岩石から有機分子を21種類も見つけ出しました。しかもそのうち7種類は、これまで火星で一度も検出されたことのないものでした。有機分子というのは炭素を骨組みにした化合物のことで、地球で生命が生まれたときの材料と同じ種類のものです。ただし、いきなり結論を先取りしておくと、これは「火星に生命がいた証拠」ではありません。それでも、火星の昔の姿を知るうえではかなり大きな一歩になりました。

火星でこれまで見つかっていた有機物

火星の表面は、有機物にとってかなり過酷な場所です。強い放射線が降り注ぎ、地面や大気には分子を分解してしまう酸化的な物質があふれています。せっかく有機分子があっても、長い時間のうちに壊されてしまう環境なんですね。

それでもキュリオシティは、これまでにも粘土鉱物に閉じ込められた形で有機物をいくつか見つけてきました。ただ、見つかっていたのは比較的単純なものが中心でした。炭素の環がひとつだけのベンゼン類や、炭素が一本の鎖状につながったアルカン類などです。2025年には、デカン・ウンデカン・ドデカンといった「長い鎖」のアルカンが見つかり、火星で確認された最大級の有機分子として話題になりました。今回の研究は、その流れをさらに一歩先へ進めたものになります。

確認された21種と、初検出の7種

今回分析されたのは、ゲール・クレーターにある約35億年前の泥岩質の砂岩から採った試料です。ここから合計21種類の有機分子が特定され、そのうち7種類が火星では初めての検出でした。

初検出の顔ぶれには、トリメチルベンゼンやテトラメチルベンゼン、そしてナフタレン、ベンゾチオフェン、メチルナフタレンなどが並びます。ポイントは分子の「形」です。これまで見つかっていたベンゼン類は炭素の環がひとつでしたが、ナフタレンやベンゾチオフェンは環が2つつながった構造をしています。ベンゾチオフェンには硫黄も含まれます。

環が2つつながった構造というのは、それ自体が硬くて安定した部品で、もっと大きな「高分子(巨大な分子のかたまり)」の骨格になりやすいものです。つまり、こうした部品が見つかったということは、火星の岩石の中に、単純な分子がバラバラにあっただけではなく、複雑で大きな有機物のかたまりが保存されていた可能性が高い、ということになります。

岩石を薬品に溶かす初の実験

面白いのは、見つけ方そのものが新しかったことです。キュリオシティに積まれた小型の分析装置「SAM」は、これまで岩石を加熱して、出てきた気体の分子を調べる方法が中心でした。今回は、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)という薬品を使う「湿式化学」の実験を、火星で初めて実施しました。

ざっくり言うと、加熱だけでは壊れてしまったり装置にくっついて出てこなかったりする大きな分子に対して、薬品で化学的に働きかけ、特徴的な「かけら」を切り出して取り出す、というやり方です。大きなかたまりのままだと調べにくいので、分析しやすい形に加工してから読み取るイメージですね。この一手間のおかげで、これまで見えていなかった複雑な分子までとらえられました。

使われた試料は、2020年に「メアリー・アニング3」と名付けられた地点でドリルによって採取されたものです。研究チームは、そこに含まれる有機物が約35億年ものあいだ岩石の中で保存されてきたと考えています。地球で最初の生命が生まれたとされる時期に近い、とても古い時代のものです。

古代火星の環境をめぐる意味

この結果が大事なのは、厳しい放射線環境にさらされ続けてもなお、複雑な有機物が数十億年にわたって岩石の中に残っていた、とはっきり示せた点です。粘土鉱物が有機分子を包み込んで守る「金庫」のような役割を果たしていたと考えられています。

これは、大昔の火星が生命を保てるような環境だったという見方を後押しする材料になります。さらに、同じ湿式化学の手法は、これから火星へ向かうロザリンド・フランクリン探査車や、土星の衛星タイタンを目指すドラゴンフライにも搭載される予定です。今回の火星での実地テストは、そうした将来のミッションにとっての予行演習にもなりました。

解釈上の留意点

ここは慎重に見ておきたいところです。まず、見つかった有機分子が生物によって作られたのか、それとも生物とは関係のない化学反応や地質的な過程で作られたのかは、この結果からは区別できません。隕石が火星に運んできた可能性もあります。あくまで「材料がそろっていた」ことがわかった段階で、「生命がいた」とは別の話です。

もう一点、検出された分子のすべてが「火星の岩石にもともとあったもの」と確定しているわけではありません。たとえばメチル安息香酸は、実験の過程でTMAHと反応して新しく生成された可能性が指摘されています。装置内にもともと残っていた物質が混じるケースもあります。研究者のあいだでも、どれが本物の火星由来かは分子ごとに評価が分かれており、ナフタレンなどは本物らしいと見られている一方、慎重に扱うべきものもある、という状況です。派手な結論に飛びつかず、こうした前提を押さえておくのがちょうどよさそうです。

出典

Diverse organic molecules on Mars revealed by the first SAM TMAH experiment(Nature Communications, 2026)

NASA’s Curiosity Finds Organic Molecules Never Seen Before on Mars(NASA/JPL プレスリリース)

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