オランウータンが葉っぱをむしゃむしゃ食べているのを見ると、「近くにあった葉を適当に選んでいるだけ」に見えるかもしれません。でも、ボルネオ島の野生オランウータンを20年以上観察してきたデータを調べ直したところ、どうもそう単純な話ではなさそうだ、という研究が出ました。抗菌・抗炎症・傷の治りを助けるといった性質をもつ植物を、ふつうの食事とは別の狙いで選んで口にしている可能性がある——というものです。
イギリスのエクセター大学などのチームがまとめ、査読付きの学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。

栄養目的を超えた植物利用
動物が、体調をととのえるために特定の植物を口にする——という行動は「自己治療(セルフメディケーション)」と呼ばれ、これまでにもいくつかの種で報告されてきました。よく知られているのはチンパンジーで、体内の寄生虫を減らす効果があるとされる植物を食べることが観察されています。ボノボ・テナガザル・ゴリラでも、似たようなふるまいが見つかっています。
オランウータンでも、印象的な例が2024年に報告されました。顔に傷を負ったスマトラの野生オランウータンが、鎮痛・抗菌・抗炎症の作用が知られる植物のつるをかみ砕き、傷口に当てるように使った、というものです。ただ、こうした話はあくまで単発の観察でした。「たまたま一頭がやっただけなのか、それとももっと広く見られる行動なのか」は、はっきりしていなかったわけです。
今回の研究は、その「もっと広く見られるのか」に、長期の食事データから迫ろうとしたものです。
観察から見えてきたパターン
調べてみると、いくつかの植物が、偶然とは思えないほど高い頻度で「セットで」食事に登場していました。しかも、そうやって組み合わせて食べられていた植物には、抗菌・抗炎症・傷の治りを助けるといった成分を含むものが目立ったといいます。
もう一つのポイントが、これらの植物の多くは、オランウータンの主食ではないという点です。日常的にたくさん食べる「ごはん」ではないのに、特定の組み合わせで、決まった順番に近い形で口にされている。研究チームは、こうしたパターンから「単なる栄養補給を超えた食べ方をしている可能性がある」と見ています。
研究を率いたエクセター大学のジョージア・アレン氏は、「現時点では、オランウータンが人間と同じように意識して自分の症状を『診断』しているとまでは言えない」と慎重に前置きしたうえで、それでも植物の選び方には栄養だけでは説明しづらい偏りがある、としています。つまり、証明されたのは「意図」ではなく「偶然では片づけにくい規則性」のほうです。
20年におよぶ行動記録という手法
この研究のもとになったのは、インドネシア・ボルネオ島の中部カリマンタンにある泥炭湿地林(でいたんしっちりん=水がたまって植物が分解しきれずに積もった、じめじめした森)で続けられてきた、20年以上にわたる野生オランウータンの行動観察です。
観察では、どの種類の植物を、どの部分(実・種・皮・果肉・芯・樹皮など)まで食べたのかが細かく記録されていました。そこに、現地に暮らす研究協力者がもつ植物の知識——どの植物が人間の間でどんな用途に使われてきたか——を突き合わせています。健康状態を直接測るのが難しい野生動物について、長年ためてきた「何を食べたか」の記録のほうから薬になりそうな植物を洗い出す、という組み立てです。
先住民の薬草知識との重なり
興味深いのは、オランウータンが選んでいた植物のいくつかが、現地の先住民が薬として使ってきたものと重なっていたことです。同じ森で暮らす人と類人猿が、結果として似た植物にたどり着いていた、という重なりは、それ自体が示唆に富みます。
この点は、先住民が受け継いできた植物の知識を守ることが、生物多様性の保全だけでなく、これからの健康・医療の研究にとっても意味を持つ、という話につながります。さらに、病気の個体をその場で捕まえて調べなくても、長期の食事記録から「効きそうな植物」の候補をあぶり出せるかもしれない、という点で、研究の進め方そのものにも可能性があります。実際に組み合わせて効果が高まるのかどうかは、これから実験室で確かめていく段階だとされています。
解釈上の留意点
心に留めておきたいのは、今回わかったのは「植物の選び方に、偶然では説明しにくいパターンがある」ということであって、オランウータンが自分の不調を理解して薬を選んでいる、と証明されたわけではない、という点です。観察データから見えた相関であり、意図や自覚までは踏み込めません。
また、なぜこうした食べ方をするのかも、まだ分かっていません。生まれつきの傾向なのか、世代を超えて受け継がれてきた行動なのか、あるいは植物の生えている場所や環境の違いが効いているのか——研究チームもそのあたりは今後の課題としています。すごい話に聞こえるからこそ、分かっている範囲と、これから確かめる範囲を切り分けておくのが大事なところです。
出典
研究のプレスリリース:Orangutans seek out medicinal plants(University of Exeter News)
論文:Georgia Allen ほか「Investigating medicinal resource combinations in the Bornean orangutan diet」, Scientific Reports. 論文ページ(nature.com)


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