翼竜の化石を守ったのは、それを分解した微生物だった

古生物学
スポンサーリンク

翼竜の骨を1億年以上も守っていたのは、皮肉なことに、その死骸を分解した微生物だった——そんな研究が発表されました。しかも化石にとっては天敵とされてきた酸素が、この保存にひと役買っていたらしい。壊すはずのものが、守るほうに回っていた、という話です。

ブラジル北東部で見つかった翼竜の翼の骨を、オーストラリア・カーティン大学を中心とする国際チームが詳しく調べたもので、査読付きの学術誌『iScience』に載っています。

空を飛んだ爬虫類の、壊れやすい骨

翼竜(よくりゅう)は恐竜と同じ時代に空を飛んでいた爬虫類で、恐竜そのものではありません。背骨のある動物のなかで最初に本格的な飛行を手に入れた仲間で、大きな種では翼を広げると12メートルに達したものもいます。

飛ぶために、その骨は現代の鳥と同じように中が空洞で、薄くて軽い。生きているあいだは都合がよくても、死んだあとは壊れやすく、きれいな形のまま残ることはめったにありません。今回の化石は、そんな翼竜の翼の指の骨(指骨)で、つぶれずに立体的な形のまま、しかも化学的な痕跡まで抱えた状態で見つかりました。1億1300万年前、白亜紀のものです。

ブラジルの化石産地と天然のタイムカプセル

見つかった場所は、ブラジル北東部・アラリペ盆地のロムアルド層。魚やカメ、ワニの仲間、翼竜などが驚くほどよい状態で出てくる、世界でも屈指の化石産地です。

ここの化石の多くは、丸い石のかたまり——炭酸塩のノジュール(団塊)——の中に閉じ込められた形で残っています。生き物が埋まった直後に、そのまわりの鉱物が固まって外界から遮断する。いわば天然のタイムカプセルで、これが中身をゆっくり守る土台になります。

分解しながら保存した微生物

研究チームは、骨を割らずに中を見るために高解像度のCTスキャンを使い、地球化学的な分析を組み合わせました。すると、密度の違う鉱物が何層も重なって空洞を埋めているのが分かった。保存が一度で起きたのではなく、いくつもの段階を踏んでいた証拠です。

その出発点が、意外にも「腐ること」でした。翼竜の亡がらが海底で分解されはじめると、微生物が組織や脂肪を食べ、まわりの化学バランスを変えていきます。この変化が引き金になって、リン酸塩の鉱物(フルオロアパタイト)が骨の内側と外側にすばやくできあがり、細かい構造が失われる前にそれを固定しました。おかげで、生きていたころ栄養を運んでいた微小な管まで、顕微鏡で今も見えるほどです。

鉱物の中には、重晶石(じゅうしょうせき)や天青石(てんせいせき)といった、硫黄を使う細菌の活動と結びつく鉱物も見つかりました。硫黄酸化細菌などの微生物が、保存に必要な化学的な条件を整える反応を回していたわけです。つまり古代の微生物は、体を分解しただけでなく、それを化石として残す手助けもしていた、ということになります。

鉱物の金庫に残された分子と、食べ物の手がかり

リン酸塩が骨を固定したあとは、方解石(ほうかいせき、カルサイト)の層が順番にできていきました。細かい粒の層、少し粗い層、そして最後は大きな結晶が空洞を埋める——という具合です。この方解石は炭素13という重い炭素が少なめで、脂肪などの有機物に由来する炭素からできたことを示していました。

こうして積み重なった何層もの鉱物が、いわば地質的な金庫のように働き、骨の中に閉じ込められた分子を数千万年ものあいだ化学的な劣化から守りました。その結果、ふつうなら数日で消えてしまう繊細な情報が残ったのです。

残っていたもののひとつが、ステロイド由来のバイオマーカー(生き物がいた証拠となる分子)でした。ステランと呼ばれる分子化石で、翼竜の化石からステロイドの痕跡が報告されたのは、これが初めてだといいます。さらにコラーゲン繊維(骨を丈夫にするたんぱく質の骨組み)の並びも残っていて、その模様は遠い親戚にあたる鳥のものとよく似ていました。

面白いのは、この分子が食べ物の手がかりにもなっていたことです。コレステロールに由来する化合物の炭素同位体を調べると、この翼竜は魚やイカのような海の生き物を食べていた可能性が高いと出ました。歯や頭骨の形から予想されていた食性とも、うまく合います。分子から食べ物が読めたのも、翼竜では初めてです。

「酸素は化石を壊す」への問い直し

この研究がもうひとつ投げかけているのが、化石の常識への問い直しです。これまで、酸素は有機物を壊す「化石の敵」と考えられてきました。ところが今回は、微生物による酸化的な働きが、むしろ保存を助けていた。壊す方向に働くはずのものが、条件しだいで守る方向に働くことがある——研究チームは、これを例外的によい化石を生む新しい仕組み(ラーゲルシュテッテン=並外れた保存が起きる特別な条件)のひとつとして位置づけています。

分子から読む古生物学の広がり

これまで化石研究といえば、骨の形を調べるのが中心でした。そこに、化学的・分子的な「指紋」まで読み取れる道が加わりつつあります。今回のような保存の仕組みが分かってくれば、同じように分子を残している化石を、ほかの産地でも見分けやすくなるかもしれません。

研究チームは、うまくいけば将来、例外的に状態のよい恐竜や翼竜の化石から、これまで手が届かなかった分子の情報を取り出せる可能性にも触れています。1億年を超えても、生き物は化学的な手がかりを残しうる。分析技術が進むほど、その手がかりを読める範囲も広がっていきそうです。

留意点

この論文は査読を経て学術誌に掲載されたものですが、調べられたのは今のところ1個体の標本です。食べ物についても、胃の中身が直接見つかったわけではなく、分子と炭素同位体からの推定にとどまります。また「将来DNAが取れるかもしれない」という話は可能性の指摘で、実際に取れたわけではありません。すごい発見ではありますが、範囲を広げすぎずに受け取るのがよさそうです。

出典

Grice et al., “Multi-staged mineralization and biomarker preservation in a 113-million-year-old pterosaur bone via local redox shifts in diagenesis”, iScience (2026)(論文本体・DOI)

This perfectly preserved pterosaur wing just rewrote the fossil rulebook(カーティン大学プレスリリース)

Microbes destroyed an ancient pterosaur’s wingbone, then preserved it for 100 million years(The Conversation・筆頭著者による解説)

コメント

タイトルとURLをコピーしました