8年かけて星を回る褐色矮星——質量まで測れた「最長周期」のトランジット天体

宇宙・天文
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星の前を横切る(トランジットする)天体は、これまでにたくさん見つかっています。ただそのほとんどは、星のすぐ近くを数日から数十日で回る「せっかちな」天体です。ところが今回見つかったのは、8年近くかけて星を一周する、とても遠くて重い天体でした。しかもトランジットでとらえられただけでなく、重さまで測られています。名前はTOI-201 c。星になりそこねた「褐色矮星(かっしょくわいせい)」で、トランジットで見つかり質量まで確かめられた天体としては、いま知られている中でいちばん周期が長い記録になります。

そのうえこの重い天体は、遠くをぽつんと回っているだけではありませんでした。細長い軌道を描くその重力が、内側にある二つの惑星の「居場所」を作り替えていたのです。研究チームはこの並びを、あまりに出来すぎているという意味を込めて「ありえない(improbable)」系と呼んでいます。ESO(ヨーロッパ南天天文台)が率い、イタリアのINAF(国立天体物理学研究所)などが参加した国際チームの成果で、2026年6月にNatureに掲載されました。

星になりそこねた天体、褐色矮星

まず主役のTOI-201 cから。褐色矮星というのは、木星のようなガスのかたまりでありながら、恒星と呼ぶには軽すぎる、中途半端な重さの天体です。星は中心で水素の核融合を安定して燃やして輝きますが、褐色矮星はそれを続けるには軽すぎて、生まれてしばらくすると冷えていく一方になります。星になろうとして、なりきれなかった存在、という言い方がよく使われます。

TOI-201 cの重さは、木星のおよそ16倍と見積もられています。巨大惑星と褐色矮星を分けるおおよその目安は木星の約13倍とされるので、それをやや超えて、巨大惑星として説明できる上限のすぐ近くに位置する天体ということになります。この「境目にいる」性格が、あとで出てくる謎にもつながってきます。

めったに見えない、長周期のトランジット

トランジットは、惑星や褐色矮星が私たちから見て星の手前を横切るときに、星の光がほんの少し陰る現象です。この陰りをとらえて天体を見つけるのがトランジット法で、NASAの系外惑星探査衛星TESSが得意とする方法でもあります。

ただ、この方法には弱点があります。星の手前をちょうど横切ってくれる並びでないと見えないため、星から遠く、周期の長い天体ほど見つけるのが難しくなります。周期が短ければ何日かおきに何度も横切ってくれますが、TOI-201 cの周期は約2,881日、およそ8年に一度です。実際、TESSがとらえたのはたった一度きりの通過でした。こうした一回だけの通過は「モノトランジット」と呼ばれ、それだけでは軌道も正体もはっきりしません。

手がかりをもう一つ与えてくれたのが、内側を回るもう一つの天体でした。その天体が星を横切る時刻が、予想からずれていたのです。通過の時刻がずれるのは、近くに目に見えない重い天体がいて、その重力で軌道が揺さぶられているしるし。この「通過タイミングのずれ(TTV)」が、隠れた重い伴星の存在を指し示していました。

四つの手がかりで確かめた重さ

一度きりの通過だけでは、その天体の重さまでは分かりません。そこでチームは、地上の望遠鏡による分光観測を組み合わせました。重い天体が回っていると、その重力で中心の星もわずかにふらつきます。星の光を波長ごとに分けてこのふらつきを読み取ると、相手の天体の重さを見積もれます。これが視線速度法です。今回はESOのラ・シヤ天文台にあるFEROSやPLATOSPECといった分光器で、このふらつきを丁寧に測りました。

まとめると、TESSがとらえた通過、通過タイミングのずれ(TTV)、そして地上からの視線速度——複数の見方を重ねることで、遠く離れた褐色矮星の重さと軌道を初めて確定できた、というわけです。研究チームのアレッサンドロ・ソゼッティさんは、この天体を、光の通過・TTV・視線速度、そして将来公開されるガイア衛星の第4次データによる位置測定(アストロメトリ)という四つの手法で同時に特徴づけられる初めての天体だと表現しています。ガイアのデータがそろえば、褐色矮星の軌道を立体的に描き出せるようになるといいます。

同じ平面に並んだ三つの天体

ここで系全体を見渡してみます。中心にあるのは、太陽よりやや大きく重いF型の星で、かじき座の方向、約370光年先にあります。その周りを、三つの天体が回っています。いちばん外側が主役の褐色矮星TOI-201 c(約8年周期)。その内側に、木星のようなガスの惑星TOI-201 b(約53日周期。あたたかい木星という意味で「ウォームジュピター」と呼ばれます)。さらに内側に、地球より少し大きい岩石の惑星TOI-201 d(わずか5.8日周期のスーパーアース)が回っています。

この系がおもしろいのは、三つの軌道がほぼ同じ平面の上にきれいにそろっている点です(専門的にはコプラナー、つまり同一平面と呼びます)。そのうえ褐色矮星の軌道は、離心率が0.622とかなり細長い。離心率は軌道の細長さを表す数値で、0が真円、値が大きいほど細長くなります。0.622はぐっとつぶれた楕円で、この重い天体が近づいたり遠ざかったりを繰り返しながら、内側の惑星を揺さぶっていることになります。

惑星形成の常識をゆさぶる配置

従来の考え方では、木星のようなガスの巨大惑星は、星から2〜3天文単位(1天文単位=地球と太陽の距離)ほど離れたあたりで生まれるとされてきました。そして、これほど重くて細長い軌道の天体がそばにいれば、その重力がまわりをかき乱し、ほかの惑星が落ち着いて育つのを邪魔しそうに思えます。実際この系では、火星が太陽から離れているのと同じくらいの距離より外側は、褐色矮星の重力で力学的に不安定になっていました。

ところが現実には、内側にきちんと二つの惑星ができていました。チームの見立てでは、褐色矮星が外側を不安定にしたぶん、惑星たちは残された内側の狭い、そして熱い領域に押し込められる形で生まれ、生き延びたと考えられます。じゃまをするはずの重い天体が、かえって内側にコンパクトな系を作らせた——この逆説的な配置が、巨大惑星はどこでどう生まれるのかという理解をゆさぶっています。ガイア衛星の新しいデータで褐色矮星の立体的な軌道が見えてくれば、この形成の物語をさらに詰められそうです。

解釈上の留意点

一つ気に留めておきたいのは、TOI-201 cが巨大惑星と褐色矮星のちょうど境目あたりの重さだ、という点です。このため、この天体が惑星のように(星を取り巻くガスと塵の円盤の中で、芯が育っていく形で)生まれたのか、それとも星のように(ガス雲が直接縮んでできる形で)生まれたのかは、まだ決着していません。今回の研究は査読を経てNatureに載った成果ですが、こうした生い立ちの解釈は、ガイアのデータをはじめとする今後の観測で確かめていく段階にあります。

出典

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